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開催直前! 小室哲哉が語る、TKヒット曲ばかりの初のフルオーケストラ公演

ふくりゅう音楽コンシェルジュ
小室哲哉、藤原いくろう:photo by billboard CLASSICS

●数多のアーティストに楽曲を提供してきた“歴史”をオーケストラの響きによって紐解いていく

日本の音楽シーンに数々の名曲を刻んだ音楽家 小室哲哉。自らからのヒット作品を振り返る、貴重なる1万4千字インタビュー。

稀代のヒットメーカー小室哲哉初のフルオーケストラ公演が開催される。しかも、誰もが知るTKヒット曲ばかりの選曲だ。自身のユニットTM NETWORKはもちろん、渡辺美里、trf、篠原涼子、安室奈美恵、華原朋美、H Jungle with t、globeなど数多のアーティストに楽曲を提供してきた“歴史”をオーケストラの響きによって紐解いていく公演、その名も『billboard classics 小室哲哉 Premium Symphonic Concert 2022 -HISTORIA-』。

会場は、2022年11月27日Bunkamuraオーチャードホール(ゲスト:Beverly)、2022年12月9日兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール(ゲスト:浅倉大介、Beverly)にて、プレミアムな2公演となる。

指揮・オーケストラ編曲を務めるのは、小室哲哉と同い年で共通の音楽観を持つピアニスト、指揮者、作編曲家として幅広く活動する藤原いくろう。小室はステージ上でピアニストとしても参加し、さらに、オーケストレーションを彩るゲスト・ボーカルも迎えるという。本番へ向けて、都内六本木某所で作戦会議中の小室と藤原に突撃して、どんな選曲や内容になりそうかを聞いてみた(取材日:2022年10月1日)。

※取材後、オーケストラによるコンサートらしく当日のセットリストとゲストアーティストの出演が事前公開されたので要チェック。

セットリスト;photo by billboaer CLASSICS
セットリスト;photo by billboaer CLASSICS

●第一にメロディーラインの美しさですよね。それに付随するコード進行の独特な、転調感も含めて小室ワールドが確立されているんです

――先ほどまで行われていた小室さんと藤原さんの打ち合わせが白熱していて、後ろで聞いているだけでテンションが上がりました。小室さんにとってフルオーケストラ公演は、YOSHIKIさんとのユニットV2が1991年12月5日に東京ベイNKホールで行なった『V2 SPECIAL LIVE "VIRGINITY"』公演以来となりますね?

小室:よく覚えていますね。レコーディングでは、その後もフルオケはやっていました。(制作拠点が)ロサンゼルスへ移ってから、ハリウッドのチームをいつでも呼ぶことができて。90年代は、「I'm proud」や「CAN YOU CELEBRATE?」など、オーケストラが入っている曲が多かったんですよ。

――今回の公演は小室さんのヒット曲を初めて完全フルオーケストラで表現するというコンセプトとなっていますが、藤原さんは、小室ソングをどのように評価されていますか?

藤原:まず、第一にメロディーラインの美しさですよね。それに付随するコード進行の独特な、転調感も含めて小室ワールドが確立されているんです。メロディーとコードの関係性もオリジナリティーが高いので、オーケストラでどう表現していくかに注目して欲しいですね。

――お二人とも、1958年生まれ、同い年なんですね。

藤原:はいそうです。僕のが、ちょっとだけお兄さんです。

――これまで接点は?

小室:直接はなかったのですが、先ほど初めて伺ったんですけど、中森明菜さん。

藤原:そうそう、シンフォニック・コンサートや作品で。

小室:僕の曲、「愛撫」をアレンジしてくれていたんです。

――まさかの繋がりが。しかも藤原さんはビーイング所属だそうですね。

小室:きっとまだ探せば、接点はいろいろ出てくると思う。

藤原:そうかもしれませんね。

●地道に積み上げていきたいないうのが、自分の中であって。コンサートの感触を噛みしめてっていうか、階段を上がって行きたいな、今回やっと到達できるのかなって

――今日、選曲など打ち合わせをされていましたが、『小室哲哉 Premium Symphonic Concert 2022 -HISTORIA-』が実現するにあたって、どんなきっかけがあったのでしょうか?

