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200年に一人の天才ボクサーが語る「今夜の井上尚弥」

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
写真:山口裕朗

 現役時代に在籍していた協栄ジムの会長、故金平正紀に「具志堅が100年に一人の選手なら、亀田は200年に一人の天才だ」と評された、元WBAジュニアウエルター級1位、日本同級&日本ウエルター級王者の亀田昭雄が、今夜ゴングが鳴る井上尚弥vs.アラン・ディパエン戦について語った。

写真:山口裕朗
写真:山口裕朗

 「井上尚弥の試合で僕が最も印象に残っているのは、2018年10月のファン・カルロス・パヤノ戦です。試合開始から1分くらいでケリが付きましたよね。

 井上が鋭い左ストレートを放ち、パヤノは井上のパンチを芯でもらわないように顔をそむけた。そして次の瞬間、自分が攻撃に出ようとした。その0コンマ何秒かの間に、井上の右が入った。

 あんなカウンターは初めて見ました。超高度な技術に、体が震えましたよ。

 今夜の相手であるディパエンには、圧勝するんじゃないかな。ただ、相手とのレベル差が大きいと見せ場が作れません。だから、井上は進化を見せる前に終わってしまうような気がします。

写真:山口裕朗
写真:山口裕朗

 井上がリングを支配するでしょうが、あまりにも実力差のある相手との試合だと、選手って遊んだりします。また、『倒れないぞ』と逃げ回る敵だとやり難い。相手の出方を観察しながら、あれこれトライしていくことがボクシングの醍醐味だと僕は感じていました。

 今回のモチベーションを下げないためにも、井上は『〇ラウンドにKOする』と宣言したら良かったかもしれませんね。

 フロイド・メイウェザー・ジュニアが試合中に放送席に話し掛けたことがあったでしょう。僕も日本タイトルマッチの防衛戦では、まったくやる気が出なくて、相手に合わせてダラダラとラウンドを重ねた経験があります(笑)。でも、ボクサーは手を抜いたらダメです。そういう癖が付いてしまうので。

 PPVでの放送という新たな試みは面白いですね。地上波だと、どうしても視聴率が問われます。具志堅用高さんの防衛戦でも『早い回で終わってしまうと視聴率が伸びない。終盤でのノックアウトだと数字が取れる』なんて、TV業界の人が話しているのを聞いたことがあります。PPVなら、購入しなければ見られない訳ですから、視聴率よりも購買数が大事ですよね。井上が早いラウンドでKOしたって問題は無い。

 井上が格下をいかに料理するかに、注目します。ノニト・ドネアとのリターンマッチが実現しそうな雰囲気ですから、それが精神面を充実させるかな」

 井上との再戦を熱望するドネアは一昨日、4回KOでWBCタイトルを防衛した。WBA/IBFバンタム級王者は、ドネア戦のチューンナップとして今夜の試合を迎えるのか。

 果たして、どんな一戦となるだろうか。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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