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戦国時代の日本には、多くの黒人奴隷がいたのか

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
(提供:イメージマート)

 最近、X(旧ツイッター)において、戦国時代の日本では、多くの黒人奴隷が労働力として利用されていたとの説が取り上げられ、大論争となっている。この点について、取り上げることにしよう。

 15世紀末以降、スペイン人は植民地としたラテンアメリカ諸国において、先住民だけでなく、黒人奴隷を労働力として酷使した。イギリス、スペイン、ポルトガルの奴隷商人は、アフリカで黒人を捕らえ、奴隷の売買を行っていたのである。

 それは、戦国時代の我が国にも影響が及んだ。豊臣政権下の天正15年(1587)、豊臣秀吉は日本人がポルトガルの商人に売買されていることに激怒し、伴天連追放令を発した。買われた日本人は、東南アジアなどで売られたようである。

 文禄・慶長の役(秀吉による朝鮮出兵)において、朝鮮半島に出陣した武将の多くは、朝鮮人を日本に連れ帰った。彼らは家事労働や農作業などの肉体労働、特殊技能を持つ者は官僚や学者、陶工となったのである。

 ところで、黒人奴隷が使役されたのは、スペインなどの植民地である。スペインなどは、そうした植民地で彼らに農業のほか、鉱山の採掘をさせ、タダの労働力として酷使した。

 ラテンアメリカ諸国に彼らを運んでも、給料を払う必要がないので(住居や食費の負担くらいか)、メリットがあったのである。この点については、大いに注意を払う必要があろう。

 結論を端的に言えば、戦国時代の我が国において、たくさんの黒人奴隷が使役されたとの記録はないが、常識で考えるとわかることであろう。それは、我が国がスペインなどの植民地でなかった点に尽きる。

 黒人奴隷を日本に運ぶ場合、かなりの時間を要する。いかに奴隷とはいえ、船中での食料の負担が必要であるし、途中で亡くなる人もいただろう。病気になれば、治療が必要である。運搬などの調達コストが掛かるのだ。

 そのうえ、日本は植民地ではないので、日本人に黒人奴隷を買ってもらう必要があるが、かなり割高になるだろう。したがって、売れない可能性があり、黒人奴隷を日本で売るメリットがないのである。

 南蛮屏風を見ると、衣装を着た黒人の姿を確認できる。彼らは召使のような形で、我が国に来たようだ。いずれにしても、黒人奴隷を日本で売買するにはあまりに調達コストが掛かるので、現実には困難ということになろう。

 なお、いかなる理由があっても、奴隷制や人身売買は人道に反した行為であり、あってはならないことである。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『蔦屋重三郎と江戸メディア史』星海社新書『播磨・但馬・丹波・摂津・淡路の戦国史』法律文化社、『戦国大名の家中抗争』星海社新書、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房など多数。

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