小室:玉置浩二さんが友達で。ずっとbillboard classics公演としてオーケストラ・ライブをやられていて。それで観せてもらったんですよ。関係者の方を紹介してもらって。そこから、自分のソロ公演としてのBillboard LIVEがはじまりました。音楽活動に復帰してから地道に積み上げていきたいなというのが、自分の中であって。コンサートの感触を噛みしめてっていうか、階段を上がって行きたいな、今回やっと到達できるのかなって。なので、いきなり「オーケストラとやりたい!」みたいなことをポンッと言い出したっていう感じではまったくないです。

――近年の小室さんのBillboard LIVEでのソロ・コンサートも、ステージに一人で立ってシンセサイザーを活用したデジタル・オーケストラのようなスタイルで、かつピアノを軸として選曲にもヒストリカルにこだわったヒットファクトリーなコンセプトでしたね。

小室:あれも偶然なんですよ。コロナ禍でステージを密にしない方法で。仮に二人だとしても、アクリル板とか。ディスコミュニケーションにはなりたくなかったので。「だったら一人でいいかな」っていう結論でBillboard LIVEでのソロライブをはじめました。なかなかbillboard LIVEでも、頭から終わりまでプレイヤーが一人だけって無いと思うんですけどね。

――まさにそこからオーケストラ公演へと繋がっていきました。

小室:ソロでのライブでも頭のなかでは、もしかしたら後ろにオーケストラがいたらこんな感じかなとかっていうイメージをしていたところもあったんですよ。1991年に出した『マドモアゼル モーツァルト』の曲をやったりね。

●打ち合わせの席で「兄弟や親戚の転調」って話されてたのですが、まさしくその通り

――点と点が繋がってきますね。いくろうさん、小室ソングでどの曲をオーケストラ・アレンジしてみたいなど、頭の中で巡らせたりしましたか?

藤原:はい。ほとんどの曲を聴きこみました。やっぱり壮大なイメージが広がるTM NETWORK「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」とか。それから、中森明菜さん繋がりでいうと「愛撫」もやりたいと思いましたし。もちろん、安室奈美恵さん「CAN YOU CELEBRATE?」も壮大なオーケストラが絶対に合うので、迷いますよねえ。

小室:藤原さんは、ロックも聴いている方なんですよ。

藤原:はい。見聴きしているものが小室さんと近いですよね。

小室:ロックとクラシックっていうと、接点がプログレッシブ・ロックになるので、もう、いろんなイメージなど、バンド名や曲名を言っただけでコミュニケーションできました。

藤原:同じ音楽を聴いて育っているので。嬉しかったですね。

小室:なので、「あの曲のあの感じ」というのは、すごく話しやすくて。同じ世代の人でも、ジャズやフュージョンの人は、ちょっと傾向が違うんですよ。

藤原:高校の文化祭でエマーソン・レイク・アンド・パーマーをコピーしてたので。

――わ、それはプログレ好きな小室さんと近いですね。

小室:僕はそこまでテクニックっていうか。アカデミックには習ってないので。それに、譜面が読めないですから。

藤原:それが天性ですごいんですよ。打ち合わせの席で「兄弟や親戚の転調」って話をされてたのですが、まさしくその通り。理論付けでもそういうことなんですよ。家族みたいな流れで転調していくんですよね。それを感性でやられていたことが素晴らしいと思うんです。それは、天性の才能であり、音楽をお好きでいっぱい聴いてるからなんだと思います。

小室:そうなんですかね。以前、“優しい楽典”みたいなことを、ファンの人も含めて教えたことあるんですけど。メジャーとマイナーとか、長調と短調との性格とか男女や喜怒哀楽にたとえながら。「なんでカノン進行は、みんながいいと思うのか?」とか。難しいっちゃ難しいから、なるべくわかりやすく紐解いて。最初は「ハ長調でシだったら、下がってくるので、みんな感情を揺さぶられるのか?」みたいなことを自分なりに分析をして。全然、感覚ですね。

――それこそ、先ほどの打ち合わせのときにglobe「FACES PLACES」のギター・アレンジについてレッド・ツェッペリンの「Kashmir」での弦の例えが出てきましたけど。小室さんは、クラシックであったり、プログレッシブ・ロックを通過しての楽曲の表現力、エモーショナルにサウンドの魅力を伝えるという創作スタイルにおいて、クラシックからの影響って実は大きかったりするんじゃないですか?

