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【鈴鹿10時間耐久】ニュル24時間優勝チームやワークスドライバーなど世界の猛者が鈴鹿に集結!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
ニュル24時間を制したマンタイ・レーシングのポルシェ911GT3R

初開催となる新耐久レース「鈴鹿10時間耐久レース」(通称SUZUKA 10H)がいよいよ三重県・鈴鹿サーキットで開催される。距離制レースだった伝統の「鈴鹿1000km」に代わり、8月26日(日)午前10時スタート、午後8時ゴールという10時間耐久フォーマットで開催される今大会。海外チームを含む35台のマシンで争われる夏の耐久レースを制するのは一体どのマシン、どのチームだろうか。

国内外から全35台が挑む【写真:MOBILITYLAND】
国内外から全35台が挑む【写真:MOBILITYLAND】

久しぶりとなる世界との交流戦

全4戦で開催される「インターコンチネンタルGTチャレンジ」の第3戦として開催される「SUZUKA 10H」。このシリーズのメインカテゴリーであるFIA-GT3規定のマシンに加え、日本開催の「SUZUKA 10H」にはSUPER GT/GT300クラスを戦うJAF-GT車両も参戦する。海外の耐久レースを転戦するチームと国内のレーシングチームがいわば同じ土俵で戦うという、近年の国内レースイベントではなかなか無かった構図のレースだ。

【インターコンチネンタルGTチャレンジ 2018】

2/4 バサースト12時間

7/28-29 スパフランコルシャン24時間

8/26 鈴鹿10時間

10/28 カリフォルニア8時間(ラグナセカ)

全4戦

「インターコンチネンタルGTチャレンジ」に自動車メーカーとして年間参戦するのは、アウディ、ベントレー、マクラーレン、メルセデスAMG、ポルシェの5メーカー。その中で今季のマニュファクチャラーズ選手権(メーカー選手権)をリードしているのがアウディ(68点)、次いでメルセデスAMG(61点)、ポルシェ(37点)と続いている。

FIA-GT3規定のGTカーをユーザーに販売する自動車メーカーとしては「インターコンチネンタルGTチャレンジ」の成績はマーケティング上も非常に重要。負けられない戦いとなる。そのため、日本開催の「SUZUKA 10H」には数多くのトップドライバー、GTカーの名手たちがエントリーしてきた。各メーカーを代表する、かなり豪華なラインナップが揃ったと言えよう。

鈴鹿10時間耐久レース エントリーリスト

ニュル24時間のウイナー、マンタイが登場!

まず、豪華なドライバーラインナップを敷いてきたのはポルシェだ。ポイントランキングではアウディとメルセデスAMGに大きく水を開けられているものの、最終戦に繋げる重要なレースとして位置付け、「SUZUKA 10H」でもワークスドライバーを起用する。

ポルシェのトップチームと言えば、ポルシェ911にちなんだエースナンバー「911」をつける「#911 マンタイレーシング」。ニュルブルクリンク24時間レースを幾度となく制してきた名門中の名門GTチームだ。今年、マンタイは2011年以来7年ぶりにニュル24時間で優勝を飾り、スポーツカー製造70周年の記念すべき年に華を添えた。また、マンタイはWEC(世界耐久選手権)のGTE-Proクラスでも、ポルシェのワークス活動を担った実績があり、最もプライオリティが高いチームと言える。ここに、日本にもファンが多いフレデリック・マコヴィッキィ、そしてル・マン24時間総合優勝経験もあるロマン・デュマらが乗る。

マンタイ・レーシング
マンタイ・レーシング

また、香港がベースのアジアチーム「#991 クラフトバンブーレーシング」にはチームのレギュラードライバーに代わって3人のポルシェワークスドライバーを起用。今年、ル・マン24時間でピンク色のポルシェ911RSRをGTE-Proクラス優勝へと導いたローレンス・ヴァンスールケビン・エストレの2人が鈴鹿を走ることになった。さらに国内GTチームの「#7 D’station Racing」には昨年のWECワールドチャンピオン、アール・バンバーを送り込む。ニュルの優勝チーム、ル・マンの優勝ドライバーというワークスドライバーたちの走りが見れるのは何とも贅沢だ。

メルセデスも豪華ワークスに

首位のアウディを7点差で追うメルセデスAMGはヨーロッパの耐久チーム「ストラッカレーシング」が3台体制でエントリー。そのうち、ワークス体制とも言える「#43 Mercedes-AMG Team Strakka」には元DTMドライバーのマキシミリアン・ゲーツ、F1まであと一歩のところまで行ったアルバロ・パレンテを起用して挑む。

そして、香港を拠点とする「グループMレーシング」は「Mercedes-AMG Team GruppeM Racing」としてワークスチーム化し、元F1テストドライバーのラファエル・マルチェロ、元インディカードライバーのトリスタン・ヴォーティエ、フォーミュラEで活躍中のマロ・エンゲルと盤石のラインナップだ。

