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100人が死亡、26万人が被災、東アフリカを襲う記録的大雨

下村靖樹フリージャーナリスト
冠水した町から住人を救出するAMISOMの車両(写真提供:AMISOM)

決壊したのは個人所有の違法ダム?

記録的な大雨が続く東アフリカでは、100人が死亡、26万人が被災するなど、各国で被害が拡大しています。

5月9日には、東アフリカ・ケニア中部のナクル郡ソライ町でダムが決壊し、死者45人、負傷者41人、行方不明者40人、避難者約5000人を出す大惨事が起きてしまいました。(2018年5月13日時点)

決壊したのは、東京ドーム約260個分にあたる3000エーカー(※1)の農場を所有するパテル氏が、自身の農場内に造った八つのプライベートダムの中の一つでした。

パテル氏は、ソライ町に学校や病院を建てたり、農場で1000人近くの雇用を生むなど町の発展に寄与したりする一方、中央の政治家との不適切な関係が噂されるなど、良い意味でも悪い意味でもソライ町の実力者だったようです。

今回のダム決壊をうけケニア当局は、「パテル氏所有のダムは、必要な許可を得ずに造られた可能性がある」との疑いで捜査を開始すると同時に、氏が所有する他のダムにおいて、新たな決壊を防ぐために排水を開始しました。

Googleマップの衛星写真やリンク先の映像(NTV Kenya/ YouTube)で確認してみたところ、確かに堤体(ていたい)も土のみ、洪水時にダムを守る洪水吐(こうずいばき)はおろか放流設備すらないように見えます。

嫌疑に対しパテル氏は「ダムは15年から20年前に造られたもので、違法ではない」と反論しています。

(※1)3500エーカーとの報道もあり

他の東アフリカ各国でも大きな被害

冠水したソマリア中部の都市ベレトウェインのメインストリートを歩く男性(写真提供:AMISOM)
冠水したソマリア中部の都市ベレトウェインのメインストリートを歩く男性(写真提供:AMISOM)

東アフリカの気候は、日本の四季とは異なり雨季と乾季に分かれています。

1~2月と7~9月は乾期。10~12月は少雨期。

そして3~6月は大雨期となり、その名の通り今は1年で最も雨が多い時期です。

ところが今年の大雨期は、東アフリカ全体で例年の2倍近い降水量を記録。

日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)とアメリカのNASA(アメリカ航空宇宙局)が中心となり進めている全球降水観測計画(GPM計画)によると、ケニアでダムの決壊が起きた5月3日を含む8日(4月27日~5月4日)の間に、インド洋岸では430ミリ以上(日本の年間降水量[2017年]の約1/3)、ケニア西部・ウガンダ東部では200ミリ以上が観測されました。

世界各国の洪水関連情報を収集・発信しているFloodListによると、4月以降の東アフリカ各国の被害状況は以下の通りです。

(注)項目・集計期間は国毎に異なっています

  • エチオピア (被災者)16万5千人・(避難者)9万8千人
  • ケニア (避難者)約31万1100人・(死者)132人
  • ソマリア (被災者)69万5千人・(避難者)約21万人・(死者)5人
  • タンザニア(死者)20人
  • ブルンジ (避難者)約2500人・(倒壊家屋)325棟
  • ルワンダ (死者)12人

(参考 他のアフリカ地域)

  • アルジェリア (死者)6人
  • マラウイ (被災者)約7千人・(死者)4人

ルワンダの12人の犠牲者は、土砂災害の一つ「地すべり」によるものです。

土砂災害も大雨がもたらす被害の一つで、対策が不十分なアフリカではたびたび大きな被害を出しています。

昨年8月には、西アフリカ・シエラレオネの首都フリータウンで1000人近い犠牲者を出す土砂災害が起きました。

またコレラや蚊が媒介するマラリア・チングニア熱・デング熱などの感染症の拡大も、大きな懸念事項です。

Kenyan Rains Raise Risk of Large-Scale Disease Outbreak, UN Says/bloomberg)

洪水後に迫る飢饉

降り続く雨があがり青空が戻ってきた後も、楽観視できません。

農地が冠水してしまうと、洪水を乗り切った後に控えているのは食糧不足です。

5月11日に、今回の大雨で穀倉地帯が被害を受けたエチオピア、ケニア、ソマリアで飢饉発生の恐れありと、国際NGOのWorld Visionが警告を出しました。

「安全な水」の配給に並ぶ、洪水から逃れ避難民キャンプで暮らす人々(撮影:著者)
「安全な水」の配給に並ぶ、洪水から逃れ避難民キャンプで暮らす人々(撮影:著者)

長期間冠水した農地からは、作物の生育に必要な土中の養分が失われてしまいます。

その回復には多大な労力と時間がかかるため、資金も人材も不足しているアフリカ諸国にとって容易なことではありません。

その結果、突発的な要因で食糧不足となる「飢饉(ききん)」が、食糧不足が慢性化した「飢餓(きが)」になるリスクもあるのです。

戦闘やテロなど安全上の脅威が残るソマリアは、政府が脆弱なうえ国際機関やNGOによる支援も十分に行えないため、さらに危険です。

2012年のソマリア取材時に訪問した、首都モガディシュから北東に約100キロの町ジョハールが、まさに洪水被害の真っただ中でした。

ソマリア国内を流れるシェベリ川流域が大規模な洪水に襲われ、穀倉地帯が冠水するとともに、2万人近くの住民が避難民キャンプでの避難生活を強いられていました。

冠水したモガディシュとジョハールを結ぶ幹線道路(撮影:著者)
冠水したモガディシュとジョハールを結ぶ幹線道路(撮影:著者)

モガディシュ・ジョハールを結ぶ幹線道路も完全に水没し、私は車高も高く馬力も強いアフリカ連合軍の装甲車で移動していたので強引に進めたものの、ジョハールに援助物資を運ぶトラックを含め、市販車での移動は非常に困難な道のりでした。

冠水した農地の水を汲む女性(撮影:著者)
冠水した農地の水を汲む女性(撮影:著者)

そのため避難民キャンプでは全ての物資が不足していて、配給される「安全な水」だけでは生活できないため、不衛生な畑に流れ込んだシェベリ川の水を汲みに来ている人々もいました。(幸い感染症は発生しなかったようですが……)

いつの頃からか日本でも「観測史上、最も――」という言葉を毎年聞くようになった気がします。

東アフリカの大雨は今月末まで続くと予想され(※2)、恐らく各国で「観測史上、最も多い降水量」を記録しそうです。

年々深刻化する異常気象。

国や企業に任せるだけではなく、そろそろ私たち一人一人が、真剣に考えなければならない時が来ているのではないでしょうか。

(※2)Famine Early Warning Systems Network Heavy rainfall and further flooding expected across East Africa through the end of May(Famine Early Warning Systems Network)

フリージャーナリスト

1992年に初めてアフリカを訪問し、「目を覆いたくなる残酷さ」と「無尽蔵な包容力」が同居する不思議な世界の虜となる。現在は、長期テーマとして「ルワンダ(1995~)」・「子ども兵士問題(2000年~)」・「ソマリア(2002年~)」を継続取材中。主に記事執筆や講演などを通し、内戦や飢饉などのネガティブな話題だけではなくアフリカが持つ数多くの魅力や可能性を伝え、一人でも多くの人にアフリカへの親しみと関心を持ってもらう事を目標に活動している。 

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