小室:そうだね。たぶん歌謡曲とかからの影響よりは圧倒的に多いと思います。なので、以前はすごくジャズ系が苦手でした。テンション、コードみたいな。同じ世代でも、スティーリー・ダンとかドナルド・フェイゲンになってくると、ちょっと出来ないっていう。

藤原:まさしく同感で。

●圧倒的にクラシックの整合性感が好きでした

小室:もちろん「かっこいいな」と思うのもあるんですけど、全然圧倒的にクラシックの整合性感が好きでした。世代的にハモンドオルガンに触れる機会があって好きで。シンセもそうなんですけど。パイプオルガンなんか、フィート管があってドローバーっていうんですけどね。足していくんですよ。倍音を組み合わせて、なぜかちゃんと和音になるっていう。クラシックとか、それにすごく乗じてというか。より乗っかっていて。音の積み重ね方が好きだったんです。

――それでいうと「I'm proud」での高鳴るサウンド感も、クラシックからの影響が取り入れられてますよね。

小室:そうですね。完全に左が半音で下がっていくものに、どうコードを付けていくかっていう。カノン進行じゃなくて、やりたかったっていうのがあって。こんな感じでクラシックをやりたいっていうことを表現した曲で。

――なるほどです。ちなみに、小室さんは映画に書き下ろされたサウンドトラックであったり、劇伴やインスト曲でもたくさん素晴らしい作品がありますよね。それこそ、『マドモアゼル モーツァルト』であったり。そういった作品は、今回は選曲されないのですか?

小室:導入っていう意味ではありかもね。まさに導くための曲として「やっていただきたいなあ」と思っていますけど。それは、もうBillboard LIVEでひとりオーケストラやったりもしてるので。

――小室さんの中でオーケストラ、こういったステージに立つことになって、ご自分の曲で「この曲のオーケストラ・バージョンは聴いてみたい!」なんて、ふと頭に思い描かれた曲はありましたか?

小室:普段、ソロで演奏するときはピアノだけのことが多いので、そんなときに頭の中でオーケストラが鳴っていたり、ここで入ってきてほしいなと思うことは、もう山ほどありますね。

――思い浮かんだ曲、具体的に曲名とか。

小室:基本、元のマスターに入っている音は、やっぱり聴こえてきちゃうので。(華原)朋ちゃんとか(安室)奈美恵ちゃんとかを筆頭にですけど、相当数ありますね。今回、期待するのは全然電子音や打ち込みではないので、オーケストラの揺れこそが自分の中での楽しみですよね。なので、オーケストラ・バージョンとして常にサポートしてもらうのでは、全く意味がないので。「クラシックのこういう要素から、この曲は出来たんだ!」みたいな発見を、お客さんが感じてくれたら最高です。僕なんかより、もっとクラシックへの知識があるお客さんがいて「あの作曲家からの影響なんだ!」みたいに思っていただけたら嬉しいですね。

●アレンジとしてクラシックのパートを使わせてもらった、引用している曲がありますね

――小室さんの楽曲、イントロもサビも物凄くエモーショナルで耳に残り、テンション上がる曲が多いと思うんですが、オーケストラでアレンジするときも、絵が見えるというか。先ほど打ち合わせでも「オケが聴こえる!」みたいな声が聞こえてきました。見えやすいと言うと、どんな要素があったりするんですか?

藤原:小室さんもおっしゃったように、生の楽器が入ってない曲をオーケストラでどう表現するかは僕もすごい楽しみで。楽曲へ大きな影響を与えるオーケストラのグルーヴは、また違ったりするんですよ。

小室:ディープ・パープルのギタリスト、リッチー・ブラックモアがインタビューで「『スモーク・オン・ザ・ウォーター』のリフはベートーヴェンの『運命』からインスパイアされた!」っていう有名な話があって。まあわからなくもないかなっていう。同じフレーズの繰り返しであり。たとえば、ギタリストがそんなアイディアをインスパイアされるみたいなことは、たぶんいっぱいあると思うんですよ。他にも、リストかなんかの曲で、すごいいいなって思った曲もあって。あとは、確実にバッハっていう存在も大きくって。

――それこそ楽曲にモーツァルトなどクラシックを引用されたり、サンプリングされたり、マッシュアップしたりという事例も、小室さんの音楽ヒストリーの中ではありましたね?

