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アフマダリエフ、ピカソとも3回KO勝ち。井上尚弥挑戦へ向けデッドヒートが始まった

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ピカソ(左)vs.クエリョ(写真:Zanfer Boxing)

モナコとメキシコで快勝

 クリスマスイブに東京・有明アリーナで予定されたスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)vs.挑戦者サム・グッドマン(豪州)のタイトルマッチがグッドマンの左目の負傷により1月24日に延期された。同じリングで組まれた武居由樹(大橋)vs.挑戦者ユッタポン・トンディー(タイ)のWBO世界バンタム級タイトルマッチを含むイベントがそのまま1ヵ月後にシフトされる。ボクシングではこういう不測の事態が発生するので、お楽しみは年を越して……と受け止めるしかないだろう。

 さて、昨日14日(日本時間15日)グッドマン戦の後、次々戦で井上との対戦が話題にあがる選手2人が相次いでリングに登場し、いずれも3ラウンドで試合を終わらせた。元WBAスーパー・IBFスーパーバンタム級統一王者で現在WBA1位のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)とWBC1位アラン・ピカソ(メキシコ)だ。

 モナコ・モンテカルロのサレ・デ・エトワールでアフマダリエフはWBA8位リカルド・エスピノサ(メキシコ)とWBAスーパーバンタム級暫定王座決定戦を行い、3回2分59秒TKO勝ちを収めた。一方メキシコ・ティファナでフェザー級10回戦を行ったピカソはジェイソン・クエリョ(コロンビア)に3回1分55秒KO勝ちを飾った。

イノウエに唯一、勝てる男とプロモーター

 アフマダリエフvs.エスピノサは、サウスポーのアフマダリエフに対しエスピノサが右ボディーを決めるなど出だしから積極的に手を出す。それにアフマダリエフは左強打で対抗。2回も同様な展開でメキシカンの右強打、アフマダリエフの左カウンターが当たる。

 3回、右カウンターをヒットしたアフマダリエフがペースアップ。左ストレートを見舞うとエスピノサは腰から崩れ落ちる。再開後、打ち合いで前のめりに倒したアフマダリエフにエスピノサは右を返して踏ん張る。しかしラウンド終了直前、またも左を浴びてキャンバスへ落下。レフェリーが試合を止めた。

エスピノサを3度倒したアフマダリエフ(写真:Matchroom Boxing)
エスピノサを3度倒したアフマダリエフ(写真:Matchroom Boxing)

 圧勝のアフマダリエフ(30歳)は13勝10KO1敗。「カモン、イノウエ、レッツゴー!」と普段から口にしているフレーズで井上挑戦をアピール。続いてリング上でプロモーターのエディ・ハーン氏(マッチルーム・ボクシング)が演説。「このウズベク人はナオヤ・イノウエにこの階級で唯一、勝てる男。グッドマン戦の後、イノウエには再度WBAから指名試合の通達が下るだろう。私は賭けてもいい。イノウエ陣営は彼を避けている。このウズベク・パワー(アフマダリエフ)が勝つのだから、イノウエはパウンド・フォー・パウンド最強を名乗る資格がない」とまで言い切った。

5月ラスベガスで挑戦?

 一方ティファナのサッカースタジアム「エスタディオ・カリエンテ」でピカソ(24歳)は当初組まれていた相手、アイザック・サッキー(ガーナ)に代わり、クエリョと対戦。代役のクエリョはサウスポースタイルから左右を放って仕掛けるが冷静に対応するピカソにかわされる。ハイガードで対処するピカソは左ジャブを巧打。3回、連打でチャージした後、左ボディー打ちでクエリョにヒザを着かせ、フルカウントを聞かせた。

 これでピカソは31勝17KO1分無敗。米国興行大手トップランクとイベントを共催した地元のサンフェル・ボクシングのインタビューで「次の試合がナオヤ・イノウエ戦になることを切に希望している。もっと力を蓄えなければならないことはわかっている。でも実現に向けて私の心はブレていない」と固い決意を明かした。

