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居酒屋で10年のアルバイト経験をもつ有名芸人が断罪した客の迷惑行為は本当に正しいのか?

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

居酒屋の迷惑客

<居酒屋の迷惑客に元店員の芸人が激怒 ネットでは賛同得られず>という記事で興味深い話が掲載されていました。

居酒屋で10年間ものアルバイト経験を持つ井口は「(飲食店は)バカなお客さんが多い。なにより自分がバカなお客さんだと気付いてないんですよ」と迷惑行為をしていることに気付いていない客が飲食店には多いので、どういったことが迷惑行為なるのかを店員目線で語った。

出典:居酒屋の迷惑客に元店員の芸人が激怒 ネットでは賛同得られず

あるテレビ番組で、お笑いコンビ「ウエストランド」の井口浩之氏が、居酒屋で10年間アルバイトした経験から、サービススタッフにとって迷惑となる客の行為を紹介したというのです。

迷惑行為

井口氏が挙げた迷惑行為とは以下の通り。

  • 空のグラスを見せて、同じものをもう一杯
  • 席を離れている時に注文
  • トレイからドリンクを勝手に取る

1つ目は、客が飲み終えた空のグラスを見せて「同じものをもう一杯」と注文する行為。サービススタッフは空のグラスを見せられても何が入っていたのか分からないので、しっかりドリンクの名前を言ってほしいということです。

次は、客が席を離れている時に注文する行為。その客がどのテーブルにいるのか把握していないので、注文したものをどのテーブルまで運んで行けばよいか分からないと述べています。

最後は、大人数で訪れた客にドリンクを運んで行った時、客がトレイからドリンクを取る行為。ドリンクを勝手に取られると絶妙に維持していたトレイのバランスが崩れて危ないということです。

井口氏が述べた客の迷惑行為について、以下の観点から考えてみましょう。

  • 注文は契約
  • 客の役割

注文は契約

飲食店での注文は、客と飲食店との契約にあたります。飲食店は客にメニューを用意し、客は飲食店に代金を支払うという契約です。契約するにあたって、当然のことながら、どの客に何を用意するかはとても重要な事項となります。

1つ目の迷惑行為では何を用意すればよいか、2つ目の迷惑行為では誰に用意すればよいのか、飲食店は正確に分かりません。

もちろん、1つ目の迷惑行為は、直前の注文を受けたサービススタッフであれば何を用意すればよいのか、分かるでしょう。2つ目の迷惑行為も、その客のテーブルを担当しているサービススタッフであり、テーブル全ての客の顔を覚えていれば、どこに運んで行けばよいのか分かるかも知れません。

しかし、本来であれば、誰に何を用意するかは確実に伝えられるべきです。ここが曖昧であるとオーダーミスが起きてしまいます。

オーダーしたものと異なるドリンクを持って行ってしまえば、客は受け取りを拒否し、返されたドリンクは飲食店の損害となってしまうでしょう。

ドリンクを他のテーブルに持って行ってしまえば、届けられたテーブルの客は困惑します。もしも気付かずに飲まれてしまった場合には、勝手に置いた飲食店が損害を被ることになるでしょう。

注文は飲食店と客との契約であることを前提とすれば、曖昧な注文が行われるべきではありません。

客はサービススタッフに、正式なメニュー名をはっきり告げたり、確実にどのテーブルであるかを伝えたりする必要があるのです。

客の役割

3番目の迷惑行為は、先の迷惑行為とは性格が異なります。

1番目と2番目の迷惑行為は、客による注文の方法に関してであり、客が注文してならないのではありません。しかし、3番目の迷惑行為は客が本来行うべき行為ではないのです。

フランス料理店では、フォークやナイフなどのカトラリが落ちたら客は自ら拾わず、サービススタッフに声を掛けて対応してもらいます。落ちたものがグラスなどであれば、割れて危ないこともあるので、余計に触れてはいけません。

客の役割は、姿勢よく座って食事やワイン、会話を楽しむことであり、席を外して床に手を伸ばすなど不格好なことをするべきではないのです。

会計がテーブルチェックになっているのも、キャッシャーに並ばせるという美しくない行為を客にさせないためです。

客はレストランで食事を楽しむと同時に、自身がレストランにおける雰囲気の一部となります。

レストランの雰囲気を作り出す客が、品よく優雅に楽しく過ごせるようにするため、サービススタッフが存在しているといっても過言ではありません。従って、客は基本的にサービススタッフの仕事を手伝う必要はないのです。

ラーメン店などのカジュアルな業態ではキッチンからカウンター席の客に渡したりします。立ち食い蕎麦やカフェテリア、ブッフェスタイルでは客が自分で料理を取って運びますが、こういった業態はそもそも客が取ることを前提としているので先の例とは事情が異なります。

飲食店のサービスは基本的に客が動かないことを前提として設計されているので、件のように客がドリンクをサービススタッフから勝手に取る行為はよいことではありません。

ドリンクであればこぼす可能性もありますし、料理であればドリンク同様に取り落としたり、火傷したりする危険性もあります。

客が親切心から発せられた行為であっても、飲食店が想定していないことであれば十分に迷惑行為となってしまうのです。

客と飲食店との関係

ノーショーやドタキャンの問題でも述べているように、客が飲食店を予約したり、注文したりするのは契約なので、しっかりと履行されるようにしなければなりません。

飲食店は客に心地よく過ごしてもらおうとして、色々なことを考えて日々オペレーションをこなしているので、客は飲食店では特に何もせずリラックスしてサービススタッフに任せるのがよいでしょう。

テレビ番組ということもあり、井口氏は過激な表現で述べていたのだと思いますが、客と飲食店との関係についてとても重要なことを示唆しており、真摯に受け止める必要のある内容であると考えています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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