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大阪市の水道不正でコンセッションは加速するか?

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
老朽化した水道管の内部(著者撮影)

工事の9割で不正

大阪市の水道管工事で大規模な不正が起きた。

2012~17年に完了した1175件の工事の約9割で、業者の不正が発覚するという異常事態だ。

関わったのは300社以上とみられ、同市の吉村洋文市長は、「不正が恒常化している」「不正業者には厳しく対応する」「入札資格を停止し、損害賠償請求も行う」と強調した。

不正は、以下のような構造の中で発生した。

まず、大阪市水道局が、元請け業者に業務を委託する。そして、元請け業者は下請け業者に業務を部分的に委託する。

市は水道工事で地面を掘った際の埋め戻し材に「改良土」(工事残土に石灰を混ぜて水分を除去したもの)を使うよう指示していた。

しかしながら、完了済みの水道管敷設工事のうち、改良土が使われていたのは1175件中30件程度。ほとんどの現場で、下請け業者は、コンクリートなどを砕いた「再生砕石」を使っていた。

改良土は1トン200~400円。一方の再生砕石は1トン50円程度とかなり安い。

下請け業者は、伝票には改良土を使用したと記しつつ、実際には再生砕石を使用して利益を出す。そして元請け業者は、改良土を使用したと大阪市に虚偽の報告をする。大阪市はその報告を鵜呑みにする。

業者の不正は許されるものではないが、業者に支払われる工事費用が適正だったのか、元請けから下請けに支払われる工事費用が適正だったのかという声が現場から上がっている。極論を言えば、工事費用が安すぎるために不正を犯して再生砕石を使用しないと企業がやっていけない構造になっていたのではないかというのである。

また、市の管理体制に問題はなかったのか、不正を知っていながら見逃していたのではないか、なども声が上がっている。

市長はコンセッションに意欲的だが

この不正は市民生活にどのような影響を与えるだろうか。

大阪市の水道事業は水道管の老朽化という問題を抱えている。総延長は約5200キロあるが、17年度の時点で、46・5%が法定耐用年数の40年を超える。さらに、主要な管の33%が耐震化されていない。現在のペースだと、地震に弱い老朽管の更新を終えるのに25~26年かかる。

大阪市の管工事は市内の中小企業に発注する事になっている。ただ、技術力のある業者の数は十分ではない。今回の問題で、施工業者の大半が指名停止になる見通しのため、更新作業が滞る恐れもある。

吉村市長は、コンセッション方式で、民間企業に老朽化した水道管の取り換えや耐震化を任せる考えだ。「民間企業に15年間の運営権を設定」「総額3千億円規模の巨大事業」と発言しており、現在のような地元の中小企業ではなく、大手企業に運営権を売却することになるのではないか。

では、コンセッション方式とは何か。

昨年の水道法改正により、公共施設等運営権を、民間企業に一定期間売却するコンセッション方式を選択することが可能になった。コンセッションについては、「諸外国ではこの方式を民営化と呼んでいる」「施設を自治体がもっているので民営化ではない」「完全民営化ではないが民営化の一形態と言える」など、識者の意見もバラバラなので、ここではコンセッションという言葉をそのまま使う。

そもそもの話になるが、水道事業はこれまでも自治体職員だけで運営されていたわけではない。大阪市が水道管の工事を地元業者に発注していたように、ほとんどの自治体が、企業にある程度の業務を委託している。

業務委託とコンセッション方式の違いは、責任の所在とお金の流れに注目するとわかりやすい。

業務委託の場合、責任は自治体にある。私たちの支払う水道料金は自治体に入り、自治体から業務量に応じた金額が企業に支払われる。

コンセッション方式の場合、公共施設等運営権が、民間企業に一定期間売却される。事実上の運営責任は民間企業に移り、水道料金は民間企業に入る。

自治体は、管理監督責任をもつことになる。だが、その責任を果たせるかどうかについて疑問を投げかける声は多い。というのも、契約が長期におよぶため、現場の技術や業務がわかる担当者がいなくなる可能性があるからだ。

自治体の管理監督能力の欠如

その場合、企業の事業運営や契約変更の提案などが適切か否かを判断することが難しくなる。

吉村市長は、2020年2月ごろにコンセッション方式についての議案を市議会に提出する予定。可決されれば、2022年か23年には実現させたいと考える。企業には設計段階から任せる予定で、市の試算では5~10%ほどコスト削減できる見込み。さらに地震に弱い老朽管の解消が約10年早まるという。

一方で、水道局は、管理監督責任を果たせるのか。

今回の不正を見る限り、管理監督能力については、すでに疑問視せざるを得ない。

大阪市では、以前は委託業務の作業現場に水道局職員を監督としておいていた。しかし、職員数が削減されるのと同時に、業者が責任もって施工するのが当たり前という考えが浸透し、職員の監督はおかれなくなった。現在は書類を確認するのみとなっており、書類偽造を見抜けなかった。

このような体制では、コンセッション方式を導入しても、管理監督責任を果たすことはできないだろう。海外でコンセッション方式が失敗する1つの原因が、自治体の管理監督能力が低いことだ。管理監督能力が低いために企業が不当な値上げを要求したり、こっそり仕事の質を落としても見抜けない。

大阪市は残念ながら、そうした傾向が見える。コンセッションなど外部の力に頼るまえに、水道局の体制を強化すべきだ。重要なのは水道事業の技術をもち、現場の作業がわかる人材を自治体で育成していくことだろう。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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