小室:そうですね。アレンジとしてクラシックのパートを使わせてもらった、引用している曲がありますね。自分の曲を完成させる上で、大きなピースになることがあったりしました。

――たとえば、小室ソングで「意外な曲だけど、これはオーケストラでやってみたいな」というような、打ち合わせで曲名があがったナンバーなんてあったりしますか?

藤原:trfさんの曲とかね。まったく、クラシックとは対極的なものなので。そういう意味では、TM NETWORKの曲はロックテイストがあるので。クラシックとロックって僕はすごく近いと思ってて。逆に、ジャズは演歌が近いと思ってるんですよ。たぶんロック・ミュージシャンはね、自分たちはベートーヴェンやモーツァルトの歴史上にいると思ってやっているはずなので。それこそ、小室さんは、その延長線上にいらっしゃると思います。だから、クラシックの音楽の下地もあるし、ナチュラルに身体にも入ってきてるし。

――そこはまさに、小室さんとしては1991年にミュージカルへのサウンドトラックとして制作した『マドモアゼル モーツァルト』の時に、深く気づかされたというか、体感されていますよね? あのとき、モーツァルト没後200年を記念して自身のフルオーケストラでのソロライブをやる予定が、YOSHIKIさんとのV2でのコンサートに変わっていった経緯もありました。

小室:突然、YOSHIKIという存在が現れて、突如、すぐに近くなったっていう(笑)。クラシックの話をする機会も多かった時期だったりして。あとは、坂本(龍一)教授ですね。ドビュッシーとかバルトークとか、もっと超越して先に行ってましたね。「これはとてもついていけないわ、僕には」っていう。難しくって。今となっては、やっと少しわかるようなってはきたけれど。当時95年頃、一緒にライブでYMOのカバー「ビハインド・ザ・マスク」、共作で「VOLTEX OF LOVE」をやらせてもらいました。

――二組とも、歴史的なターニングポイントであり、コラボレーションですよね。

●ピアノ奏者は、作品のトータルのイメージをプリプロできる。かつてそんな存在が、きっとピアノだったはずで

小室:クラシックでもポップな大衆芸術みたいなものと、とてつもなく前衛みたいなことといろあるんですよ。なかでもピアノ奏者は、作品のトータルのイメージをプリプロできるんで。かつてそんな存在が、きっとピアノだったはずで。

藤原:そうそう。ピアノを頭の中でオーケストラに変換してるんですよ。

小室:感覚的に、プリプロ機材だったと思うんですよね。

――それでいうと、小室さんがバイオリンから音楽をはじめられていることが面白いですね。

小室:でも、全然ダメだったんで。和音の譜面のあるものからやらせてもらえたら、もっと楽だったのになみたいな。単音なので。調もなかったんですよ。ほぼ臨時記号でやっていた感じで。だからこんなに転調とか、コードで、自分の曲を操るというか。いろんなことを作曲やアレンジでやるとは、夢にも思ってなかったんです。仮に音楽の仕事をするようになるとしたら、歌メロからはじめる人間になるんだろうなとは思っていました。それが、途中からまずリフ。あれ? ずっとリフが続くのをクラシックの用語でなんて言うんでしたっけ?

藤原:モチーフとか?

小室:ひとつのフレーズのモチーフですね。それをいろいろな調に変えたりして、「愛撫」のAメロは典型的なんですけど。AメロとA’があったら、A’。Aメロとまったく一緒なんですけど、ただキーを変えるだけで世界がガラッと変わるんですよ。

藤原:まさしくクラシックの作曲家のやり方ですね。だって、それこそ「運命」のダダダダーンもメジャーでダダダダーンってやったりとか、いろんな形であのフレーズって変わりながら出てくるじゃないですか? 「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」もそうですね。AからB、C。別にメロディーは一緒なんですけど。

―― 「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」が持つ、奥行きのある壮大な世界観は、まさにメビウスの輪というか転調の妙で表現されていますよね。そういえば、ダンスミュージックのイメージがありながらも、trfなども、リフのイメージで考えると、オーケストラの響きが聴こえてきそうなサウンドですよね。

