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TOBE所属「IMP.」の成功は、日本の音楽のデジタルシフトの号砲になるか

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:IMP. 公式YouTubeチャンネル)

滝沢秀明さんが立ち上げた新会社TOBEから、「IMP.」が新曲「CRUISIN’」を配信開始し、話題になっています。

配信を開始したのは8月18日の日付が変わったタイミングで、配信からしばらくしてすぐにツイッター(現X)で「#CRUISIN」が日本トレンド1位に。

さらに配信から14時間ほどで、YouTubeにアップされたミュージックビデオは100万再生を突破。この記事を執筆している時点で既に200万を超え、人気急上昇ランクの音楽部門でもTWICEに続く2位に入っています。

参考:滝沢秀明氏TOBEのIMP.デビュー曲『CRUISIN’』 42時間でMV200万再生「最高の船出」「このまま世界へ」の声

YouTubeのMV100万回再生のペースの参考記録としては、2021年8月にBE:FIRSTのプレデビュー曲として公開された「Shining One」が6時間で、昨年4月にリリースされた、なにわ男子の「The Answer」が13時間となります。

BE:FIRSTの「Shining One」は、日テレでも放送されていたオーディション番組「THE FIRST」の勢いそのままのプレデビュー曲でしたし、なにわ男子の「The Answer」は既に知名度があがっていたタイミングでの2ndシングル収録曲でした。

そう考えると、「IMP.」が新事務所TOBEからのデビュー曲で、この水準の記録を達成したというのは間違いなく快挙と言えるでしょう。

参考:なにわ男子、MV公開1日経たず100万回再生突破 新曲「The Answer」に注目集まる

デビューの2日前にアップされたYouTubeの動画も、80万再生を超えているのも印象的です。

おそらくは、おなじTOBEの所属アーティストである平野紫耀さんや神宮寺勇太さん、三宅健さんのファンも応援している結果と考えられますが、まずは大成功と言えるでしょう。

音楽ストリーミングサービスにも注力

今回の「IMP.」のデビューに関しては、事務所の代表である滝沢秀明さんや「IMP.」のメンバーが元ジャニーズ事務所所属ということで、当然ながらジャニーズ事務所との比較が注目されがちですが、ここで特に注目したいのは「IMP.」のデビューの方式が文字通りデジタルファーストにシフトしている点です。

これまで、ジャニーズ事務所は、CDセールスが売上の中心になっていると言われており、その影響でデジタル対応は遅れていると言われてきました。

これがある意味、日本の音楽市場のガラパゴス化のシンボルになっています。

(出典:ABEMA Prime YouTubeチャンネル)
(出典:ABEMA Prime YouTubeチャンネル)

参考:【音楽】世界を獲れる?アニソンとTikTokのバイラルが重要?ガラパゴスってダメ?YOASOBIブレイクで考える

象徴的なのが、音楽のストリーミング配信への対応状況でしょう。

YouTube配信こそ、ほとんどのジャニーズ事務所の所属アーティストが実施するようになってきましたが、実はSpotifyやLINE MUSICなどの定額制音楽ストリーミング配信には、未だにほぼ楽曲を提供していないのが現状です。

もちろん、米国の「キャピトル・レコーズ」からデビューしたTravis Japanと、活動休止時にストリーミング配信に対応した嵐など、一部の例外はありますが、基本的にはまだジャニーズ事務所自体がストリーミング配信への対応を様子見している状態と言えます。

それに対して、今回滝沢秀明さん率いるTOBEは、明確に音楽ストリーミング配信への対応を強化しているのが印象的です。

象徴的なのが今回「CRUISIN'」のリリースにおいて、音楽ストリーミングサービスでのアーティストページフォローキャンペーンを展開する点です。

参考:音楽ストリーミングサービスアーティストページフォローキャンペーン開催決定!

