サッポロさん・ファミマさん、「開拓使麦酒仕立て」発売中止から一転、2月2日発売決定へ
「LAGER」と印刷すべきところ、「LAGAR」とスペルミスしてしまったため、中身や成分にまったく問題ないにもかかわらず、2021年1月8日に発売中止が発表されていた「サッポロ開拓使麦酒仕立て」が、2月2日に発売することに決定した。1月13日17時、サッポロビールのニュースリリースで発表された。多くの人の思いを受け止めて決断してくださった、サッポロビール株式会社と株式会社ファミリーマートの皆様に深く感謝したい。
多くの人の力と思いの結集のおかげ
本件を初めて知る方のために、時系列で経緯を説明したい。
筆者は「食品ロス」を減らすための啓発活動を行っているので、スペルミスで発売中止の報道が1月8日(金)になされ、1月9日(土)からの三連休の間に、何人もの方から「もったいない」「廃棄してしまうのじゃないか」「廃棄するなんて今どきのことじゃない」「どうにかして無駄にしない方法はないのか」の声が相次いだ。
1月10日(日)午前中に、食品小売の方から「スペルミスしただけで発売中止?缶の詰め直しなどできないだろうから廃棄になりそう。どうにか無駄にしない方法はないでしょうかね」と連絡をいただいた。この時点で、筆者も、「また捨てちゃうのかな」と、半分あきらめていた。
1月10日(日)昼には「井出さん、これコメントしましょう!」と、お世話になっている方から、Yahoo!ニュースで報道されている本件について、Yahoo!ニュース個人オーサーとしてコメントをうながすようなメッセージをいただき、すぐにコメントを書いた。
1月10日(日)午後、Yahoo!ニュース個人オーサーとして書いたコメントをFacebookに投稿したところ、161人からいいね!をいただき、64件のコメントをいただいた。その中に、株式会社モルテンの広報を担当している中森真太郎さんからの
もしもわたしがこの担当者だったら、
「E」じゃなくても「Aじゃないか!」キャンペーンを展開します。
あっという間に売り切る自信ありますけどね。
つくる責任、つかう責任、果たさなくっちゃ
というコメントがあった。それを受けて、1月10日(日)17:34に
サッポロさん・ファミマさん、「EじゃなくてもAじゃないか!」キャンペーンはいかがでしょう?
という記事を書いた。
1月10日(日)夜に、その記事がYahoo!のトップページにヤフトピとして掲載された。
1月11日(祝)、元サントリーの渡辺幸裕さんが友人の方に頼んでくださり、その友人の方が、ファミリーマートの社長の澤田氏に相談してくださった。
1月12日(火)、国会議員の竹谷とし子さんが、国税庁と消費者庁に連絡し、スペルミスであっても販売することは法律上問題ないことを確認してくださった。
それを受けて、1月12日(火)20:23、
「#EじゃなくてもAじゃないか」国税庁と消費者庁は「EがAでも法律上問題なし」
という記事を書いた。
1月10日の記事以降、いつのまにか「#EじゃなくてもAじゃないか」のハッシュタグができ、多くの方が広げてくださった。
そして1月13日(水)17時過ぎ、元サントリーの渡辺幸裕さんから「再発売決定!おめでとうございます!」とのメッセージをいただいた。
多くの方の思いや力の結集のおかげで、発売中止になっていた商品の命がよみがえったと思うと、本当によかった、としみじみと思う。
この件を広げてくださったみなさま、メッセージくださった方々、サッポロビールとファミリーマートの関係者の方々、すべてに感謝申し上げたい。
表示ミスで会社に損害を与えることは担当者にとって命に関わるほどの衝撃
一連の記事には書かなかったが、パッケージのデザインや表示を担当する者にとって、その間違いが判明し、会社に損害を与えることになったときのショックは、自殺して消えてしまいたくなるくらい、大きなものである。
最初の記事で、筆者がメーカー勤務時代に版下チェックをすり抜けてしまったことを書いたが、複数回あったうちの最も衝撃だったのは、取引先である大手小売から指摘を受け、社長以下、社内の関係者全員で夜中の2時まで会社に残っていたときのことである。夕飯を食べる暇もなく、そのような気分でもなく、今にも死にそうな青白い顔をしていたのだろう。当時の直属上司が心配して声をかけてくれて、アーモンドチョコレートを差し出してくれた。家まで帰れないので会社近くのホテルに泊まったが、ほとんど寝る間もなく、翌朝5時起きで朝7時に関係するところに向かった。
版下チェックは本当に悩ましい。たった一人でやるのでは心許ないので、必然的に二人以上が同じ箇所に目を通すことになるが、そうなると今度は「別の人も見てるから大丈夫」という依存心が生まれてしまう。思い込みや固定観念が邪魔をして、「商品名は間違うはずがない」などと思ってしまう。製造者の段階で版下を改訂しても、印刷会社の段階で、なぜか前の版下と入れ替わってしまうこともある。少なくとも、命に関わるアレルゲンの情報だけは、絶対に抜けがあってはならないし、中身と外見(パッケージ)に齟齬(そご)があってはならない。
今回の件で、パッケージデザインチェックでミスを見逃してしまった方は、まさに肝を冷やす思いだったに違いない。二社の共同開発、といっても、関係性は並列ではなく、製造者より販売者の方が強いのが、昨今の食品業界の常である。さまざまな事情で販売中止を決定せざるを得なかったのではないだろうか。
もともとの出荷分は回収し、新たに発売するとのこと
ジャーナリストの堀潤さんが、1月13日21:22に、もともとの出荷分は回収するとのサッポロビール広報の回答を投稿していた。
ファミリーマート16,300店舗で販売するという膨大な量なので、出荷分の回収は少々残念ではあるが、それでも、大企業2社が、当初の決定を翻して、発売することを決めてくれたことは、コロナ禍で明るいニュースだ。回収分も、きっと「無駄にしない」対応をしてくださることに期待したい。
追記(2021年1月14日 5:17am)
Yahoo!ニュース個人編集部より、タイトルや内容が少々感情的に読めてしまうとの指摘を受け、また執筆後に得た新たな情報に基づき、以下の点を追記・変更した。
1、当初のタイトル「ヤッター!サッポロさん・ファミマさん、「開拓使麦酒仕立て」2月2日発売決定、ありがとう!」を「サッポロさん・ファミマさん、「開拓使麦酒仕立て」発売中止から一転、2月2日発売決定へ」と変更
2、表示ミスで会社に損害を与えることは、担当者が自殺しかねないほどの衝撃的なできごとである旨
3、ジャーナリストの堀潤さんが1月13日21:22にTwitterで投稿した「出荷分は回収する」というサッポロビール広報の回答
参考情報
サッポロさん・ファミマさん、「EじゃなくてもAじゃないか!」キャンペーンはいかがでしょう?(2021年1月10日、井出留美)