「北斗の拳」の新アニメ化 三つのポイントと期待すること
コミックスの累計発行部数が1億部を超える人気マンガ「北斗の拳」の誕生40周年記念に合わせて、新アニメプロジェクトが発表されました。暴力が支配する世紀末、ならず者たちを指一本で次々と倒す「北斗神拳」の使い手・ケンシロウの活躍を描いた同作。急所「秘孔(ひこう)」を突くという斬新な設定に加え、「お前はもう死んでいる」というインパクトのあるセリフ、魅力的な強敵(とも)たちの存在もあって、放送時のテレビアニメの視聴率は最高23.4%を記録するなど社会現象になりました。今回の新アニメ「北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-」について、気になる三つのポイントを挙げてみます。
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一つ目は、キャスト陣です。そうそうたるメンバーがそろった前作ですが、何せ約40年前だけに、鬼籍に入った人もいます。そのためか、今回の第一報で「新たなスタッフ・キャストと最新の映像技術で原作の魅力を余すこと無く忠実に映像化します」と早々に宣言しました。そして、ケンシロウやラオウを今度は誰が演じるかを予想するだけでも楽しいのではないでしょうか。
二つ目は、演出です。北斗神拳で秘孔を突かれた敵が無残に死ぬシーンを、最新の映像技術でどこまで表現するか。前作は、誰もがテレビを見る時間帯に放送されていたので、残酷なシーンをぼかして表現したわけですが……。今回は、ぜひ攻めてほしいというファンもいるのではないでしょうか。
そして、アニメのオープニング、ロックバンド「クリスタルキング」の「愛をとりもどせ!!」の扱いです。同曲は、今でも普通に歌える人もいるほど、アニソンの定番曲の一つです。そのためカバーしたり、本編でチラリと流したりするだけでも、古参ファンは大喜びしそう。また、インパクト抜群だった次回予告のナレーションをどうするかも、やはり気になるところでしょう。
三つめは、正式名称やロゴにもある「北斗の拳」の英語表記「FIST OF THE NORTH STAR」の存在です。日本語表記と同じ英語をわざわざ入れているということは、世界展開を最初から念頭に置いているということ。現在のアニメはネットを含めた配信ありきで、海外で盛り上がるかも重要です。当然、海外への反響も考えて制作されるでしょう。原作マンガは、欧米でも出版されてファンもいますし、ぜひさらなる広がりを期待したいところです。
ただし、コアファンをくすぐる仕掛けも大事ですが、やりすぎると新規ファンを置いていく可能性があります。誰にもわかりやすく、それでいて分かる人が見たらグッとくる仕掛けになっていると理想的でしょうか。アニメを提供するプラットフォームの選択、宣伝戦略を含めて、いかに多くの人に知ってもらい、見てもらう仕掛けを作るかも大切になるでしょう。
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「北斗の拳」は、秩序のない世界では「力による統治になる」ということを受け入れつつ、それに抵抗する勢力や、名もなき弱い人たちも描いています。その上で人の絆(きずな)や愛、志も盛り込んで、多くの人たちを感動させてきたのです。
マンガ「北斗の拳」が連載されていた当時、米国とソビエト連邦(現ロシア)が核兵器で強くけん制しあう冷戦の最中でした。その後冷戦が終わり、核の緊張感は薄れました。ところが、中国やロシアなどが、力による現状変更を試みています。ラオウのように「力こそが正義」と言わんばかりにです。
そして主人公のケンシロウは、自身の圧倒的な強さがありながら、周囲をぐいぐい引っ張るわけでなく、普段は目立つことなく振る舞い、弱い者にも優しく接するキャラクターで、日本の美意識に沿っています。そんなケンシロウが誕生から40年が経過して、新アニメで初見の人たち、特に世界の人々にどう受け止められるのか。アニメの面白さと共に、美意識が世界の人々、若い人たちへ伝わることを期待したいと思います。
(c)武論尊・原哲夫/コアミックス,「北斗の拳」製作委員会