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ネリ体重落ちず。井上尚弥戦からの復帰戦は2月まで持ち越し

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
井上尚弥vs.ルイス・ネリ(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

ネリ・アウト、ピカソ・イン

 元WBC世界バンタム級&スーパーバンタム級王者ルイス・ネリ(メキシコ)が今週土曜日14日(日本時間15日)地元メキシコ・ティファナでノンタイトル戦を予定していた。しかし「相手未定」のままスケジュールから消えてしまった。代わりにWBCスーパーバンタム級1位アラン・ピカソ(メキシコ)が抜てきされ、アイザック・サッキー(ガーナ)と対戦する。ティファナのサッカースタジアム「エスタディオ・カリエンテ」で米国興行大手トップランクと同じくメキシコ大手のサンフェル・ボクシングが共催するイベントのメインではスーパーミドル級上位のハイメ・ムンギア(メキシコ)がブルーノ・スラス(フランス)と10回戦を行う。

 ネリが出場すれば、5月に東京ドームでスーパーバンタム級4団体統一王者井上尚弥(大橋)に挑戦し激闘の末、6回TKO負けして以来のリングになるはずだった。ネリは10月下旬から始動。「12・14ティファナ」に照準を合わせて調整しているはずだった。出場を見合わせた理由は何だろうか。数日前、代理人のショーン・ギボンズ氏はネリの復帰は来年2月になるとメディアに語っている。

 率直に言って、ネリがカムバックを急いでいないのは井上戦でかなりのファイトマネーを稼いだことが関係しているだろう。だがフェザー級転向が有力視されたネリが122ポンド(スーパーバンタム級)で再度ベルト獲得を目指すと明かしていることからブランクが長引くことはキャリア停滞を意味する。井上戦から7ヵ月以上経過し、本人も周囲も気負い立っていたのではないだろうか。

コンディション不良

 その事情を知ろうとティファナ在住のエドムンド・エルナンデス記者(映像メディア「ラ・エスキーナ・デル・ボクセオ」)に質問してみた。同記者は単刀直入に言った。

 「ネリはフィジカル・コンディションに問題を抱えている。体重が落ちないんだよ」

 思わず「またかよ」と言わずにはいられなかった。「落とす努力をしない」と指摘できるかもしれない。規律の問題がまたも頭をもたげる。ネリはやっぱりネリなのか――と思わざるを得ない。

 以前ネリに直接聞いた時「復帰戦はさしあたり126ポンド(フェザー級)ぐらいを予定している」と話していた。その体重さえ遵守できないとなればネリの永遠の課題である節制が徹底されていないことの証だろう。もっとも本人は「次に落とせばいいや」ぐらいにしか思っていないかもしれないが……。

 減量も問題だが、そもそも「ネリは大食漢」だとエルナンデス氏は説明。オフに腹いっぱい食べて調整が始まるとプランを立てて徐々に落とすケースと計量直前に一気に落とす場合があるようだ。前者が井上戦で、後者が山中慎介との第2戦だった。

メキシコのテレビに今後について語るネリ(写真:Zanfer Boxing)
メキシコのテレビに今後について語るネリ(写真:Zanfer Boxing)

名将と再度コンビを組む

 もう一つネリのカムバック戦が延びている要因はトレーナーのスイッチだと推測される。これも前回ネリに話を聞いた時、井上戦でチーフトレーナーを務めたザミール・ロサノ氏とコンビを継続すると明かしたが、その後ネリが同トレーナーに師事した形跡はない。ジムワークを開始したネリは同じティファナのロムロ・キラルテ氏の指導を受けている。

 キラルテ氏は中谷潤人(M.T)に王座を明け渡した前WBC世界バンタム級王者アレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)、元WBC世界ライト級王者アントニオ・デマルコ(メキシコ)、レジェンドのフリオ・セサール・チャベス(メキシコ)の台頭期とキャリア後期を担当したベテラン・トレーナー兼マネジャー。息子のロベルトとボビーがサポートする。

 グローブを握った当時ネリは同氏に師事した関係で再び教えを乞うことになった。私に言わせると学校教師のような雰囲気を持つキラルテ氏に指導を仰ぐことは悪童のレッテルを貼られた男に好影響を与えると思われる。だがその直後に体重トラブルとは困ったものだ。メキシコでは名将の一人と呼ばれる同氏をしてもネリは飛び切り扱いにくい選手なのだろう。

本当は豹ではなくてハイエナ?

 さて、ネリの次戦は2月になると語ったギボンズ氏だが、今後どのようにキャリアを導いていくのだろうか。ドイツのハンブルクで開催中のWBC年次総会に出席している同氏は「井上がフェザー級へ舵を切るならば」という仮定で、「そうなるとマーロン・タパレス、ルイス・ネリ、カール・ジェイムズ・マーティンに(王座獲得の)チャンスが生まれる」と今後に触れる。タパレスとネリは井上と対戦してストップ負け。マーティンはランキング上位にいるタパレスと同じフィリピン人。自身の持ち駒に井上が去ったスーパーバンタム級でそれぞれタイトル獲得の機会が生まれるだろうと強調する。

 すでに報じられているように井上がグッドマンを破れば「来年4月ラスベガス登場」が既定路線。その有力な対戦者としてピカソの名前が挙がっている。ギボンズ氏はピカソも傘下に加えようと画策しているのか「彼は素晴らしいファイトをメキシコとアメリカのファンに提供するだろう」と太鼓判を押し、「無敗のヤングキッド」としきりに売り込む。反対に私はこれまでも記してきたように無双の強さを見せつける井上に対して今のピカソでは圧倒的に不利の予想が成り立つ。

14日の試合の会見に出席したピカソ(写真:Mikey Williams/Top Rank)
14日の試合の会見に出席したピカソ(写真:Mikey Williams/Top Rank)

 ピカソに関してはまた触れるとして、ギボンズ氏は井上が4月予定の試合で一気にフェザー級へ進出するならばWBO王座の決定戦になるかもしれないとほのめかす。現在WBO世界フェザー級王者はラファエル・エスピノサ(メキシコ)。先週土曜日7日、前王者ロベイシー・ラミレス(キューバ)に6回TKO勝ちで2度目の防衛に成功したばかり。身長185センチの長身王者は1クラス上のスーパーフェザー級へ上がる計画があるという。空位となるかもしれない王座の決定戦に井上が優先的に出場する可能性を匂わす。

 今回、コンディション(体重)調整が間に合わず復帰を見送ったネリの姿からスーパーバンタム級で捲土重来が達成できるかは甚だ疑問だが、可能性はより強豪がひしめくフェザー級に比べてあるのではないか。しかし「アフター・モンスター」という状況は否定できない。井上というライオンが去った後、徘徊するハイエナを想起させる。ネリには“パンテラ”(豹)というニックネームがあるが、実体はハイエナなのかもしれない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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