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「オトナブルー」のトレンド大賞獲得にみる、時間を越えてヒットを生むTikTokの可能性

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:新しい学校のリーダーズ公式ツイッター)

TikTokの2023年上半期のトレンド大賞が発表され、新しい学校のリーダーズの楽曲である「オトナブルー」が大賞を受賞しました。

「オトナブルー」といえば、サビの箇所で首を左右に動かす「#首振りダンス」が話題となりましたが、実はライブパフォーマンスの様子を映したTikTok動画から人気に火がついたそうで、TikTokでのこの楽曲を使用した動画の総再生回数は31億回を突破しているというから凄まじいです。

参考:「TikTok上半期トレンド大賞2023」大賞は「オトナブルー」(新しい学校のリーダーズ)に決定!

31億というと桁が多すぎて凄さが逆に分からなくなるかもしれませんが、昨年、TikTok上半期トレンド大賞2022を受賞した広瀬香美さんの「ロマンスの神様」の楽曲を使用した動画の再生回数が16億回、TikTok流行語大賞2022の大賞を受賞した「それでは聴いてください、チグハグ」が12億回です。

「オトナブルー」の31億回が、TikTokの中でも圧倒的に凄い数値だということが分かると思います。

参考:TikTok大賞にメタバース降臨。30周年を超えて輝く広瀬香美の凄さ

ここで注目したいのは、実は「オトナブルー」がリリースされたのは今年ではなく、3年前の2020年5月1日だったという点です。

海外で先行してヒット

「オトナブルー」と新しい学校のリーダーズのブレイクの歴史を見ていくと非常に興味深いのが、海外で先に評価が高まっている点です。

新しい学校のリーダーズの結成は2015年。アソビシステムやテレビ朝日ミュージックなどの合同マネジメントで生まれたグループだそうで、当時のメンバーの年齢は1人が16歳の高校2年生、他3人は13歳の中学2年生だったそうです。

2017年にはビクターエンターテインメントからシングルを発売。

2020年にも「オトナブルー」を含め新曲を3曲連続リリースされています。

参考:新しい学校のリーダーズ、yonkey作の新曲皮切りに3曲連続リリース

そんな新しい学校のリーダーズの方向性が、明確に海外に拡がったのが2020年11月。88risingというアジア発のアーティストに強いレーベルと契約し、ATARASHII GAKKO!として世界デビューを果たすわけです。

参考:新しい学校のリーダーズ、<88rising>から世界デビュー 海外名義はATARASHII GAKKO!

その後、TikTokでの発信も強化し、2021年3月にはTikTokのフォロワー数が100万人を突破。

海外で先に人気に火がつき、2022年8月には、サンフランシスコやロサンゼルスでワンマンライブを成功されているのです。

そして、今年1月に入り、2020年発売の楽曲である「オトナブルー」の首振りダンスがTikTokで話題となり、一気に日本での注目度も高まる形になるわけです。

その結果、リリースから3年近くたった2023年3月に、YouTubeにオフィシャルビデオのフルバージョンがアップされるという展開になります。

Googleトレンドの、米国における新しい学校のリーダーズについての検索数のグラフがこちらになります。

(出典:Googleトレンド 米国での「新しい学校のリーダーズ」検索数推移)
(出典:Googleトレンド 米国での「新しい学校のリーダーズ」検索数推移)

下記の日本における検索数のグラフと比べると、検索数のピークが2022年8月のライブにあり、日本でのブレイクの前にあることが良く分かると思います。

(出典:Googleトレンド 日本での「新しい学校のリーダーズ」検索数推移)
(出典:Googleトレンド 日本での「新しい学校のリーダーズ」検索数推移)

日本で検索数のピークとなっているのは、YouTubeチャンネルの「THE FIRST TAKE」に「オトナブルー」の動画が公開され、週刊動画再生数ランキングで1位になったタイミングになります。

現在では、新しい学校のリーダーズのTikTokアカウントのフォロワー数は630万人と日本の女性アーティストの1位になっています。

昨年から海外で注目されていた新しい学校のリーダーズですが、日本では、今年に入ってTikTok経由で多くの人たちに「オトナブルー」が知られるようになり、テレビ番組や「THE FIRST TAKE」に露出することで、一気に多くの人に知られるようになったということのようです。

TikTokで続く楽曲の時間差での大ヒット

従来であれば、その年の顔に選ばれるような楽曲は、当然その年にリリースされた楽曲であるのが普通でした。

しかし、TikTokの面白いのは、今回の「オトナブルー」に見られるように、何らかの動画がきっかけになり、リリースされたタイミングを問わずに楽曲が大きな話題になる可能性がある点です。

2022年上半期のトレンド大賞に入った広瀬香美さんの「ロマンスの神様」が28年の時を超えて話題になったのも象徴的ですが、「オトナブルー」のように過去に大きなヒットになっていない楽曲がTikTokで「発見」されるようになっているのも大事なポイントです。

実際に、昨年音楽ストリーミングサービスのSpotifyで、23の国と地域で1位を獲得して注目された藤井風さんの「死ぬのがいいわ」も、実はリリースから2年経って、タイのTikTokユーザーの間でブレイクしたことが起点となっています。

参考:藤井風「死ぬのがいいわ」の世界的ヒットは、日本のアーティストの海外への扉を開くか

また、デビュー2年目でグローバルチャート112位まではいり注目されているimaseさんの「Night Dancer」も、2022年8月にリリースされた楽曲が、今年に入りTikTokのダンスチャレンジなどの影響もあり5月頃から世界中で聞かれるようになっているようです。

参考:imase、なぜ海外で最も勢いを伸ばす日本人アーティストになり得たのか 「NIGHT DANCER」にも表れる素朴と洒落のバランス

特にimaseさんは、文字通りTikTok生まれのアーティストで、まずサビを作ってTikTokに投稿し、反応が大きかったものをフル尺にするという楽曲の作り方をされているそうです。

参考:imase 音楽経験ゼロでTikTok開始、7カ月でメジャーデビュー

また、現在も大ヒット中のYOASOBIの「アイドル」も、今回はTikTokに複数のパートをアップするなど、TikTok経由の話題の拡がりを意識することで、リリースから2ヶ月経った今も、着々とグローバルチャートのランクをアップするという異次元の大ヒットにつなげていると言えるかもしれません。

参考:YOASOBI「アイドル」国際チャート1位の快挙に学ぶ、日本の音楽が世界で勝つ方法

こうした事例は、今後もますます増えていくはずです。

TikTokは日本の音楽の世界への扉になる

こうしたTikTok経由で大きなヒットが生まれる傾向は、日本だけの話ではありません。

韓国においても、4人組ガールズグループ「FIFTY FIFTY」が中小規模の事務所の新人にもかかわらず、新曲「Cupid」がYOASOBIと同様の国際チャートで1位を獲得することに成功していますが、この背景にもTikTokでのヒットがあったそうです。

TikTokで話題になることが、音楽がヒットするための1つの要素になっているとも言えますし、藤井風さんやimaseさんの成功からは、TikTokというプラットフォームを通じて、日本の音楽は世界に認めてもらえることが明確になりつつあるとも言えます。

また、新しい学校のリーダーズのように、日本よりも先に海外で評価され、その評価が日本にTikTok経由で逆輸入されるケースも今後増えてくるかもしれません。

まだまだ日本には世界に知られていない素晴らしい楽曲がたくさんあります。

これからも、様々なアーティストが新しい学校のリーダーズの成功に続いていくことを楽しみにしたいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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