中国「無人コンビニ」ブームの結末と、新興スマートコンビニ「便利蜂」の強みとは
中国でブームとなった無人コンビニの結末は
2018年、中国では「無人コンビニ」がブームとなった。日本からも視察団が訪れ、私も多くの企業をアテンドした。
しかし2020年現在、その頃の無人コンビニでうまく行っているものはほぼ皆無だ。多くが倒産、存続していても倒産同然か、異なるビジネスを行っている。
どうしてだろうか。
例えば、コンテナ型でおなじみ、セルフ決済方式の無人コンビニについて見てみよう。
このコンビニは初回にスマホでユーザ登録を行い、スマホでロックを解除して入場、セルフレジで決済をするというものだ。
客からすれば、入店時にいちいちスマホを操作するのは面倒だ。入場後はドアがロックされるため、店員がいない中でここから出られなくなったらどうするのか、などの漠然とした不安感もある。またコンテナの中は狭く、ガラス張りとは言えなんだか圧迫感があり、気分はあまり良くない。
「慣れてしまえば良い」というのは簡単だが、いくつも周辺に店舗がある中で、わざわざここに来たいとは思いづらいのだ。
また他には、商品に「RFIDタグ」というタグをつけレジに商品を置くとタグが認識され決済が完了するタイプや、AmazonGoのような画像認証型コンビニも生まれたが、いずれも一般には広がらなかった。
RFIDタグ認証による会計も画像認証による会計も、実用に耐えうるほど精度が高くないものが多く、誤った会計となってしまうことが思いのほか多い。
無人店舗で会計が誤っている場合はどうしたら良いかわからないし、「正確に会計がなされるだろうか」と思いながら利用するのは大きなストレスだ。
(実際のところ「無人」と言いつつ店員を置いている店が多かったが、何にせよ会計の訂正を依頼するのは面倒である。)
加えて、RFIDタグ利用タイプのコンビニにおいては、タグ自体に1枚5円ほどのコストがかかるため、それが商品価格を押し上げることにも繋がった。
このように価格面でも利便性面でも、ユーザにとって使いたいと思える店舗になりづらいモノとなってしまったのである。
※ただ、これらのテクノロジー活用系コンビニは、もともと拡大させるつもりはなく技術開発のための実験という位置付けのものもあるため、一概に「ビジネスとして失敗した」と切り捨てることはできない点には注意が必要である
そもそも、コンビニで日用品を買うとき、我々ユーザはコンビニに何を期待しているだろうか。
おそらく、コンビニに期待するのは「価格の安さ」「立地の便利さ」「品揃えの良さ」「商品の品質の高さ/自分の好みとの一致」などであって、「無人か無人ではないか」は本質的にはどうでも良いことなのではないだろうか。
「無人であること」による「テクノロジー感」「物珍しさ」は、普段使いのコンビニに期待することではない。仮にそのようなもので集客できるとしても、最初の数回だけだろう。
中国の無人コンビニは「無人」ブームに乗って、一瞬多くの投資がついた。
ただ、「無人」にこだわることでユーザ体験を置き去りにしてしまい、ユーザに選ばれるものにならなかったと言えるだろう。
成功を収めたスマートコンビニ「便利蜂」
多産多死の無人コンビニの中でも、今のところ成功していると言えるのが、便利蜂(Bianlifeng)」である。
2017年2月に一号店をオープンし、2020年6月時点では全国20都市に1,500店以上を出店している急成長企業だ。
5月下旬には北京地区の500を超える店舗で黒字化を果たしたと発表。
2019年末には計画を上方修正し、今後3年間で1万店舗をオープンさせる予定を発表している。
便利蜂は、「無人コンビニ」というよりも「レジが無人化されているスマートコンビニ」と説明するのがより正確な表現だろう。
ここは店舗スタッフはいるものの「レジの無人化」を行っている。店頭に有人レジはなく、セルフレジで自ら決済を行う、もしくは、便利蜂アプリを用いて自分の手元で商品をスキャンして決済する方式だ。
これはユーザ体験上も理にかなっているように思える。
通常、コンビニで一度に大量の商品を買うことは少ない。数点であれば、自らセルフレジで会計・決済することはユーザ側の大きな負担にはなりにくい。
またアプリで手元で決済ができるとなると、混雑時の「並ぶ」という行為が不要となる。
