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「本田切り」で終わらせてはならない

清水英斗サッカーライター

パレスチナ戦後に本田圭佑によって発せられた、「(判定基準が)バスケットボールのようだった」というコメントは、AFC(アジアサッカー連盟)に審判への批判と捉えられ、5000ドル(約58万円)の罰金が課せられることになった。

パレスチナ戦のみならず、イラク戦にも見られた傾向だが、アジアカップでは軽度の接触プレーでも、すぐに笛が吹かれ、試合が止まってしまう。そのファール基準は、サッカーではなく、まるでバスケットボールのようであると。この本田発言を、審判を派遣するAFC側としては見過ごせなかった。

レフェリングに対する発言は、最大限の注意を払って口にしなければならない。今回の本田には、重々反省すべき点があるだろう。

しかし、それで終わりでよいのだろうか? 本田の発言に問題があったとはいえ、この件が、単なる審判批判として切り捨てられるのはあまりに残念だ。罰を下したAFCの側にも、軌道修正すべき点があるのではないだろうか? 

今回のアジアカップには、『60 minutes- Don’t delay, play!』(60分 ― 遅らせるな。プレーしよう!)というスローガンが掲げられている。

サッカーの試合は90分だが、ボールが外に出たり、選手が倒れていたりと、プレーが止まっている時間帯がある。それを90分から差し引いて計測した時間を、『アクチュアルプレーイングタイム』(実際のプレー時間)と呼ぶ。

アジアでは現状、このアクチュアルプレーイングタイムは1試合平均52.05分と言われている。これはFIFA主催大会よりも7.25分少なく、さらにヨーロッパ主要リーグとの比較では11.5分も少ない。この低水準の数字を改善し、60分のプレー時間を目指すこと。それが『60 minutes- Don’t delay, play!』の示すところである。

今大会前には、AFCのレフェリーが各チームを訪れ、その意図を説明してまわった。

「アジアでの戦いは、(選手が)倒れている時間が長く、ヨーロッパに比べてプレーしている時間が短いと思うので、そういう意味では、取り組みは非常に良いことだと思います」と、日本代表のキャプテン、長谷部誠は同調する。アジアのサッカーを、フェアで、激しく、レベルの高いものへ育てるために。すばらしいスローガンだ。

しかし、そのすばらしい取り組みについて、「バスケットボールのよう」と揶揄されるレフェリングが、足を引っ張っているのではないか?

日本戦のみならず、オーストラリアや韓国、中国やウズベキスタンなど、どの試合を見ても、軽度な接触プレーに笛を吹き、試合をぶつ切りにしてしまうレフェリングの傾向が強い。これでは、アクチュアルプレーイングタイムも伸び悩む。

AFCが立てたすばらしいスローガンを、自身で害してどうするのか。

Jリーグでは数年前から『フットボールコンタクト』という考え方が浸透している。すなわち、サッカーをしている以上、許容されるべき正当な体のぶつかり合いに対し、ナイーブにファールを取らず、あえてプレーを流す。そうやって判定基準を整えることで、世界で戦えるたくましい選手を育てようというねらいだ。ここ数シーズンのJリーグを見る限り、その成果は徐々に表れているように思える。

レフェリングは、サッカーの未来を作る大切な要素だ。

別の例もある。過去のJリーグでは、手を使って相手を引っ張るファールまがいのディフェンスが横行していたが、「これでは正当なディフェンスで相手を止められる選手が育たない」と、危機感を抱いた。現在のJリーグの審判は、手を使って相手を引っ張る行為に対し、厳しく笛を吹くように基準が整えられている。

すべては、世界の舞台で戦える選手を育てるため。サッカーのレベル、サッカーの魅力を高めるため。

そのような視点で言えば、今回の本田のレフェリングに関する発言には、アジアの未来への提言が込められていた。ブラジルワールドカップでは、アジア勢が1勝もできずに惨敗した。世界で勝つためにはどうすればいいのか、それを考え続けている本田が、フットボールコンタクトを許容するべきと、発言を行ったのだ。その点を、軽んじてもらいたくはない。処分して終わりではない。

AFCはこの件を、未来につなげる責任がある。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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