4頭の日本馬が挑戦する凱旋門賞(GⅠ)。データ的に勝つ可能性はどのくらいか?
私情を挟まずデータから分析
とうとう凱旋門賞(フランス・GⅠ)まで1週間を切った。現地時間今週末、10月2日の日曜日、パリロンシャン競馬場で世界最高峰の一戦は行われる。
広く報道されているように、今年は4頭の日本馬が既に現地入り。注目を浴びている。当方の耳にも「かなりチャンスがありそうだ!」という声が届いている。しかし、果たして実際はどうなのか?
4頭の各陣営にはいずれもお世話になっているし、同じ母国を持つ人間として、勿論、応援するし、好結果を望んでいる。それは大前提ではあるが、同時に評論家として、私情だけで印を打つわけにはいかない。とくに今回は日本でも馬券が発売されるため、当方の駄文を元に買われる方もいるかもしれない。だからそこは個人的な感情は挟まず、あくまでもデータを元に各馬の可能性を探っていきたい。繰り返すがデータを元にした分析であり、心情的にはどの馬にも勝ってほしいし応援しているので、この後の文章の一部を切り取って解釈し、誤解をされないようにしていただきたい。
ステイゴールドの血に期待のステイフーリッシュ
まずはステイフーリッシュ(牡7歳、栗東・矢作芳人厩舎)。異例のドーヴィル大賞(GⅡ)から大一番に臨む。この臨戦過程がどうでるか?!だが、正直その前走は勝ってほしかった。勝ち馬のボタニクはGⅢ勝ちの他、クリテリウムドサンクルー(GⅠ)で2着もある実績馬で、ダークホースにやられたわけではないが、凱旋門賞となると更に数段実績に優る馬が相手となるからだ。
また、サウジアラビアやドバイで勝ってはいるものの、未だGⅠ勝ちがない点もマイナス材料。過去にGⅠ勝ちがないまま凱旋門賞に出走した日本馬は合計4頭いるが、結果は⑰⑯⑰⑭着。やはり、大舞台だけにこれを制するには絶対的な能力の高さは必須条件だ。実際、凱旋門賞で好走した日本馬は、3位入線のディープインパクトを含めても皆、GⅠを何度も勝っていた。唯一ナカヤマフェスタだけが例外だが、それでもGⅠホースだった。初GⅠ制覇が凱旋門賞というのは少々難しいかもしれない。
凱旋門賞を含めた海外で強いステイゴールドの直仔である点と、日本馬としては初めてとなる臨戦過程がこれまでのデータにない結果を導いてくれる事に期待したい。
ディープボンドは昨年と違う臨戦過程がどうなるか?
GⅠを勝っていないという意味ではディープボンド(牡5歳、栗東・大久保龍志厩舎)も同様だ。同馬は昨年も出走しているが、14着に破れている。あれから1年が過ぎたが残念ながら今年もGⅠ勝ちのコレクションはないままでの挑戦となった。
もっとも、昨年はフォワ賞(GⅡ)を制してからの参戦だったが、今年は宝塚記念(GⅠ)以来のぶっつけとなるように臨戦過程を変えてきた。現地で聞く限り状態はすこぶる良いとの事なので、この臨戦過程が良い方に出てくれるよう応援したい。
能力的には大将格のタイトルホルダー
ぶっつけでの挑戦という意味ではタイトルホルダー(牡4歳、美浦・栗田徹厩舎)も同じだ。同馬は現時点で天皇賞(春)(GⅠ)、宝塚記念(GⅠ)と連勝中。昨秋の菊花賞(GⅠ)と合わせGⅠを3勝もしている。いわば日本の大将格的存在で、実績面では文句がない。
しかし、最大の懸念材料となるのが休み明けでの出走という点だ。3ヶ月以上の休み明けで凱旋門賞を勝った馬は1946年のカラカラを最後に昨年まで75年間出ていない。過去の日本馬をみても宝塚記念(GⅠ)以来での出走となった例としてはマンハッタンカフェ(13着)やタップダンスシチー(17着)、昨年のクロノジェネシス(7着)やあのディープインパクト(3位入線、後に失格)でさえ苦杯をなめている。
もっとも、日本の競馬に限れば、昔に比べるとぶっつけでGⅠを勝つ例は明らかに増えている。これは心拍数や乳酸値を計る等、仕上がり具合を”見える化”している事が大きいと推察出来る。この点は未だに体重も調教時計も計らないヨーロッパ競馬よりも前を進んでいると思えるので、そのあたりでのアドバンテージに期待して、なんとか今年はこの負の歴史に終止符が打たれる事を願いたい。
前哨戦を叩かれたドウデュース
そして、残ったドウデュース(牡3歳、栗東・友道康夫厩舎)である。
こちらは前哨戦のニエル賞(GⅡ)(4着)を使われた。先述した通り休み明けはデータ的に果てしなく不利と言わざるをえないのだが、逆にいうと好走組は全て前哨戦を使われた。2着した延べ4頭の日本馬は皆、現地でフォワ賞を使われていたのだ。
例えば国内の札幌記念(GⅡ)をステップに使った例もブラストワンピースやハープスターなど4頭いるが、彼等は皆、凡走に終わっており、やはり現地へ運ばれた後に叩かれた馬の方が傾向としては明らかに良いのである。
そう考えると、本番と同じ競馬場の同じ距離で3週間前に行われるプレップレース(3歳なのでフォワ賞ではなくニエル賞だが、舞台設定と本番までの臨戦間隔は全く同じ)を叩いてきたドウデュースは、データ的には光が見えると言える。
ちなみにその前哨戦は4着だったわけだが、フランス入り後わずか10日ほどで競馬に使い、しかも現地入り後は全く強い追い切りをしないでの参戦。いわば追い切り代わりのレースだったので負けた事自体は気にしないで良いだろう。これによって日本ダービー(GⅠ)を勝った実力がリセットされるわけではない。叩かれての変わり身に期待したい。
馬場に関して
最後にもう1点。毎年、凱旋門賞が終わるたびに言われる言葉に「日本馬に向かない馬場だった」というエクスキューズがある。これに関し、個人的には言われるほど大きな影響はないと考えている。勿論、日本との馬場の差異はあるし、適性があるのも認める。しかし、あまりにも過剰に、そこに敗因を求めている気がする。
昨年もクロノジェネシスの凡走で同様の事を言われたが、同じ日の馬場で行われたフォレ賞(GⅠ)で日本馬エントシャイデン(栗東・矢作芳人厩舎)が、見せ場充分の3着に善戦している。同馬は日本でのGⅠ実績は皆無といって良い馬。それがGⅠで「勝つのでは?!」という競馬をした。つまり、決して日本馬に向かない馬場ではないのだ。個人的には馬場適性よりもディスタンス(距離)の適性が大切だと考えている。ウサイン・ボルトなら競技場でなく、コンクリートだろうが砂浜だろうが、100メートル戦は勝つだろう。しかし、42・195キロで勝てるかというと話は変わってくる。細かい例は以前のコラムにも記したので割愛するが、競馬も同じ事が言え、ヨーロッパ勢は重い馬場が得意というよりも2400メートル戦が強いのだと、私は考えている。
閑話休題。日本馬には少々厳しい文言を記してきたが、そこは何が起こるか分からないのが競馬である。出走する限りはどの馬にも可能性はある。今回のコラムをあざ笑う好結果が出るよう、日本勢を応援したい。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)