複数恋愛は子どもっぽいのか?新しい恋愛と家族の形を探るフィンランド映画
関係者全員の合意を得て、複数の人と親密な恋愛関係をもつ。Z世代の新しい選択肢としても話題にあがる「ポリアモニー」。フィンランド映画『Four Little Adults』(4人の小さな大人)は、これからの恋愛スタイルと新しい家族の在り方を考えさせる良作だ。
有名な政治家として活躍するユーリアは、夫で司祭のマティアスと息子と幸せな暮らしをしていた。しかし、マティアスの不倫という事実を叩きつけられ、彼女はとある決意をする。
3人とも、もう秘密は持たずに、ポリアモニーというオープンな恋愛関係をしていこう。夫婦生活は継続し、マティアスと相手の女性は堂々と交際をしてもいい、と。
ユーリアはその後、他の男性とポリアモニー関係にある別の人と出会う。こうして4人は互いの合意の下で新しい関係を始めたが?
ノルウェーのOslo Pix音楽祭で本作のことを知った時は、見に行くか筆者はためらった。これまでにフランス映画などでも、合意のもとで複数の人と交際をする夫婦の作品などは見たことがあるが、「性の快楽」を中心としたベッドシーンが続くものばかりだったからだ。
しかし本作は性の快楽よりも、恋愛と家族がテーマ。「複数の人を同時に好きになることはあり得る」という新しいライフスタイルに苦悩しながら、模索を続ける関係者の姿と嫉妬を描く。
主人公のユーリアを演じるのは、ムーミンの生みの親トーベ・ヤンソンの人生を描いた映画『TOVE/トーベ』で主人公を演じるアルマ・ポウスティだ。
複数の関係を持ちたい=「子どもっぽい」のか?
題名にもあるように、複数の人とオープンな関係をしようとする大人たちは、従来の恋愛や家族の在り方をよしとする関係者から「子どもっぽい」「早く大人になりなさい」と本作でもたしなめられる。
夫のマティアスは司祭であるがゆえに、男性社会の価値観に囲まれた仕事をしている立場だ。これまでの男性司祭たちの顔写真に囲まれて祈りをささげる姿、男性の上司からアドバイス(警告)される姿など、伝統的な価値観と今の新しい恋愛のかたちに挟まれて苦悩している。
映画祭では、上映後にSelma Vilhunen監督が登場し、舞台裏を語った。
「なぜポリアモリーなのかというと、まず第一に、愛とロマンチックな愛について書きたかったから。ポリアモリーという概念を知ってから、私の心に響いて気になっていたからです」
「私はポリアモリー的な関係はしていませんし、誰もがポリアモラスな関係で暮らすべきだとも思っていません。ですが、ポリアモリーは最大限の愛のかたちのようにも感じられたんです。私自身の魂の探求をするためにも、この作品を作りたいと思いました」
「フィンランドではオープンな関係やポリアモリーについての議論がどんどん盛んになっています。新聞や女性誌、あらゆる種類の活動家などが、より多く語るようになっています。映画を撮っている間も議論が活発で、本作の緊急性が増しているように感じていました」
「これまでの表現と映画では、ポリアモリーは外からの視点で描かれているような気がしていました。演技っぽくて、とても否定的な描かれ方だなと。本作は『どうすれば、みんなが少なくともほぼ幸せな状況になれるのか』を考えようとするものです」
「現在のフィンランド政府は右傾化しており、社会でもあらゆる種類のヘイトスピーチが起きています」と語る監督は、この映画に対してもある程度のバッシングがくることを覚悟しているという。
観客からは「人間に生まれつき備わっているものという側面や、大人と子どもであることの平行性が描かれていてよかった」というコメントも出た。
英語字幕はジェンダー代名詞で
主人公とオープンな関係にある恋人は、男性とも女性とも恋愛をする。本作の言語はフィンランド語だが、英語の字幕では、この登場人物は常にジェンダー代名詞が「they/them」となっていたのが新鮮だった。「He」か「She」の男女の二択ではなく、性自認が男女いずれにもはっきり当てはまらない場合はノンバイナリーの代名詞として、一人称でも「they/them」が使用される。宇多田ヒカルさんが「自分はノンバイナリーに該当する」と宣言したことでも話題となった。
子どもの視点はどうなる?今回は映画の外に
映画では子どもが親たちの関係をどう見るかが気になる人もいるだろう。マティアスの不倫手にも娘がいる。ネタバレとなるが、本作では子どもたちは大人の関係に反対する様子はない。だが監督は、「今回は大人たちの物語に集中するために」あえて子どもたちを映画の枠に置いたとも話した。
1本の映画に全ての視点で見た葛藤や問題点を凝縮することは難しい。だが、複数恋愛というまだまだ議論が必要な新しい生き方の、参考資料のひとつとして本作は役割を果たすことができるだろう。
自分の価値観とは違うとしても、別の選択肢が必要な人もいるのだと想像力を働かせるためにも、見る価値のある1本だ。
Text: Asaki Abumi