成人は20歳か18歳か:成人年齢引き下げ問題を考える
■成人とは何歳?
「成人」といえば、20歳が当たり前。日本では、この100年、20歳が「成人」でした。ところが世界では、18歳成人が、むしろ標準です。世界の約9割が18歳で成人です(187の国地域のうち、141の国地域で18歳(以下)成人です)。
OECD(経済協力機構)に加盟する30ヵ国の中でも、20歳を成人とするのは日本だけで、他の国は18歳を成人と定めています(韓国は19歳成人。アメリカは州によって成人年齢が異なりますが、45州で18歳成人、選挙権は全米で18歳)。
そして、日本でも成人年齢引き下げの論議が始まっています。きっかけは、2007年に成立した「国民投票法」。この法律では、投票年齢を18歳以上としています。
■18歳成人の影響
18で成人、大人とするならば、18歳で投票権があり、少年法からはずれ(たとえば18歳で実名報道)、国民年金を払い、酒タバコもOK、18歳で様々な契約ができ、親の承諾なしに結婚もできるということになるでしょうか。
成人年齢を変えようとすると、関係する法律、政令なども300を超えます。
ただ現在でも、すべてが20歳で線引きされているわけではないので、法律ごとに違っていても良いのですが、成人にともなう権利と義務はバランス良く与えなければおかしなことになるでしょう。
そこで、様々な方面から賛否両論がでています。
若者の政治参加をうながそうという話しであれば、賛成の人が多いでしょうか。少年法適用年齢の引き下げは、賛否両論でしょう。酒タバコを18歳でというのは早いと感じる人が多いでしょうか。
20歳でも以前と比べて子供っぽいのに、18歳成人としたらますますトラブルが増えると心配している人もたくさんいます。いやだからこそ、自覚をうながすためにも、世界標準にあわせて18歳成人をすすめようとする人もいます。
昨年12月の内閣府の調査では、父母の親権が及ぶ範囲を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げることに、69%が反対でした。
■世界はなぜ成人年齢を18歳に引き下げたのか
世界各国も、以前は20歳または21歳成人でした。それが、この数十年で続々と18歳成人に変更されていきました。
イギリス1969年、ドイツ、フランス1974年、イタリアは1975年に変更されています。その大きなきっかけは、学生運動を背景とした青年たち自身の声と言えるでしょう。「僕たちにも選挙権を与えろ、私達も大人として認めて欲しい」。国家と世界を変えようとしていた青年たちの大きな声が世界中で響き渡っていました。
日本でも、当時は普通の学生たちが天下国家を熱く語っていたと思うのですが、なぜか成人年齢引き下げは実現しませんでした。
ただ世界の中には、少年を兵士として使うために成人年齢を引き下げた国もあるようで、これは見習いたくありませんね。
■日本人と子供
日本人はとても子供をかわいがります。それは良いことだと思うのですが、子供がお金や政治に関わることを嫌う雰囲気があるかもしれません。
アメリカなら、何かの目的で子供たち自身が工夫してお金を稼げばほめられるでしょうが(子供がベビーシッターをしたり、レモネードを売ったりする話しを映画ドラマでもよく見ます)、でも日本なら子供がお金を稼ぐなんて「問題行動」になりかねません。
近年は、以前にも増して青年たちを子供扱いしているようにも思えます。高校でも大学でも、以前よりもずっと手厚い指導をしているのではないでしょうか。大学が、学生の成績表を親に送るのは、今やごく普通のことです。親が大学の入学式に出席するのも、普通のことになりましたね。
もちろん、より良い教育をすることは望ましいことに決まっていますが、ニーズに応じて行っている様々なケアの中には、子供若者の自立につながらないこともあるかもしれません。
マラソン、騎馬戦、棒倒しなど、以前は行われていた子供に負担を与える競技類も、事故や親からのクレームのために、縮小廃止されたケースも多いでしょう。
■成人年齢引き下げ、子供を大人にする各国の工夫
今年1月11日に放送されたNHK『ニュース深読み』(テーマ「18歳からオトナに!? どうする?成人年齢引き下げ」)の番組内では、次のような各国の工夫が紹介されていました。