●trfに「WORLD GROOVE」って曲があるんですけど、今考えたらホルストの「惑星」の「木星」にメロディーが似ているかもしれない

小室:どちらかというと金管系な感じですね。最初はテクノから、だんだんソウルミュージックへと近づけていってあげたんで。trf「Overnight Sensation ~時代はあなたに委ねてる~」はモータウンですね。ある種、モータウンもクラシック要素は強くて。

藤原:そうですね。

小室:どんなポップな曲も弦が入っていたりするので。あと、trfに「WORLD GROOVE」って曲があるんですけど、今考えたらホルストの「惑星」の「木星」にメロディーが似ているかもしれない。ああいう大きなメロディーを作りたかったときがありますね、trfに関しても。

――TM NETWORKだったら「ELECTRIC PROPHET(電気じかけの予言者)」とかもメロディーが壮大で美しい。

小室:そうだね。

藤原:ほんと、早くボリューム2やりましょう(笑)。

――いや、ほんとですよ。ちなみに今回、東京と兵庫で2公演になると思うんですが、オーケストラの楽団が変わるんですよね?

藤原:そうです。オーケストラは基本的にその土地、土地のオーケストラにお願いすることが多くて。海外でもそうなんですよ。

――そうすると、Bunkamura オーチャードホールと兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールで、またやっぱり演奏って変わってくるわけですよね。

藤原:オーケストラによって、やっぱり特色があるのでたしかに好きな方は両公演来た方がいいと思います。

――東京と兵庫、両方行ったほうがいいですね。ワクワクします!!!

●今回小室さんということもあり、こんなにも誰もが知るヒット曲ばかりのオーケストラ公演というのも珍しい

――オーケストラが生み出すクラシックの名曲って、実は歴史上語り継がれてきたポップミュージックの最たるものですよね。誰もが知るクラシックの名曲は、長い時間をかけて伝わってきたものなので。

藤原:そうですね。そして、今回小室さんということもあり、こんなにも誰もが知るヒット曲ばかりのオーケストラ公演というのも珍しいと思います。なので、メロディーを大切にオーケストラでも表現していきたいですね。オーケストラへの編曲という意味では、バッハに通じるようなアレンジもあれば、小室さんのキーワードでもある転調でいうとブラームスを感じる流れもあるかもしれません。あとは、現代音楽のストラヴィンスキーの激しい要素も取り入れてみたいですし。でもやっぱり、小室さんのイメージって僕のなかではモーツァルトなんですよ。ミュージカル『マドモアゼル モーツァルト』のサウンドをやられていたからということだけじゃなく。なので、小室さんに合うようなハイセンスなオーケストラをイメージしています。

――今回、先日までツアーをやられていたTM NETWORK曲もやられるかと思うんですが、「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」以外には、どんな曲が候補にあがりましたか?

小室:「Get Wild」は、やっぱり挙がっているよね。あと、追加で検討をお願いしているのは「STILL LOVE HER (失われた風景)」。「TIME TO COUNT DOWN」とか。

――「STILL LOVE HER (失われた風景)」は、冬の街の風景にピッタリはまりますし、「TIME TO COUNT DOWN」は、先日のツアー『TM NETWORK TOUR 2022 “FANKS intelligence Days”』でのぴあアリーナMM公演でのデジタルオーケストラなアレンジが、また近未来的なオーケストレーションの凄まじさを感じました。

小室:ありがとう。せっかくなので、まったく違うアプローチというのが面白いかなと思って。「SEVEN DAYS WAR」とかね。あの曲はサビまでが、なんであんなふうになったんだか自分で作っていながらわかってないんですよ。珍しくメジャーセブンというコードから入ってる曲で、なかなか僕のなかでは少ないんです。

――それを今回、紐解く要素となったら面白いですね。

小室:バイオリンの白玉の長いのが入ってくるのは、頭に浮かびますけどね。やったことないんで、弦はまったく。どんなふうになるのかなって。特にTM NETWORKはフルオーケストラを使ったことが1度もない。とにかくシンセサイザーで壮大さやスケール感を出すかっていうミッションだったので。TM NETWORKの場合は、テクノロジーの進化を楽器の進化に合わせて伝えなければというミッションのあるグループだから。

