Yahoo!ニュース

「米国は自衛隊の憲法明記を支持すべき」米有力紙社説 「安倍氏の足跡を消してはいけない」

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

米国を代表する有力紙ワシントン・ポストは11日付の社説で、「米国は、日本が自衛隊の合法性を憲法に明記する動きを支持すべきだ」と提言した。また、殺害された安倍晋三元首相がこの問題に熱心に取り組んでいたことに触れ、「安倍氏の足跡を消してはいけない」と強調した。

米世論を反映か

日本国内で世論が割れている憲法改正の問題について、米有力紙が社説でどちらか一方の立場を明確に示すのは異例。中国の軍事力拡大を懸念する米国内の世論や、中国を封じ込めるために日本の協力を必要としている米政府内の意向を反映したものとみられる。

社説では、「安倍氏は日本の国土と民主主義を守ることに政治生命を懸けてきた」「そのために、経済を立て直し、『自由で開かれたインド太平洋』戦略を提唱して米国、インド、オーストラリアとの関係強化を図り、日本の軍隊を近代化しようとした」「そしてそれらはすべて、中国の軍事力拡大、北朝鮮の核の脅威に対抗するために必要なことだと、安倍氏は正しく理解していた」などと、安倍氏の政治家、首相としての足跡を紹介。

その上で、10日に行われた参議院選挙で自民党などいわゆる改憲勢力が議席数を大きく伸ばしたことに言及し、「日曜日の選挙結果により、75年前につくられた日本国憲法を改正して自衛隊の合法性を明確にするという安倍氏の掲げた政治目標が、実現に一歩近づいた」と指摘した。

元首相の功績をたたえる

社説は、憲法改正は日本国内に慎重な意見があり、中国や韓国も強く懸念していることに目配りしつつも、日本の軍事予算がすでに500億ドル規模に達しており、約25万人の自衛隊員を抱えている現状を踏まえれば、「憲法改正案の中身は、単なる現状追認にすぎない」と憲法改正を支持。改正案が「戦争放棄」の条項まで改正しようとしているわけではないことも説明している。

さらに、自衛隊の合法性が憲法に明記されれば、日本は集団安全保障で他国と協力しやすくなり、台湾防衛も可能になると述べた。

そして最後に、「21世紀の日本は国際社会の信頼できる一員であり、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が起きた今、日本には世界の安全保障に貢献することがますます求められている」と憲法改正の意義を述べると共に、「安倍氏は早く逝きすぎた。安倍氏が日本と世界に残した足跡を消してはいけない」と元首相の功績をたたえた。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

猪瀬聖の最近の記事