強姦する性、「男」という恐怖。シッチェス映画祭総括、主人公たちは何と戦ったのか?
前から言っていることだが、怪獣映画は怪獣が主人公ではない。『シン・ゴジラ』に典型的に描かれている通り、ゴジラという脅威に対して人々がどう立ち向かっていくかがお話の中心であり、主人公はあくまで人。そういう意味では、『シン・ゴジラ』も『エイリアン』も『タワーリング・インフェルノ』も『エクソシスト』もすべて人間ドラマである。脅威の対象が怪獣だったり、宇宙人だったり、災害・事故だったり、悪魔だったりするだけで、それに人間がどう立ち向かっていくのかが最大の見ものになる。
ゾンビや悪魔、怪獣をしのいで1位の敵は?
では、今回シッチェス映画祭で見た40本(2本のドキュメンタリーを除く)で、主人公たちが遭遇した最大の脅威とは何だったのか?
怪獣? ゾンビ? 悪魔? 吸血鬼? 幽霊? ファンタスティック映画祭だからして、読者のみなさんはそう想像するのではないか。しかし、40本のうち9本、約4分の1を占めたのはなんと「男」だった。それも強姦する性としての男である。
次点の「マフィア」が4本、「悪魔」が3本、「事故」、「吸血鬼」、「宇宙人」、「ゾンビ」、「魔女」が2本ずつだから、その突出ぶりがわかるだろう。
別にフェミニズムの映画祭ではないし、鑑賞した映画も公式コンペティション作を軸に都合に合わせてピックアップしたもので、テーマによって選んだ訳ではない(というか、見る前にネタバレとなる資料など読まない)。昨年、一昨年のこの映画祭でこれだけ同じテーマ、同じモチーフの作品を見た記憶はないから、何らかの社会的背景があるのだろう。
刑罰ではなく復讐を選ぶ女たち
想えばこの映画祭のスクリーンで、何人の強姦され泣き叫ぶ女性たちを見てきたことか。ある者はそのまま殺され、生き残った者は復讐の道を選ぶ。
なぜ、刑罰ではなく復讐なのか?
それは落合恵子原作の映画『ザ・レイプ』にも明らかにように、強姦の立件が恥辱に満ちた困難なものであるというのが一つ。もう一つは拉致を伴った強姦で、他人に頼れる状況になかったから。警察や司法が当てにならない(当てにできない)と気が付いた彼女たちは、武器を手にする……。
被害女性による復讐劇を描いた映画が6本あった。『Revenge』、『M.F.A.』、『Marlina the Murderer in Four Acts』、『The Maus』、『Killing Ground』、『Dhogs』である。これらのうち前者3本の監督が女性なのは、偶然ではないだろう。
強姦から目をそらさぬゆえの納得
女たちが男に銃弾を撃ち込んだり、石で頭を砕いたり、首を切り落としたりして復讐を果たすと、観客席からは喝采の声や拍手が上がった。
強姦に対する殺人。罪と罰は一見釣り合っていない。しかし、いずれも強姦シーンがきちんとリアルに描写されていることで、その暴力性と残虐性を目にした後では納得できた。目には目を、だったのだ。
女性の側の挑発を疑い「乱暴」と言い換えて、強姦をソフト化する男世界を含めて、強姦する性、男は女性にとって最大の脅威であり続けている。それがわかった2017年シッチェス映画祭だった。