●サントラの『天と地と SOUNDTRACK』も本当は、生のオーケストラでやりたかったんですよ

――それでいて、小室さんはTM NETWORKメジャーデビュー翌年の1985年という、かなり早い段階で『吸血鬼ハンター“D”オリジナル・アニメーション・サウンド・トラック』を生み出されていて。しかも、クラシックの素養を前面に出した作品ながら、ストリングス、ブラス等は生楽器ではなく、シンセサイザーE-mu Emulator IIによる演奏だったんですよね。

小室:この間、聴き直したんですけど、まあまあいいですね。最初からオーケストラ的な表現はやりたかったんだけど、TM NETWORKではかなり我慢したんだなあって。サントラの『天と地と SOUNDTRACK』も本当は、生のオーケストラでやりたかったんですよ。

――それも敢えて、すべてをシンセサイザーで作るという小室さんならではの使命を持ったチャレンジ精神からですよね。しかも、特殊な制作方法をとられていて、作った曲やフレーズを大宮ソニックシティというホール空間で鳴らして、空気に震わせてからシンクラビアに音を取り込むなど実験的なことをされていました。観客がいる無音状態を録音するなど。テクノロジーを活用した実験をされていましたね。

小室:時代劇であっても、シンセサイザーで新しい表現スタイルでの録音にこだわったんですよね。結果、オーケストラ入れて録った方が何十倍も楽だったはずで(苦笑)。

藤原:『天と地と SOUNDTRACK』の曲もぜひやりたいですよね。

小室:やってもらえたら、すごいなあと思いますけど。

藤原:名曲がありすぎるので、そうだ5年計画ぐらいで(苦笑)。

――すぐにボリューム2を企画しないと(笑)。

小室:実際、曲が多いんですよね、本当に。

――しかもヒット曲が多いですからね。

藤原:そういう意味でも、モーツァルトっぽいんですよ。

――曲名見てるだけでテンションが上がりますもんね。安室奈美恵さんソングだけでもシンフォニックコンサート、出来ますよね。TM NETWORKの選曲だけでも観てみたいし。

小室:そうなんですよ。あと、hitomiさんの曲も実はオーケストラが似合うかもしれない。

藤原:いろんな方に書かれているじゃないですか? H Jungle with tでの浜田雅功さんの「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント」だってそうだし。

●ゲスト・ボーカルの人は歌メインではなくて、楽器のソリスト的な扱いかな

――そういえば、今回ゲスト・ボーカリストを迎えられるという噂を耳にしました。

小室:予定はしています。二部構成で、すべて音楽が演出なので。そんな意味でのオーケストラありきのフィーチャリングがいいなって思います。ただ歌ってもらうばかりだと結局バックバンドになってしまうので。

藤原:曲の中ではゲスト・ボーカルの人は歌メインではなくて、楽器のソリスト的な扱いかなと思っていて。

――なるほどです。楽しみですね。

小室:普段曲作りで大事にしているポイントがあるんです。曲、歌詞、サウンドという僕はだいたい三本の矢じゃないんですけどバランスを考えて曲作りをしていて。曲のメロディーがちょっと弱いかなってときは、歌詞を頑張るみたいな。一人で作っていると自分でバランスを取れるんですよ。結果、歌詞がすごくいいよねって言われる曲になったり。歌詞を大切にすると、アレンジがシンプルになったりして。もちろん全部が優れている曲も何曲かあると思うんですけど。

――それは、とても貴重な発言ですね。ポップミュージックにおける曲作りの極意な気がします。そうやって考えると、曲、歌詞、サウンドが優れている「CAN YOU CELEBRATE?」はやりそうですね。弦の高まる使い方が素晴らしくって。

小室:やりますね。

藤原:「CAN YOU CELEBRATE?」はあえて王道で壮大なオーケストラでいいのかなと思っています。

小室:双璧かはわからないですけど、「I'm proud」もそうだと思います。あれは、オーケストラ・アレンジをハリウッドお任せだったんですけど。ビート感をオーケストラが作ってくれてるというか。四つ打ちがメインではなく、オーケストラによる早いパッセージがリズムのグルーヴを作ってくれている曲だったので。ずいぶんオーケストラに助けられてるんじゃないかな。

藤原:スタジオだと細かいことを詰められるんですけど、ホールで「せーの!」で指揮をやると細かいニュアンスが大変だったりしますね。スタジオだと、フェーダーで上げ下げができるんで。

