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ドリームワークスアニメに買い手が見つかる?オスカー受賞スタジオの波乱万丈は終わるか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ドリームワークスアニメのCEOジェフリー・カッツェンバーグ(左)(写真:REX FEATURES/アフロ)

「シュレック」「カンフー・パンダ」を生み出したドリームワークス・アニメーション(DWA)に、ついに貰い手が見つかったかもしれない。お相手は、ユニバーサル・ピクチャーズとメジャーネットワークNBCを傘下にもつケーブル会社コムキャスト。DWAの現在の市場価値は23億5,000万ドルとされるが、コムキャストはそれを上回る30億ドル以上を払うつもりでいるとのことだ。

創設者でCEOのジェフリー・カッツェンバーグは、近年、スタジオを売りたがっており、日本のソフトバンクや大手おもちゃ会社ハスブロなどとも交渉を行ったが、いずれも実現に至らなかった。しかし、今回はかなり可能性があるのではないかと、映画業界関係者の多くは見ている。コムキャストにとっての利点のひとつは、DWAのキャラクターをテーマパークに使用できるということ。コムキャストは、2019年にも、北京に新たなテーマパークをオープンする予定なのだ。また、DWAは中国と「カンフー・パンダ3」を共同製作し、アニメとしては中国で史上最高のヒットを達成しており、中国進出への足がかりをもっている。

21年半前の誕生以来、DWAは、激しい浮き沈みを経験した。カッツェンバーグ、スティーブン・スピルバーグ、デビッド・ゲッフィンが創設したドリームワークスSKGのアニメ部門としてスタートした同スタジオは、2001年のCGアニメ「シュレック」を大ヒットさせ、翌年のオスカーで、初めて設立されたアニメ部門を受賞する。だが、2003年には「Sinbad: Legend of the Seven Seas(日本未公開)」が1億2,500万ドルの損失を出し、カッツェンバーグは、2Dアニメをもう作らないと決めた。その翌年には「シュレック2」が、世界で9億2,000万ドルの大ヒット。同年には株式上場をし、その後も、「マダガスカル」「カンフー・パンダ」「ヒックとドラゴン」などを次々シリーズ化させた。

年2本から3本の公開スケジュールをこなすため、L.A.と北カリフォルニアの2軒のスタジオをフル稼働させるだけでなく、2008年にはインドにも製作部門をオープン。社員待遇の良さは有名で、2010年には「Forbes」誌から、「働くのに最高の会社」の6位に選ばれている。社食では朝食とランチが無料で、ただで受けられるヨガクラス、アートや彫刻のクラスなどもあり、それらの作品を見せる社内の展覧会もある。スタジオキャンパス内にはジムがあり、医者の出張サービスがあるなど至れり尽くせりで、当時は、辞める社員が3%しかいないことを誇っていた。

しかし、2012年のホリデーシーズンに公開された「Rise of the Guardians(日本未公開)」あたりから、状況が変わってくる。1億4,500万ドルの予算をかけた同作品は、北米内で1億ドルを売り上げるにとどまり、大きな損失を出すことになった。2014年には「Mr. Peabody & Sherman(日本未公開)」と「Turbo(日本未公開)」が、やはり赤字を出す。「マダガスカル」のスピンオフということでヒットが期待されていた「ペンギンズfrom マダガスカル ザ・ムービー」も、1億3,200万ドルの製作予算に対して北米興収はわずか8,300万ドルと、がっかりの結果に終わった。

これらを受けて、北カリフォルニアのスタジオはクローズされ、2013年には350人、2015年には新たに500人がレイオフされる。L.A.のスタジオの不動産も売却し、現在は家賃を払ってとどまっている状態だ。状況を打開すべく、カッツェンバーグは、中国とのベンチャー企業オリエンタル・ドリームワークスを設立したり、インターネットテレビAwesomeness TVの51%を取得したり、Netflixにオリジナルコンテンツを提供する契約を結んだりするなど、ビジネスの幅を広げた。そういった努力の結果、最近の四半期レポートでは、2014年の最終四半期に比べ、収益が36%アップしている。

DWAがかつてのような勢いを持てなくなってきたのには、他社が続々とアニメ市場に参入し、競争が激化したことが大きい。「シュレック」の頃には、ライバルといえばピクサーくらいだったが、その後、フォックス傘下のブルースカイが「アイス・エイジ」「ブルー 初めての空へ」などをヒットさせ、ディズニーも、ピクサーの買収でジョン・ラセターを迎え入れたことをきっかけにアニメ部門を見事にテコ入れして、「アナと雪の女王」を記録的成功に持ち込んだ。遅れて参入したワーナー・ブラザースも、6,000万ドルで製作した2014年の「LEGO(R)ムービー」を全世界で4億6,900万ドルのヒットに導き、ユニバーサル傘下のイリュミネーション・スタジオも、「怪盗グルーの月泥棒」のスピンオフ「ミニオンズ」で、なんと11億ドルを売り上げている。

コムキャストがDWAを買収した場合、すでに抱えるイリュミネーションとの兼ね合いがどうなるのかも、気になるところだ。一部では、イリュミネーションとDWAは統合され、イリュミネーションのクリス・メレダンドリがトップに就任して、カッツェンバーグは退くのではないかとの推測も流れている。だが、二社はあくまで話し合っている段階。このニュースが出てしまったせいで、話し合いがややスローダウンしたとの報道も出ている。カッツェンバーグの苦労の日々は、まだ終わったとは言えない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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