配信プラットフォームもApple Music、Spotify、LINE MUSICと幅広く展開。

このアプローチが成功すれば、今後ジャニーズ事務所のアーティストのストリーミング配信への対応姿勢にも影響が出ることも十分考えられるでしょう。

TikTok経由の拡がりも意識

また、今回の楽曲「CRUISIN'」で非常に印象的なのは、明らかにTikTok経由で話題にするための要素を組み込んでいるところです。

冒頭のダンスの要素は明らかに、TikTokで踊ってみてもらうための振り付けですし、実際にTikTokには「IMP. 「CRUISIN'」 DanceChallenge」という、ダンスチャレンジ用の名称で楽曲がアップされています。

(出典:TikTok 「CRUISIN'」楽曲画面)
(出典:TikTok 「CRUISIN'」楽曲画面)

まだリリースから2日ということで、それほどダンスの動画はあがっていませんが、TikTokでのダンスを軸に海外のファンへの拡がりを狙っているのは明白でしょう。

これまで日本のアーティストの楽曲が海外でヒットする背景にTikTokの影響が大きかった事実もありますので、TOBEがTikTokを海外のファンに知ってもらうための入り口として選択するのも当然と言えると思います。

参考:「オトナブルー」のトレンド大賞獲得にみる、時間を越えてヒットを生むTikTokの可能性

今回の楽曲の作曲陣は全員が韓国勢だそうですし、グローバル展開を意識しているからこそのアプローチと考えられます。

参考:滝沢秀明氏TOBE所属のIMP. 好評デビュー曲『CRUISIN'』の作曲陣は全員が韓国勢 グローバル展開を念頭か

テレビ局も「IMP.」のデビューを報道

また、今回もう一つ印象的だったのは、ジャニーズ事務所のライバルとなったTOBEからデビューした「IMP.」のデビュー曲について、多くのテレビ番組で報道されていた点です。

SMAP解散後に、ジャニーズ事務所を退所した「新しい地図」のメンバーは、しばらくテレビに出演することができず、公正取引委員会が問題提起するほどの騒動になりましたし、多くのジャニーズ事務所を退所したメンバーは、しばらくの間テレビには出られないというのがこれまでの日本の「常識」でした。

参考:元SMAPの3人めぐって…公正取引委員会がジャニーズ事務所を「注意」した真意とは

しかし、ジャニー喜多川氏の性加害問題の影響もあり、テレビ局のジャニーズ事務所への忖度も、ここに来てかなり少なくなってきたと言えるのかもしれません。

今後、TOBEからは、元キンプリのメンバーで圧倒的な人気を誇る平野紫耀さんや神宮寺勇太さん、そして三宅健さんの再デビューも期待されます。

今回の「IMP.」のリリースに対するテレビ局の対応を見る限り、案外、TOBEに移ったアーティストのテレビ番組出演は早期に実現するかもしれません。

日本の音楽業界がデジタルシフトをするきっかけになるかも

なお、今回の「IMP.」の「CRUISIN'」がロケットスタートに成功したことを考えると、TOBEは引き続き同様のデジタルシフトを行った方式で、他のアーティストのリリースを支援することになるでしょう。

既に、YOASOBIや、SKY-HIさんが率いるBMSG所属のBE:FIRSTやMAZZELが、日本の先頭を切ってデジタルシフトを行ったSNS活用やファンとのコミュニケーションを実施しており、アーティストの写真や楽曲の動画のシェアを許可したり、ファンによる歌ってみた、踊ってみた動画を推奨したり、と様々な取り組みをして成功されています。

参考:BE:FIRSTは日本の音楽業界のSNS活用に革命を起こすかもしれない

ここに来て、ジャニーズ事務所出身のTOBEのメンバーが、同様に音楽におけるデジタルシフトを行って成功すれば、日本の音楽業界全体における重心が、CDなどのフィジカルから、ストリーミングなどのデジタルにシフトするきっかけになるかもしれません。

まずは「IMP.」の今後の活躍に注目したいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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