アメリカでは、大統領選挙の公約に子供版を作っています。子供にもわかるように、公約を示してくれるわけです。ドイツでは、政治に関する学校教材を作ったり、スウェーデンでは修学旅行に行く行かないのところから子供に議論させたり、イギリスでは「若者議会」が開かれ実際の問題を協議し決めさせています。
日本でも、もちろん様々な工夫がされています。修学旅行に行くときにみんなでバスに乗って同じ所に行くのではなく、班ごとに行き先を決めて自分たちで行動させたり、職場体験先に子供自身が電話してアポを取らせたり、いろいろがんばってはいます。
ただ、政治行政に関することにはあまり積極的に関わっていないかもしれません。学校運営に関して意見を述べようとする若者も減っているでしょう。
かつて大学紛争が高校にも広がったころ、たとええば多くの都立高校で制服自由化問題が発生し、高校生たちが熱い論議を重ね、制服自由化を勝ち取った歴史もあるのですが、現在ではなかなか難しいでしょう。
■18歳成人に向けて
世界の9割が18歳成人だからと言って、日本もそうしなければならないわけではありません。昨年12月の内閣府世論調査によれば、成人年齢18歳への引き下げ議論について、77%が「知らない」と回答しています。しかし、国民投票が行われるときには18歳も投票することになります。
若者たち自身が、どうせ自分たちは無力だとか、大人が教えてくれないから悪いなどと言うのは甘えだと思いますが、大人の側も「近頃の若者たちは」と嘆くだけでは無責任です。その子供若者を作ってきたのは、大人たちですから。
子供を大人にして自立させることこそが、親の一番大切な役割ではないでしょうか(「子供が大人になるということ:思春期青年期の子にとっての良い親とは。」:Yahoo個人(碓井真史)「心理学でお散歩」)。
今現在、18歳の若者たち自身から「選挙権を与えろ! 大人として認めろ!」という強い声は聞こえてきません。このまま、大人たちが18歳の若者に成人としての権利義務を押しつけるのは望ましくないと思います。
だから大人たちが、さらに工夫する必要があるのでしょう。青年たちだって、考え始めています。
そうですね。法律を変える準備をしましょう。成人式会場の近くには、各政党の宣伝カーが来ていますが、いよいよ18歳にも選挙権となれば、各党も20歳未満の若者へのアピールを始めるでしょう。親も学校も考えていきましょう。
たとえば、先日「いじめ防止法」が成立しましたが、こういう法律こそ、子供にもわかりやすく示す必要があると思います(「いじめ防止対策推進法条文を読む:子どもでもわかるようにいじめ防止法を解説」:Yahoo個人(碓井真史)「心理学でお散歩」)。
若者のみなさん。あなたは無力ですか? そうですね、あなたがそう思っている限りは(私たちは無力か。はい、そう思っている限りは。:参議院選挙は低投票率?(特に若者たちへ):Yahoo個人(碓井真史)「心理学でお散歩」)。
でも、誰が市長になるか、どんな議員が議会でどんな質問をするかで、あなたの町は変わります。
☆新成人のみなさんへ
大人の世界へようこそ。大歓迎です。一緒に、あなたが暮らすこの社会を作っていこうよ。
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成人年齢引き下げ、18歳成人を心理学的に考える1(こころの散歩道)
成人年齢引き下げを心理学的に考える2:青年期の心理的特徴(こころの散歩道)
成人年齢引き下げ3:少年法と少年犯罪の心理から考える(こころの散歩)
「子供が大人になるということ:思春期青年期の子にとっての良い親とは。」:Yahoo個人(碓井真史)「心理学でお散歩」
いじめ防止対策推進法条文を読む:子どもでもわかるようにいじめ防止法を解説」:Yahoo個人(碓井真史)「心理学でお散歩」
私たちは無力か。はい、そう思っている限りは。:参議院選挙は低投票率?(特に若者たちへ):Yahoo個人(碓井真史)「心理学でお散歩」
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