木質バイオマス発電は林業を救う?それとも破壊する?
昨年7月からFIT(再生可能エネルギー固定買取制度)がスタートした。再生可能な自然エネルキーで起こした電力は、定められた金額で買い取ることが義務づけられたわけだが、おかげで続々とソーラー発電や風力発電へ参入する事業体が登場していることが報じられている。
だが、深く静かに進行しているのが、木質バイオマス発電である。
事実、全国各地にバイオマス発電所設立計画が林立している。設備建設に時間がかかるので、まだ稼働したところは少ないが、2015年に本格化すると言われている。
なぜなら買取価格が、未利用木材(山に残されている木材など)で33,6円/kwhとかなり高めの金額を設定したからだ。また一般木材(製材端材や輸入木材に加えて、パーム椰子殻、稲わら・もみ殻も含む)は25,2円。この価格は、ドイツのFIT価格よりも高い。これなら採算が合うと参入計画が相次ぐわけだ。
また不況にあえぐ林業現場では、バイオマス発電用の木材により需要拡大の活路を見出そうと期待する声が強まっている。
だが、この動きは一歩間違えると非常に危険な側面がある。本格的に稼働すれば、日本の森に与える影響は非常に大きい。
まず大きな問題は、本当に常時発電を続けるほどの木材を集めることができるのか、という点だ。
資源量としては、「国内の山には、未利用木材が年間2000万立方メートル以上も眠っている」という言い方をされるが、問題は、搬出だ。
なぜなら、未利用木材とは、山から搬出するのに手間とコストがかかりすぎるから放置していたものが大半である。それを、いくら発電利用に使えるからと言って、簡単に搬出できるわけではない。仮にコストはFIT価格のおかげでなんとかなるにしても、林道・作業道が入っていない山も多く、技術的にも難しいところが少なくない。運び出しやすい場所の木材を出した後は、量を集めるのに難儀することは間違いない。
たとえば九州では、木質バイオマス発電事業が15件も立ち上がっている。そこで必要とされる木材の量は年間300万立方メートルにもなる。これだけの未利用材を毎年安定して供給できるだろうか。木材生産量日本一(北海道を除く)の宮崎県でも、年間搬出量は150万立方メートル程度である。そこに300万立方メートルも上乗せることが可能なのか。
今でも大面積皆伐が続き、禿山が増えている南九州なのに、これ以上の伐採を要求することは森林の持続性からも心配だ。また全国には50近い事業計画・構想があると言われるが、全国に禿山が広がるかもしれない。
そこで、第2の問題が姿を見せる。
33,6円/kwhという価格は、木材価格に置き直すと、1立方メートル当たり7000円から9000円になると計算されている(木材の含水率などで発電量は変化するため、正確な価格は計算しづらい)。この価格は、製紙用チップの価格よりも高い。いや、合板用や製材用の木材でも、市場の動きによっては9000円を切ることはよくある。
つまり、本来なら製紙用チップや合板など建材に回すはずの木材が、燃料用に回されるかもしれないのだ。実際、わずかな価格差で木材を仕分けしての出荷先を変えるよりも、一括してチップに加工し運ぶ方が手間も増えずに済むから、伐採業者にとってもメリットがある。
また廃材や端材ならわかりやすいが、未利用という括りは明確な基準があるわけではない。森林所有者、もしくは伐採業者が「これは建材には無理、燃料用に回す」と主張したら、異議は出にくい。そのまま通るだろう。ましてやチップにして納入すれば、誰にも区別がつかない。本当は立派な柱や板にできる丸太をチップにするケースも出てくるだろう。
しかし、長年育てた木を一瞬で燃やしてしまうような使い方が、本当によいことなのか。それで林業家は刹那的な利益は得られても、満足できるように思えない。それにFITの固定価格は20年までである。森づくりには50年以上の期間を要する。伐採跡地に再び植林して、次の世代を育てる意欲は、確実に削がれるに違いない。林業家の誇りを奪いかねないのである。
一方で、木質バイオマスの安定供給に不安を抱く業者の中には、いっそのこと、輸入材で賄うと割り切る業者も出てくるかもしれない。すでに昭和シェル石油は、川崎市に木質バイオマス発電所を建設する計画を発表しているが、そこで使う燃料は、北米や東南アジアから輸入する木質ペレットや油ヤシの殻を想定しているそうだ。最初から国内の木質バイオマスは当てにしていないわけだ。
そういえば、国内の未利用材を使って行うといいつつ、木質バイオマス発電所の多くが港周辺など臨海部に立地している。これは、国産の燃料用木材が手に入りにくくなれば、さっさと輸入バイオマスに切り替える心づもりがあるからか、と勘繰ってしまうのである。