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三振にまつわる2つの表現。「イマキュレイト・イニング」と「ゴールデン・ソンブレロ」

宇根夏樹ベースボール・ライター

5月7日、ミルウォーキー・ブルワーズのマイク・ファイヤーズが「イマキュレイト・イニング」を達成した。これは、1イニングに9球を投げ、打者3人をいずれも3球三振に仕留めることを指す。「イマキュレイト」には、「完全な」「染み一つない」という意味がある。ロサンゼルス・ドジャース戦に先発登板したファイヤーズは、4回表に、エンリケ・ヘルナンデスカルロス・フリーアスジョク・ピーダーソンを3球三振に斬って取った。

ベースボール・アルマナックによれば、ファイヤーズが成し遂げた「イマキュレイト・イニング」は史上79度目だという。1シーズンに4万イニング以上あることを思えば、レアな記録と言えよう。3度達成したサンディ・コーファックスと、2度ずつ達成したレフティ・グローブノーラン・ライアンランディ・ジョンソンは、いずれも殿堂入りしている。

ただ、近年、その稀少性は減じている。全体の60.8%(48度)は1990年以降に達成されていて、今シーズンはファイヤーズが第1号だが、昨シーズンは7人がやってのけた。その上、ファイヤーズはこの記録を喜ぶこともできなかった。2回表にソロ・ホームランを浴びると、3回表にも2点を失い、6回表に4点目を許したところでマウンドを降り、敗戦投手となった。

一方、打者の三振にまつわる表現には、「ゴールデン・ソンブレロ」というものがある。これは、1試合で4三振を喫することだ。どうやら、「ハット・トリック」から派生したものらしい。なるほど、同じ頭にかぶるものでも「ソンブレロ」は「ハット」よりも大きい。

「ゴールデン・ソンブレロ」はそれほど珍しくなく、4000度以上は起きている。今シーズンもすでに、何人もの選手が「ゴールデン・ソンブレロ」をかぶった/かぶらされた/手にした/もらった。エバン・ギャティス(ヒューストン・アストロズ)は4月8~9日のクリーブランド・インディアンス戦で、8打席続けて三振を喫し、2試合連続の「ゴールデン・ソンブレロ」を記録した。

ブレット・ロウリー(オークランド・アスレティックス)の「ゴールデン・ソンブレロ」も、目立つものだった。4月7日のテキサス・レンジャーズ戦に出場したロウリーは、4打席とも3球三振に倒れた。言うなれば、「イマキュレイト・ゴールデン・ソンブレロ」だ。最初の2打席はコルビー・ルイス、残る2打席はキーオニー・ケラネフタリ・フェリースにそれぞれ仕留められた。

ちなみに、これまでに「ゴールデン・ソンブレロ」を記録した日本人メジャーリーガーは6人いる。野茂英雄井口資仁(現・千葉ロッテ・マリーンズ)、大家友和(現・富山GRNサンダーバーズ/BCリーグ)、岩村明憲(現・福島ホープス/BCリーグ)、松井秀喜福留孝介(現・阪神タイガース)だ。けれども、その試合のすべての打席で三振を喫したのは、野茂と大家だけだ。2人とも、4三振ながら4打席に立ったことからもわかるように、この試合で好投した。野茂は完封勝利。大家も8回を投げて1点しか許さず、白星を挙げた。

また、日本人メジャーリーガーによる「イマキュレイト・イニング」の達成は皆無だが、2002年にペドロ・マルティネスが試合の冒頭で成し遂げた時には、イチロー(現マイアミ・マーリンズ)が先頭打者として3球三振を喫した。こちらの試合でも、イチローはペドロに対して手も足も出なかったわけではない。ペドロは8回1失点と好投したが、被安打6本のうち1本は、3回表にイチローに打たれたものだった。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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