●シンセの場合はそれを全部機械でやるから

小室:そこらへんは、本当に職人技ですよね。取材中にこんな質問していいのかアレなんですけど、僕は指揮の基本をわかってないんですよ。どこが頭でとか、リリースの長さと。シンセでいうアタックの入りとかリリースなど。

藤原:ポップスの方が一番合わないのは、拍の頭ですよね。だいたい振り上げた時にみんなはじめちゃうんですけど、降ろしたここが頭なんです。ステージも広いので。たとえば後ろに居るティンパニーの人の位置で聞くと、実は音がぐちゃぐちゃだったりするんです。よくやってるなと思いますよ。本当に、指揮頼りにみんなやるんで。

小室:それしか頼りがないんですよね。当たり前のように音は届く場所によって早い遅いがあるわけで。

藤原:よく言うんですけど、指揮者には自分だけの頭の中で鳴っているオーケストラと、実際に聞こえているオーケストラのふたつがあるんですよ。オーケストラだけを聞きながら指揮すると、テンポがどんどん遅くなっちゃうんです。

小室:海の波のように、指揮者の方との距離が遠ければ遠いほど遅れて音が聴こえてくるんですね。近い人は早い。数学的な理論で考えたら気が狂う。全部ミリセカンドで違うんでしょうね。

藤原:何十人と並ぶじゃないですか? 5列、6列。前と後ろの人でも、ズレは当然あって。そのズレが音の厚みにもなるんですけど。でも、ホールというのは良く出来ていて、指揮者の位置が一番音のバランスは良いんですね。だから、今回小室さんがピアノを弾く位置はとてもいい環境で。

小室:位相とかはどうなんですか? やっぱり揺れるっていうか。

藤原:それは、もう揺れますね。バイオリンの配置があるじゃないですか。楽曲にもよるんですけど、第一バイオリン、第二バイオリン、チェロ、ヴィオラ、コントラバス、というのを、位置を変えて並べる人もいる。わざと位相を出すために。

小室:歌でいうと、(声を重ねる)ダブルでやると変わる人とあんま変わらない人もいるんですけど、僕の声はめちゃくちゃ変わるんです。重ねれば重ねるだけ、ロボットみたいな声になっていくんですよ。

藤原:超アナログなんで、オーケストラは。全部人でやるしかないですね。エコーも人力でやるんです。バイオリンで分けてフレーズを残してくんですよ。“タータータ”って、タの人がいて、ターターって伸ばす人がいて、タタタって伸ばす人がいて。エコーを付けたりします。

――面白いですね。そういうところを気をつけて聞いてみると、深みが増してきそうです。

藤原:シンセの場合はそれを全部機械でやりますからね。

小室:数値で見れるので。

藤原:ある種、人力かデジタルかの違いで、共通点はすごい多いんですよ。

●この間のTM NETWORKのコンサートにも参加していたパーカッショニスト、小野かほりさん。僕の大学の後輩なんです

――今回のライブでは、パーカッションも入られるという。

藤原:この間のTM NETWORKのコンサートにも参加していたパーカッショニスト、小野かほりさん。僕の大学の後輩なんです。彼女も、音楽大学出身で。だから、指揮にも合わせられるんですよ、彼女は。

――オーケストラにパーカッションが入ることによって、どんな効果が期待できますか?

藤原:オーケストラだけだと、グルーヴを出したい曲とか、テンポ感が後ろに重かったりするんですね。そんなところは、ちょっと彼女に引っ張ってもらって。あとはティンバレスだったり、そういう装飾的な楽器も彼女は色気たっぷりに演奏してくれるので。

小室:そう思います。

――小室さんは、小野かほりさんをどのように評価されていますか?

小室:もうglobeの初期からやってもらっているので。まさに色合いですね。色彩をつけてもらっています。僕の場合は、普段他のリズムがかなり派手なので、その上で色鮮やかにしてもらうイメージで。

――今回、公演タイトル内に“HISTORIA”と入り、小室さん歴代のヒット曲が並んできます。曲名をみていだけでもワクワクする内容になっていますが。何か裏テーマみたいなコンセプトなどあったりするんですか? 先ほど、打ち合わせで「ミュージカルみたいな雰囲気」、なんてちらっと聞こえてきました。

