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ダークマターや標準宇宙論にも影響!異常な数の衛星銀河が発見され新たな問題に直面

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

今回は「標準的な宇宙論を揺るがす衛星銀河の新発見」というテーマで記事をお送りします。

日本の国立天文台や東北大学などの国際研究チームは2024年6月、すばる望遠鏡による観測の結果、新たな衛星銀河を2つ発見したと報告しました。

この発見はダークマターの性質がどうなっているのか、さらには標準的な宇宙モデルが正しいかという、より根源的な問題にも影響がある可能性があります。

本記事では標準的な宇宙モデルやダークマターと衛星銀河の関係性について触れ、その後衛星銀河の個数が抱える問題や、新発見について解説していきます。

●標準宇宙モデルと衛星銀河

既知の中で、ビッグバンから始まった宇宙の進化の仕方や性質を特にうまく説明できる標準理論は、「Λ-CDMモデル」と呼ばれるものです。

このモデルでは、ダークマターとダークエネルギーの存在、さらにそれらのもっともらしい性質も組み込まれています。

Λ-CDMモデルは、「衛星銀河」と深く関連があります。

私たちが住む天の川銀河は巨大な質量を持っており、その周囲には多数のより小さな「衛星銀河(伴銀河)」が重力的に拘束されています。

衛星銀河は、質量を持つが観測できない未知の物質「ダークマター」の小さな塊にガスが集まり、そこから星々が生まれることで形成されたと考えられています。

よって衛星銀河の数の問題は、ダークマターの性質やその正体、さらには標準宇宙モデルであるΛ-CDMモデルそのものにも関わっているのです。

●ミッシングサテライト問題

「天の川銀河にはいくつの衛星銀河があるのか?」という問いは、ダークマターの性質を理解する上で非常に重要な問題ですが、長年未解決のままです。

Λ-CDMモデルによると、天の川銀河のような巨大な銀河の周りには、1000を超えるダークマターの塊と、それに対応する衛星銀河が存在すると予想されていました。

しかし、これまでの観測では数十個の衛星銀河しか見つかっておらず、天の川銀河の衛星銀河の個数の理論予想と実際の発見数との大きな食い違いは、「ミッシングサテライト問題」と呼ばれてきました。

天の川銀河の衛星銀河の数がΛ-CDMモデルによる予想よりも実際に少ない場合、考えられる説としては、まずダークマターの正体が予想と異なるものであり、塊の数がもっと少ないというものがあります。

しかしこの場合、ダークマターの理解を含む標準的な宇宙モデルの根本的な修正を余儀なくされるため、他の選択肢も検討したいところです。

他の選択肢としては、ダークマターの塊の中でガスから星や銀河が、何らかの原因で理論的な予想よりも生まれにくくなっているというものもあります。

仮にこの説が正しければ、衛星銀河の個数予想が1000個から下方修正され、衛星銀河の発見数が満たすべき条件が緩和される可能性があります。

そして実際に小さな衛星銀河の形成を抑える過程の理論研究が展開されてきた結果、最新のもっともらしい分析では、天の川銀河に全部で220個程度の衛星銀河があるという予測が得られています。

●最新観測で新たな問題が出現!?

現状の発見数は数十個程度の衛星銀河ですが、天の川銀河から比較的遠方に未発見の小さい衛星銀河が多数眠っている可能性もあり、それらを発見する目的の観測や研究が進められています。

そんな中、日本の国立天文台などの国際研究チームは2024年6月、すばる望遠鏡による観測の結果、新たに小さな衛星銀河を2つ発見したと報告しました。

2つの銀河はそれぞれおとめ座とろくぶんぎ座の方向にあり、どちらも太陽系から30万光年以上彼方の遠方にて発見されています。

研究チームが観測してきた赤線で囲まれた領域において、研究チームはこれまでに新発見の銀河を含めて5つもの小さな衛星銀河を発見しています。

別の研究によって発見されたものも含めると、この領域では合計で9個の小さな衛星銀河が見つかったことになります。

この発見数を天の川銀河全体に換算すると、少なくとも500個の衛星銀河が存在することになります。

小さな衛星銀河の形成を抑える研究により、天の川銀河の持つ衛星銀河は220個程度であるという控えめな予想値を得ていましたが、今度はそれを超えてしまう結果となったのです。

「ミッシングサテライト問題」ではなく、逆に「衛星銀河が多すぎる問題」に直面することになりました。

●今後の展望

ダークマターの塊の中でガスから星や銀河が生成するプロセスを再検討することで、衛星銀河の個数の予想が当初の1000個から220個へと下方修正されたのでした。

よって衛星銀河の個数の理論予想値と観測結果が現在でも一致していないのは、ダークマターの塊の中でどのようにして星ができて銀河になるのかという、基本的な物理過程の問題と考えられます。

現状では星の形成の予想にブレーキをかけすぎた結果になっているので、その過程を計算する精度が足りていないのか、あるいは見落とされている物理過程があるのか、などを再検討する必要があるとのことです。

ただΛ-CDMモデルを根本的に見直すことなく、当初の「ミッシングサテライト問題」を解決できそうな状況になってきたと言えるでしょう。

一方、今後はより広い天域でさらに暗い矮小銀河まで観測することで、天の川銀河が持つ衛星銀河の総数の推定値の精度を上げていく必要があります。

そのために、チリから観測できる天域全てを探査する観測が来年から始まる予定です。

多くの新しい衛星銀河が発見され、ダークマターとその中の銀河形成過程が抱える問題が一挙に解決されることが期待されています。

https://arxiv.org/pdf/2311.05439
https://subarutelescope.org/jp/results/2024/06/27/3418.html
https://astro-dic.jp/%CE%BBcdm-model/
サムネイルCredit: NASA/JPL-Caltech

「宇宙ヤバイch」というYouTubeチャンネルで、宇宙分野の最新ニュースや雑学などを発信しているYouTuberです。好きな天体は海王星です。

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