極超音速滑空ミサイルDF-17の推定飛行性能(その2)
2019年10月1日に中国は極超音速滑空ミサイル「DF-17(東風-17)」を建国70年記念の軍事パレードで初公開しました。このミサイルは弾道ミサイル「DF-16(東風-16)」を元に開発された2段式のミサイルで、弾頭部分を極超音速滑空体(HGV)とした新兵器です。
DF-17は公開される前からアメリカに存在を察知されており、2017年11月に中国内陸部で行われたDF-17の発射実験の飛行性能がリークされ、ディプロマット紙でアンキット・パンダ氏が報じています。
このディプロマット紙の記事の文章表現から高度60kmとは最大到達高度のことではなく、弾道頂点を通過して大気圏再突入後に滑空飛行に入って以降の高度だと理解していました。その前提で1年前の当時に以下のような記事を書きました。
極超音速滑空ミサイルDF-17の推定飛行性能と対応する迎撃兵器(2019/10/8)
しかし、この前提が何かの勘違いで高度60kmとは最大到達高度のことであり、DF-17のHGVが滑空飛行に入ったのはさらに低い高度だった可能性について考えるようになりました。
論文:Analysis of Near Space Hypersonic Glide Vehicle Trajectory Characteristics and Defense Difficulties(準宇宙HGVの軌道解析、特徴と防御の難しさ)
この論文「準宇宙HGVの軌道解析、特徴と防御の難しさ」に掲載された図では、ICBM級の射程を持つHGVの想定ではありますが、最大高度120kmまで上昇してから大気圏への再突入後に高度40kmで空力操舵によるプルアップを行い上昇、下降してはまた上昇を繰り返す跳躍滑空(スキップ・グライド)を行っています。上昇と下降を繰り返す度に段々と速度を失っていく代わりに飛行距離を稼ぐ飛び方が代表的なHGVの飛行プロファイルです。
準中距離に相当する射程のDF-17の場合、ICBM級の射程を想定した計算式よりも低い最大到達高度から降下して跳躍滑空を始めるものとした場合、以下のようになります。
- 水平距離1400km
- 最大高度60km(仮定)
- 滑空高度40km前後(跳躍滑空)
- 飛行時間11分
- 平均水平移動速度マッハ6.2
- 燃焼終了時マッハ7~8(推定)
- 滑空時平均マッハ5~6(推定)
- 最終突入時マッハ3~4(推定)
HGVは跳躍滑空直後はマッハ7~8、跳躍滑空を終了し最終突入直前はマッハ3~4。HGVはこれ以上速度が遅く高度が低くなると既存の通常の地対空ミサイルでも落とされてしまうので、速度を保った状態で急降下し目標に突入します。なお飛行距離1400kmは最大射程とは限りません。わざと遠回りするような蛇行飛行を繰り返していた可能性もありえます。その場合は速力の想定はこれより速くなります。
この飛行プロファイルの想定する高度だと、最低迎撃高度70kmのSM-3迎撃ミサイルでは全く手が出せません。また最低迎撃高度40kmのTHAADでも、HGVの滑空後半では高度が下がってくるので対応できない範囲が増えてきてしまいます。既存の迎撃対応兵器は以下の通りです。
- 最大高度60km → 最低迎撃高度40kmのTHAAD
- 跳躍滑空高度40km前後 → THAAD(HGV滑空後半は対応困難)
- 最終突入時 → 大気圏内迎撃用のPAC-3、SM-6
既存の防空兵器ではミッドコース迎撃は一部には対応できますが穴が多くなります。そのため、現在アメリカ軍で開発計画が始動している極超音速兵器迎撃ミサイル(SM-3HAWK、DART、Valkyrie、HYVINT等)が必要になります。
ただし変針を繰り返すHGVをミッドコースで広域防空しようとすると、探知と追跡を常に実施していないといけません。単純な軌道を飛んで来る弾道ミサイルは探知追跡機材は数が少なくても予測は可能ですが、動き回るHGVでは予測が困難です。そこでアメリカ軍は探知追跡衛星STSS計画を一旦停止し、極超音速兵器への対応を加えたHBTSS計画を進めています。小型の探知追跡衛星を大量に低軌道に打ち上げて衛星群(衛星コンステレーション)を構成し、HGVを捕捉します。このHBTSSの情報と新型ミサイルを組み合わせてHGVの広域防空が可能となります。