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明日(12日)は元徴用工にとっては「運命の日」 元徴用工への補償は「韓国単独」?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
政府の「代位弁済」案を「屈辱外交」と批判する韓国の市民団体(JPニュースから)

 明日(12日)は韓国で予定通りならば、日韓の最大懸案である元徴用工問題をめぐる公開討論会が国会議員会館で開催される。仮に無事開かれたとしても、前途多難である。

 公開討論会は政府関係者と元徴用工らの法的代理人、それに学者ら日韓の専門家らが出席して開かれるが、当初、政府(外交部)と超党派から成る韓日議員連盟の共催と発表されていた。しかし、一昨日、議員連盟に所属する最大野党「共に民主党」や革新野党「正義党」、それに無所属議員らは「共催に同意した覚えはない。連盟の鄭鎮碩(チョン・ジンソク)会長が勝手に決めたことである」と共催に反対を表明し、不参加を決めてしまった。議連の鄭会長は与党「国民の力」の最高幹部の一人で、非常対策委員会委員長のポストにある。日本との関係修復に意欲を示している尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の旗振り役を担っている。

 鄭会長と共に来日したこともある議連の幹事長でもある「共に民主党」の尹昊重(ユン・ホジュン)議員は「議連が共同主催者になれば、政府の太刀持ちとなりかねない」と反発し、また李在禎(イ・ジェジョン)議員も「議連は政府の包装紙ではない」と反対理由を語っている。「共催」が頓挫したことで政府が提示する解決策は野党からも承諾を得たとする政府の目論見は外れることになった。

 野党が公開討論会のボイコットを宣言したことで注目されるのは討論会への出席をすでに表明している元徴用工の支援団体及び被害者側の代理人らの動静である。

 討論会では政府側から外務省の徐旻廷(ソ・ミンジョン)アジア太平洋局長と沈揆先(シム・ギュソン)日帝強制徴用被害者支援財団(支援財団)理事長らが、また元徴用工側から「日帝強制市民の会」(市民の会)の李国彦(リ・グッオ)代表、民族問題研究所の金英丸(キム・ヨンファン)対外協力室長、それに強制動員被害者訴訟原告側法律代理人(2人)が出席して、意見を述べることになっている。

 徐外務省局長は討論会では7月から9月にかけて4度行われた官民協議会の内容やこれまでの日本との協議の内容(結果)を説明する予定だが、行政安全部傘下の公益法人である「支援財団」の沈理事長が発言することから尹政権は最終的な解決策として「支援財団」が主体となって、韓国企業などから寄付を募り、日本企業の賠償金を肩代わりする案が提示されるのではないかとみられている。

 同財団は1965年の日韓請求権協定で恩恵を受けたポスコ(浦項製鉄)に現在、追加の財源支援(40億ウォン)を要請中にある。ポスコはすでに2012年に同財団に総額で100億ウォン拠出を決定し、これまでに2016年と17年にそれぞれ30億ウォン、即ち総額で60億ウォンを支出してきた。

 こうしたことから「市民の会」の李国彦代表は「尹政権は我々の意見を聞いてから解決策を決めると言っているが、すでに(解決策を)決めているようだ。討論会は単なる通過儀式に過ぎないのでは」との懸念を表明していた。それでも討論会への出席を決めたのは「国民やマスコミが見守る中で政府の問題への認識、取り組み方にどのような問題があるのか、欠けている点や過ちを積極的に指摘するほうがいいと判断したからである」と語っていた。

 しかし、野党のボイコット表明で、被害者側の出席が危ぶまれている。一部の支援団体からは野党議員が不参加を決めたことで出席を取りやめるべきとの声も上がっている。というのも、被害者側の参加は苦渋の末の決定だったからだ。

 被害者側は「政府からどのような解決策を提示されても日本企業の拠出と日本企業・政府の謝罪が不可欠である」との立場で一貫している。

 昨年8月に日韓の歴史問題を解決するため様々な市民団体が集まって立ち上げた「歴史正義と平和な韓日関係のための共同行動」(韓日歴史正義平和行動)は「政府の強制動員解決案は被害者の要求は一切排除され、日本の要求だけを盛り込んだ従属的な、屈辱的な外交惨事であり、歴史歪曲合意であり、司法主権の放棄であり、大法院(最高裁)判決を無力化しようとする合意である」と指摘し、5日前から政府の解決策を糾弾する時局宣言に参加するよう訴えている。このアピールにすでに全国から900の団体と2千人が参加を表明している。

 李国彦代表もアピールに賛同した一人で「被害者の賠償問題は単純な債権紛争ではない。被害者らが日本に蹂躙された人権を回復し、肉体的、精神的被害に金銭補償が受けられるという次元から解決策が議論されなければならない。基本的に加害企業が直接的な謝罪と賠償のない代案は受け入れられない」と語っていた。公開討論会をボイコットした民主党代弁人の金炫政(キム・ヒョンジョン)議員にいたっては「外交部が国会で討論会をしたければ、被害者らの同意を得た解決策を持ってこなくてはならない」とコメントしていた。

 政府は被害者全員の同意を得るのは容易ではないと判断している。そのために「併存的債務引き受け」(代位弁済)カードを持ち出している。

 「併存的債務引き受け」は債務をそのままにして第3者が該当の債務を受け継ぐことを意味している。これをそのまま元徴用工に適用した場合、日本企業の賠償義務が存在する状態で財団が賠償義務を引き受け、被害者らに賠償金を支給することとなる。この場合、過去の判例から債権者の同意は必要としないというのが政府の説明である。

 その一方で韓国の法曹界では「債権者の同意なく、債務者だけで合意するのは問題がある」と見る向きが多く、「併存的債務引き受けであっても債権者の同意が必要である」と主張している元徴用工側では「政府が強行すれば、訴訟を起こすべき」との声が上がっている。

 仮に今朝の朝日新聞(11日付)の報道とおり、日韓の間で日本の企業からの寄付も含めて賠償を肩代わりする仕組みを「解決策」とすることで最終調整に入っているのが事実ならば、即ち、元徴用工側が求めている日本企業の寄付金の拠出や謝罪に日本政府が同意するならば、何の抵抗もなく決着が付くものと思われるが、日本は果たして承諾するのだろうか。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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