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A美さん初めての投票:「いきなり恥かいた!」:2014衆議院選挙戦後最低の投票率と若者たちの政治意識

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(イメージ写真)

■衆議院選挙2014戦後最低の投票率

衆議院選挙が終わりました。

投票率は、小選挙区選で戦後最低だった前回を6・66ポイント下回る52・66%でした。

そんな盛り上がらない選挙の中、親元を離れて暮らす20歳の女子学生A美さんは、生まれて初めて投票しました。

■「選挙に行きなさいよ!」

A美さんは、ごく普通の女子学生。大学生の中には、政治に関心のある人ももちろんいますが、A美さんはまったく関心がありません。「選挙」のことなんか、ほとんど考えていません。

これだけの連日の大報道。知らない人がいるなんて考えられないという人もいるでしょうが、知らない人は知りません。新聞も読まない、テレビやネットの政治ニュースも見ない人にとっては、選挙っぽいことを何かしているとは思っても、12月14日が衆議院選挙だとは知らない人もいるのです。

そんなA美さんが、お母さんと電話で話します。「今度の日曜日は選挙なんだから、ちゃんと投票に行きなさいよ!」。お母さんに言われて、A美さんは初めて選挙だと知りました。でも、衆議院が何かも知りません。お母さんに説明されて、「ああ、今度の日曜日は面白いテレビをやらない日ね」と思いました。毎回国政選挙の夜のテレビは、選挙特番ばかりですから。

(先日ある男性お笑い芸人が、テレビ番組で「衆議院って何?」「与党って何?与党って変わるの?」とまじめに質問していました。知らない人がいるのは女子学生だけではありません。)

■選挙って、どこでやっているの? 誰に投票したらいいの?

20歳といっても、まだ親に頼っています。「行きなさい」と言われれば、行こうとは思います。でも、どこに行ったらよいのでしょう。どうしたら良いのでしょう。

A美さんは、親に言われて住民票はちゃんと移してありました。投票場の入場券は来ているはずです。

「投票場所は入場券に書いてあるでしょ」と母親に言われ、ああそういえば何か来ていたと思ったA美さん。入場券を見て、投票場所はわかりました。

でも、選挙区に誰が立候補しているのかも知りません。親がネットで調べて名前をあげると、一人の候補者の名前を知っていました。以前、女性スキャンダルで話題になったからです。A美さんは、この人には絶対投票しないと思いました。

それでもA美さんは、不安がいっぱい。投票所に行って、どうふるまえば良いのかわからないからです。お母さんは、小選挙区、比例区の説明などをしますが、なかなか理解してくれません。「ともかく行きなさい。行けば、係りの人が親切に教えてくれるから」と母親がさとします。

ところが、A美さん「入場券が2枚来ている」と言います。親も少し戸惑ったのですが、どうやら同時に行われる市長選挙用のようです。2枚とも持って行きなさいと言われ、A美さんは、ともかく選挙に行くことに決めました。

■投票場で。「もう、いきなり恥かいちゃった」

投票を終えたA美さんから電話がかかってきました。投票場に行き、2枚の入場券を出したA美さん。ところが、1枚は不要だと言われました。訳のわからないまま従ったそうですが、「もう、いきなり恥かいちゃった」とA美さん。

どうやら、市長選は対立候補がいなかったために無投票になったようです。市長選がなくなったことなど、市内のおじ様、おば様なら、みんな知っていることでしょう。でも、そんな市長選の話題にまったく触れることがない若者もいるのです。

失敗はまだ終わりません。A美さんは、いらなくなった入場券を投票箱に入れようとして、係りの人にあわてて止められました。「回収のための箱だと思った」そうです。

係りの人には、ずいぶん世話になったようです。同時に行われた最高裁国民審査は、親も説明を忘れていました。まあ、それはまた今度説明すればよいでしょう。とにもかくにも、A美さんの生まれて始めての投票でした。

これで政治に関心を持つようになったとは言えませんが、少なくとも自分が投票した人と、当選して欲しくないと思った人の結果には、少し関心を持ったようです。

■投票率低下、特に若者の投票率低下について

今回の低投票率について、政治家は反省するべきだと思います。選管も明推協(明るい選挙推進協会)もマスコミも、反省点はあると思います。同時に、Yahoo!ニュース「個人」オーサーであり、政治家でもマスコミ人でもない一個人としての私は、一人ひとりの国民も、大いに反省すべきだと思います。

昭和42年から平成24年までの衆議院議員総選挙における年代別投票率の推移(総務省)。一番下が20代。
昭和42年から平成24年までの衆議院議員総選挙における年代別投票率の推移(総務省)。一番下が20代。

A美さんのお話はフィクションです。まったくの作り話ではありませんが、いくつか聞いた話の合成です。でもA美さんのような人は、日本中にたくさんいたかもしれません。

2014年の新成人の数は、121万人。この中で、投票デビューを果たせた人は何パーセントだったのでしょうか。若者に投票してもらおうと、いろんな人がいろいろと語ります。

私たちは無力か。はい、そう思っている限りは。:参議院選挙は低投票率?(特に若者たちへ):Yahoo!ニュース「個人」碓井真史>

投票の意義を語ることはもちろん大切ですが、ともかく「行け!」と言ってくれる人も必要かもしれません。選挙はともかく行くものだと感じさせましょう。よくわからなくても、忙しくても、選挙の時にはともかく投票に行かなくちゃと思わせましょう。

これからは、18歳で成人とし選挙権を与える話も出ています。若者の投票率は、さらに大きな問題になります。

成人は20歳か18歳か:成人年齢引き下げ問題を考える:Yahoo!ニュース「個人」碓井真史>

初めての投票行動が、政治への意識を高め、さらに毎回の欠かさぬ投票行動を導き、政治ニュースへの感心を高めるでしょう。

世界のあちこちで、普通選挙を求めて戦っている人がいます。今回の衆議院選挙でも、吹雪の中、杖をつきながら投票場にやってきたおばああちゃんもいます。戦後婦人参政権が認められて以来、一度も棄権したことはないと語ってくれた高齢の女性もいました。

若者が投票に行くように、まず中高年が模範を示し、そして親も教師も政治家もマスコミも地域も、みんなで若者を後押ししたいと思います。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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