 メキシコの最高学府UNAM(メキシコ国立自治大学)の学生であるピカソは「イノウエ挑戦が決まれば、これまでのキャリアで最長の準備を実行しなければならない。大学側が休学届を受理してくれることを願っている。勉強の方が少し長引いてもいいように……」と早くも臨戦態勢を強調する。

 気になったのはインタビュアーが「イノウエvs.グッドマンが延期されたから、あなたの試合は5月になるね」と問いかけたこと。ピカソは「そう、そうなればいいね。キャンプの予定も立つし」と即答。まるで井上戦が既定路線のような印象がした。グッドマン戦が1月に延期され、「4月ラスベガス」と伝えられた井上の次々戦は「5月ラスベガス」にシフトする展望も見えてくる。

勝利後サンフェル・ボクシング社長フェルナンド・ベルトラン氏とピカソ(写真:Zanfer Boxing)
勝利後サンフェル・ボクシング社長フェルナンド・ベルトラン氏とピカソ(写真:Zanfer Boxing)

WBA王座はく奪はなし?

 同時にそろって快勝したアフマダリエフとピカソ。試合自体のステイタスを考慮すれば“暫定”ながらタイトルマッチを制したアフマダリエフの方が無名選手を序盤でストップしたピカソを凌ぐだろう。同時にアフマダリエフはWBAの指名挑戦者の立場を一段と強化したと受け取れる。ハーン氏が強気一辺倒の発言をしたのは当然だったかもしれない。それでもアフマダリエフと陣営には弱みがある。論議を呼ぶ判定とはいえ、井上が退けた前2団体統一王者マーロン・タパレス(フィリピン)に敗れていることだ。

 米国のボクシング専門メディア「ボクシングシーン・ドットコム」は現在、米フロリダ州オーランドで開催されているWBA年次総会で井上vs.アフマダリエフが討議されたと報じる。アフマダリエフ陣営の主張は「イノウエが挑戦に応じるように働きかけろ。拒否すればベルトはく奪だ」とまずは直球を投じてきた。これに応じてヒルベルト・メンドサ・ジュニアWBA会長は「グッドマン戦の後、10日以内にアフマダリエフの挑戦を受けるか回答せよ。さもなければベルトはく奪処分を科す」と井上側に打診するらしい。

 返す返すも井上の次戦が延びたのが残念だが、1月24日の後(もちろん井上が勝つことが条件だが)その次に関して井上陣営がどんな選択を下すか大いに気になるところだ。

大金を稼げるのはモンスター戦だけ

 アフマダリエフと陣営が井上に執着しているのは井上がスーパーバンタム級唯一のチャンピオンということもあるが、モンスター以外にビッグマネーを稼げるボクサーがいない背景がそうさせていることは否定できない。もし井上が返上またははく奪処置でWBA王座を失い、王座決定戦という運びになればアフマダリエフはより少額で試合に臨まなければならない。ファイトマネー総額のパーセンテージでタイトル承認料を徴収するWBAも実入りが減るからできる限り井上のベルトのはく奪は避けたいに違いない。

アフマダリエフvs.エスピノサの計量から。中央がハーン氏(写真:Matchroom Boxing)
アフマダリエフvs.エスピノサの計量から。中央がハーン氏(写真:Matchroom Boxing)

 そうなるとアフマダリエフにどれだけ待機する忍耐があるかも関係してくる。今回のエスピノサ戦はアフマダリエフにとって1年ぶりの試合だった。リングを離れたのは井上をずっと追跡していたからだろう。「そのうちやりますよ」という井上の言葉を信じて朗報を待つしかあるまい。

 対するピカソは所属するサンフェル・ボクシングがトップランクとパイプを構築していることが味方する。トップランクは井上の共同プロモーターという立場にあり、比較的イベントが挙行しやすいのではと推測される。さらに5月米国開催となれば、例年メキシコの戦勝記念日にちなんだ興行が行われるだけにメキシコ人が抜てきされる可能性が拡がる。もしかしたらグッドマンのケガは間接的にピカソに有利に作用するかもしれない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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