メルセデスワークスドライバーを起用する888号車「グループMレーシング」
メルセデスワークスドライバーを起用する888号車「グループMレーシング」

さらに国内チームでSUPER GT/GT300クラスのチャンピオン「グッドスマイルレーシング」も強力なサポートを受け、「#00 Mercedes-AMG Team GOOD SMILE」として参戦。谷口信輝片岡龍也のチャンピオンコンビに加えて、元F1ドライバーの小林可夢偉を起用し、国内勢で最も注目度の高い体制となっている。

アウディの速さに警戒

ランキング首位のアウディは今季、FIA-GT3マシンの中では非常に好調。7月に開催されたブランパンGTアジアの鈴鹿大会でも安定した速さを見せていたため、アウディは要注目の存在である。

アウディからはバサースト12時間を制したベルギーのトップチーム「WRT」が最有力で「#66 AUDI SPORT Team WRT」に若干19歳にしてアウディワークスドライバーの地位を得た注目のGTドライバー、ドリス・ヴァンスールを起用。また、WRTに限らず、他チームにもマルクス・ウィンケルホックアレッシオ・ピカリエッロらのアウディワークスドライバーを派遣し、アウディ全体でのマニュファクチャラーズポイント大量獲得を狙う。

優勝候補の#66 AUDI SPORT Team WRT
優勝候補の#66 AUDI SPORT Team WRT

チャンピオンを争うアウディ、メルセデスAMG、ポルシェというドイツのメーカーの強力な布陣はメンバーを見ただけでも激戦を予感させてくれるのだ。

ドライでは日産GT-Rが首位

海外のトップチームを迎え撃つ日本勢はどうだろうか。ホンダNSX GT3で挑む「#10 Honda Team MOTUL」にはSUPER GT/GT500のドライバー、山本尚貴武藤英紀中嶋大佑を起用する力の入りっぷり。実質的な国内準ワークスチームの参戦だ。

Honda Team MOTULのNSX GT3
Honda Team MOTULのNSX GT3

日産はワークスチームであるニスモとしては参戦せず、経験豊富なGT500ドライバーをプライベートチームに送り込む。注目は「#018 KCMG」で、ここにGT500王者の松田次生、GT500ドライバーでFIA GT3カテゴリーで世界王者にもなった千代勝正を起用する。

今回の「SUZUKA 10H」では初日の23日(木)が台風20号の影響で大雨になり、まともにテスト走行ができない状況だったため、鈴鹿を知り尽くす国内チーム、国内メーカーが地の利を活かせるチャンスが巡ってきたと言える展開になってきた。台風一過の蒸し暑さの中、ドライコンディションで24日(金)はフリー走行が行われ、トップタイムは「#018 KCMG」の日産GT-R NISMO GT3が奪取。ベストタイムを出したのは千代勝正で、GT500ドライバーたちの実力がレースでも大いに発揮されそうな気配が漂っている。

トップタイムを記録した#018 KCMGのNISSAN GT-R NISMO GT3
トップタイムを記録した#018 KCMGのNISSAN GT-R NISMO GT3

SUPER GTでランボルギーニを走らせる「JLOC」も好調で、ヱヴァンゲリヲン初号機カラーになった「#88 JLOC」に乗るアンドレア・カルダレッリ(昨年までGT500)が2回目のフリー走行で4番手タイムをマークするなど調子を上げてきた。「#88 JLOC」には普段と違い、外国人スタッフの数が目立つ。ランボルギーニ本体から強力なサポートを得ていると見られ、侮れない存在になってきた。

とはいえ、路面コンディションがまだまだ良好とは言えない1日だったこともあり、金曜日のベストタイムは2分3秒台に留まった。7月開催のブランパンGTアジアでは2分1秒台がマークされているし、予選直前のBOP(性能調整)がなされることを懸念して海外チームが三味線を引いているとも噂されていることから、予選アタックではさらなるタイムアップに期待したい。

レースは長丁場の10時間。刻々と変わるコンディションに耐久レースらしいドラマを期待したい。ただ、ピットアウトからピットインまでの1スティント最大時間は65分(セーフティカー介入などがあれば70分)と規定されており、給油を伴うルーティーンのピットインではピットレーン滞在が82秒以上と決まっているため、ピット作業の早さで差は生まれない。おそらく多くの上位チームは同じタイミングでピットインすることになるだろうし、作戦に幅を持たせ辛い規定になっている。

国内チームが地の利が活かせるとしたら、国内トップドライバーたちの走りになるだろう。鈴鹿を走り慣れている分、彼らが知っている走行ラインや駆け引きで海外の猛者たちを翻弄してくれれば、レースはかなり見応えのあるものになるに違いない。猛暑日になりそうな8月26日(日)の決勝レースで最後に笑うのは国内勢かそれとも海外勢か。予測不能な10時間がいよいよ始まる。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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