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文化人タレントが地上波テレビから消えつつある理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(写真:イメージマート)

テレビプロデューサーの佐久間宣行は、テレビやYouTubeで映像コンテンツの制作を手がけている一方、メディアに出演する機会も多い。フジテレビの深夜番組『オールナイトフジコ』ではMCを務めている。

このキャスティングは業界内でも話題になった。なぜなら、近年のテレビではこのぐらいの知名度の文化人タレントが大きな番組のMCに抜擢されるようなケースが少なくなっているからだ。

テレビ業界では、人前に出ることを本業としない学者や評論家などの出演者のことを「文化人」と呼ぶ慣習がある。昔に比べると、近年は文化人がバラエティ番組に出演する機会は少なくなっている。

もちろん、文化人がテレビに出なくなっているわけではない。今のテレビでは、時事ネタを扱う情報番組の枠が大きくなっていて、その中でコメンテーターとして出演している文化人は大勢いる。また、インテリ系の文化人がクイズ番組などの教養系のバラエティ番組に出る需要はそれなりにある。

しかし、それ以外の一般的なバラエティ番組では、文化人を見かける機会が年々少なくなっている。特に、ゴールデン・プライム番組のMCを務めるほどの立場にまで上り詰めたのは、マツコ・デラックス、池上彰、林修など数えるほどしかいない。なぜ文化人のバラエティ出演が減っているのだろうか。

その最大の理由は、番組の制作費がどんどん削られていることだ。かつては、1つの番組に多くのタレントを起用することができた。その中で「文化人枠」を設けて、文化人を出演させることができた。

しかし、今のテレビにはそんな余裕がないため、一番組あたりの出演者の数が最小限のものになっている。その中では、仕切りができたりコメントが面白かったりして器用に立ち回れるタレントが優先され、文化人が起用されにくくなっている。

また、芸人の立場が強くなりすぎたということも挙げられる。今のテレビでは、司会者からコメンテーターまで、あらゆるポジションに芸人が入り込んでいる。プロの芸人はしゃべりだけで笑いを生み出す能力があり、それだけでテレビの世界では重宝される存在である。

その上、それぞれの芸人が得意分野を持っていて、最新家電の解説をする、おすすめの本を紹介する、キャンプの魅力を語る、といったパフォーマンスをすることができる。昔なら文化人がやっていたような仕事を、今では芸人が任されるようになっている。

また、今のテレビではコンプライアンスが求められるようになり、過激なことができなくなっている。そこで出演者に求められるのは「過激な感じがするがギリギリセーフの面白いこと」を言う能力である。それができる毒舌系の芸人やタレントは重宝される。

一方、文化人はそんなテレビのルールを無視して自由奔放に発言するところに面白さがあるのだが、今の地上波テレビではそんな彼らの強みを生かし切れないことも多い。

そのため、現代の典型的な文化人と言えるひろゆきや成田悠輔は、地上波テレビよりもYouTubeなどのウェブメディアでよく見かける。地上波テレビほど規制が厳しくない場所の方が、彼らの持ち味を生かせるからだ。

一昔前のテレビには幅広いジャンルの人間が出ていて、多様性があった。今ではそれがなくなり、文化人タレントはどんどんほかのメディアに流出している。この動きが止まることは当分ないだろう。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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