引き継がれる負の連鎖 北欧の社会問題を考える映画2作品
ノルウェーの首都オスロでは現在「Oslo pix」(オスロ・ピックス)映画祭が開催されている。
デンマークの「危険な」移民地区にある、ほんわかする床屋さん
5日に総選挙が行われたデンマークでは、中道右派から中道左派へと政権交代が確定した。中道左派と聞くと、移民政策により寛容となるイメージがあるかもしれないが、そうとも限らない。
幸福な国ランキングで話題となりやすい北欧。外国人に福祉制度を壊されてはたまらないと、政策が右傾化している。
移民政策においては以前から厳しかったデンマーク。極右の政策と言論は、他党に少しずつ伝染した。今回の政権交代は、「極右ではなくとも、ほかの政党でも厳しい受け入れ政策が可能」と政治家が市民からの同意を得たとも解釈できる。
『Q’s Barbershop』(2019)、『クーの床屋さん』というデンマーク映画では、そんな社会の片隅で生きる移民の生活と葛藤の側面を垣間見ることができる。
ドキュメンタリー映画なので、登場人物たちは実在する。クーさんの経営する床屋は、移民や難民「問題」が集中化していると、ニュースでも話題となるエリア。
しかし、一部の人が問題を起こしたからといって、住民全員がそうであるわけではない。
「この国では歓迎されていない」と母国ソマリアを想うクー。自分の居場所がなさそうな発言をするクーだが、彼の床屋にはたくさんの男性客たちが毎日集まる。まるで、そこはみんなの心が休まる家のようだ。
仕事を見つけようと、差別に押しつぶされまいと、社会に馴染もうと試行錯誤する人々。
この国の片隅で、何が起きているのか。
カメラ(鏡)に向かって話しかけるお客さんと、まるで対話しているような気持ちになるかもしれない。
映画を見ていると、心がほっこりと温まり、「髪を切りに行こうかな」とあなたも思うかもしれない。
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貧困問題が若者の未来を狭める スウェーデン映画で考える
映画『GOLIAT』(2018)に登場するのは、家族を大事にする17歳のキム。スウェーデンで失業率が高い、小さな町に住む。
家計を支えていた父親が刑務所に入ることになった。家族がバラバラにならないために、両親はキムが父親の麻薬の売人の仕事を引き継ぐことを望む。
方や、遠い町で仕事ができるかもしれない、別の未来もキムを待っていた。
でも、キムがいなくなったら、病気の母親や小さな弟と妹はどうなるのか?
家族の絆、貧困という社会的遺産が、若者の人生の選択肢をどれだけ狭めているかをリアルに描く。
この映画を見ている時に思い出した邦画が『万引き家族』だった。ノルウェーでは是枝裕和監督の映画は安定した人気を保っており、同作品は現地メディアでも絶賛された。
貧困と家族の形、親と社会が子に負わせる負担、第三者機関が介入するタイミングなど、考えさせる共通の課題点があった。
実話ではないが、どこかリアルに感じる。
北欧では社会問題をテーマに、見た後に考えさせる映画が多い。デンマークの床屋の映画では、心が温まるものを感じたが、スウェーデンの家族の映画では、小さな絶望とやるせない思いを抱いたのだった。
Text: Asaki Abumi