朝やお昼どきの混雑時に「長いレジ列を見てコンビニに入るのを諦めた」という経験をしたことをある方も多いだろう。
そんな時に、このように「自分のスマホのみで会計を完結できる」方式があることで、多くの場合ユーザの利便性が高まると言えるだろう。
(先述の通り無人店舗ではないので、困ったことがあったら店員に聞けば良い。)
また店舗側からしても、レジ人員を削減しほかの作業に人員を当てることができる。
コストを削減しつつも、「店員をレジに置かない」ことによるユーザにとってのマイナスがあまり大きくならない状態を実現できていると言えるだろう。
高度なデジタル化とデータ活用による運営
便利蜂はレジの無人化にとどまらず、惣菜商品の提供や在庫補充に、高度なデジタル化とデータ活用を行っていることも特徴である。
現在、便利蜂の1店舗あたりの商品は約2500種類に上り、毎週平均150種類の商品を入れ替えているという。
ただ、このような大量の商品を扱う店舗でありながらも、商品の発注、陳列、価格設定など多くのプロセスはスマート化されている。
そのため、店舗スタッフは自分の頭で考えて判断を行う必要がほぼない。
また、便利蜂はかつて以下のような実験をしたことがあるという。
つまり、「カンと経験」よりも便利蜂のアルゴリズムの判断の方が精度が高いのだ。
このように、便利蜂では人間の主観的判断に頼った不確定要素は最小化され、ビッグデータに基づいた判断がなされる。
データ活用とデジタル化は、お惣菜の調理・管理でも行われている。
便利蜂の強みとして、「質の高い温かいお惣菜を販売している」という点がある。
中国人は「温かい食品」を好んで食べる、と言われている。逆にいうと、日本で人気のおにぎりやサンドイッチなどの冷たい食品は中国ではあまり受けない。
便利蜂のある店舗の「温かい食事(熱餐)」エリアには、18種類のお惣菜が用意され、毎週2-4種類入れ替わるという。
独自の管理システムである「鮮度PAD」と呼ばれるシステムに情報を打ち込むと、調理すべき個数や加熱時間が表示され、完成から4時間後には廃棄を知らせるアラームが鳴るようになっている。
このようにしてシステムによって作成工程と鮮度が管理されることで、誰が作っても一定の品質が保たれるのである。
これにより、顧客が満足する質の高いものを安定して出し続けることが可能になるばかりでなく、スタッフの業務は簡略化され研修時間も節約できるというわけだ。
これが、驚異的な出店ペースの実現を後押ししていると言えるだろう。
プライベートブランド開発でも大いにデータを活用
また便利蜂はプライベートブランド商品(以下PB)の開発に力を入れていることでも有名である。
2017年2月の一号店オープン後、9月にはプライベートブランド商品の開発責任者を任命。11月にはプライベートブランドの「蜂質選」を発表するという非常に早いスピードで開発を進め、2年間でSKUが100-200に達したという。
ここには、「低価格かつ高品質」のPB商品を消費者に認知してもらうことで、ブランドとしての影響力やリピート率を上げられるという考えがある。
こちらも便利蜂が得意とする、ビッグデータの蓄積と分析で消費者の好みを把握することにより、効率的な開発を進められているという。(参考記事)
生活に浸透する「便利蜂」の様々なサービスと今後
便利蜂では、一般的な商品を販売するだけでなく、食料品のデリバリー、ランドリー洗濯物の受け取り・受け渡し、プリント、シェアサイクルなどのサービスも、WeChat(微信)のミニプログラム(アプリ内アプリ)を通して提供している。
また、オフィスビル向けのスマート自動販売機も提供するなど、提供サービスの幅は多岐にわたる。
従来の「コンビニエンスストア」の概念から離れ、生活に必要な広い範囲のサービスの提供を行っているというわけだ。
「無人コンビニ」がブームの中で創業した便利蜂であるが、「無人」を目的化することなく、デジタル化とデータ活用で良いユーザ体験を提供し拡大している。
拡大のスピード感と高度なデジタル化・データ活用は、インターネット企業さながらだ。
創業わずか3年ではあるが、5年程度での上場を目指しているとも目されている。
日本企業が学べることも多いだろう。今後の動向にも注目だ。