小室:実はちゃんとクラシックのコンサートをしっかり観たことがないんですよ。仕事でちょっと観たりはありましたけど。本当の趣味でいうと、どちらかといえばミュージカルの方が好きで。

――アンドリュー・ロイド・ウェバーを敬愛されていますよね。

小室:ロンドンに住んでた頃はミュージカルをよく観てました。入り口と終わり、カーテンコール含めてすごくイメージが沸くんですよね。ちょうど80年代末TM NETWORKの後期へと入るタイミングで。忙しいとはいえ、すごい時間を使えたんですよ。その後、僕が作った「LOVE」という曲があるんですけど、あれは、ミュージカルサイドの要望で「何よりも美しいバラードを!」って言われて。「“何よりも”って、モーツァルトより?」っていうような感じだったと思うんだけど(苦笑)。なんどもやり直したんですよ。でも、すごい時間があったんだろうなって。なのでミュージカルの経験はあるので、見えるんです。でも、オペラだと少し深すぎて、音楽も含めて。

藤原:そうですよね。でも形的には一緒ですからね。一幕、二幕。僕は似た感じで思っているんですけど、歌がないっていう意味では踊りのないバレエのステージのようでもあるのかなって。

小室:うんうん。細かく考えだすと、自分としてしては心配なことが山ほどあるんだけどね。シュミレーションをやっても、やっぱり生のオーケストラとは全然違うと思うので。ピッチとかもそうだなんですけど、いろんなチューニングなどもね。後は、ピアノの力量が追いつくかな、とかもね。

●いかに自分がソリストとして主張していけばいいのか?

――そういえば「My Revolution」もやられたりするんですか?

小室:公演タイトルにある“HISTORIA”という意味においては、自分の音楽の歴史上大事な曲だからね。あの曲で作曲っていうことに関してスポットを当ててもらったので。転調を指摘されはじめたのも、あの曲からかもしれない。

――今回こうやって実施するにあって、小室さんからいくろうさんへ質問などあったりしますか?

小室:山ほどあるんで(笑)。僕も楽器の一部にもなるワケなので「いかに自分がソリストとして主張していけばいいのか?」とかね。見え方はもちろん作れるかもしれないんですけど、聴こえ方も含めてどうやっていけばいいのかなって。ちょっとディープ・パープル話に戻りますけど、キーボードのジョン・ロードは、完全にバッハの影響なんですよ。「たしかにハモンドがあるな」とか。あとメタリカが、『ONE』というアルバム作品をフルオーケストラでやってるいんですよ。「ああいう音も合うんだ!」とかね。あとはジミー・ペイジとかの弦の使い方とか。いろんな自分なりのイメージは含ませていて。

――70年代から、ロックの可能性とクラシックの可能性は時に融合して、さらに広がってきたわけですよね。小室さんへの影響も大きいですし、いろんなクリエイターの方々の想像力を刺激してきたのでしょうね。

小室:そんなことを思い出しながら、時間があったらいろいろ聞き直してみたくなって。でも、プログレシブ・ロックっていっても「絶対にオーケストラは使わない!」って決めこんでいた人たちもたくさんいて。ピンクフロイドとかとかジェネシスとか。「絶対に弦は使わない!」、みたいな。こだわりみたいなのを感じるグループもいたと思うし、逆もあってね。

藤原:そういう意味で、オケ使わない人たちはメロトロンなどで弦を表現してましたよね。

小室:僕もずっと、つい最近まで使ってましたけど。今のメロトロンは立ち上がりが早いので。超高速で立ち上がるんですよ。

――音楽好きな小室さんなので、クラシックから広がる音楽トーク、お話が止まらなくなっちゃいますよね。

藤原:小室さんの珠玉の名曲たちをどれだけオーケストラならではの表現ができるか、責任重大だと思っていますので、頑張ります。あと、東京も兵庫も両方来たほうがいいと思います。オーケストラが違うと演奏が変わってくるので、その辺りも楽しんで欲しいですね。

小室:うん、ぜひ楽しみにしていてください!!!

<公演情報>

【billboard classics 小室哲哉 Premium Symphonic Concert 2022 -HISTORIA-】

2022年11月27日(日) Bunkamura オーチャードホール

開場16:00 開演17:00

2022年12月9日(金) 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

開場17:30 開演18:30

http://billboard-cc.com/classics/tetsuyakomuro2022/

音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

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