妊娠中に「サル痘」に感染したら? 妊婦や胎児への影響を産婦人科医が解説
サル痘ウイルス(Monkeypox virus)は、1958年に実験用のサルで初めて発見されたことから、この名前が付けられました。なお最近では、スティグマ(偏見)を減らすためにウイルスの名称を変更することが世界保健機関(WHO)で検討されています。
サル痘は主に中央・西アフリカの国々で流行していましたが、2022年5月以降、欧米を中心にアフリカ大陸の国々への渡航歴のないサル痘患者が6,000例以上報告されており、世界的な感染拡大が懸念されています。なお、7月12日現在、日本国内においてサル痘の報告はありません。(文献1)
本記事では、サル痘の基本情報に加え、妊娠への影響を中心に、最新のデータを参考にして解説します。(文献2)
現在妊娠中、または妊娠を計画している方は、ご家族を含めてぜひ知っておいてください。
基本的な症状と感染経路は?
サル痘ウイルスに接触してから症状が出るまでの平均期間は5〜13日ですが、2週間以上経ってから発症することもあります。
代表的な症状としては、発熱、リンパ節の腫れ(顎の下や脇など)、倦怠感、頭痛および筋肉痛などです。そして、これらの症状が出てから約1〜4日後に発疹が出てきます。胸部や腹部など体幹部から発生し、段々と腕や手足に広がることが多いとされています。発疹は2-4週間ほど続き、最終的にはカサブタとなっていきますが、痕が残ることもあります。
中には重症化することもあり、西アフリカのデータでは死亡率が1〜11%と報告されています。
感染した動物や人と密接に接触(皮膚、体液、血液)したり、飛沫へ長時間曝露したりすることで感染します。性行為でも感染します。
なお、最近判明しているサル痘患者は多くが男性となっています。(文献1)
妊娠への影響は?
妊娠中だとサル痘ウイルスに感染しやすいかどうかははっきりしたデータがなく、確実なことはわかっていません。
妊娠中のサル痘ウイルス感染に関する情報は限られていますが、検査でサル痘と確認された患者は過去に5人の報告があります(4人はコンゴ民主共和国、1人はザイール)。これらのうち、3人では胎児死亡(2人は自然流産、1人は死産)となったようです。
つまり、妊婦が感染してしまうと、胎盤を通じて、胎児へウイルスが感染してしまう危険性があると考えられています。
また、妊婦が感染した場合に非妊婦に比べてより重症化しやすいかどうかははっきりと分かっていませんが、類似のウイルス感染症のデータを参考にすると、妊婦自身の重症化や死亡のリスクに注意が必要であると書かれた文献もあります。(文献3)
感染への予防法は?
サル痘の予防には、以下のことが重要になります。
・感染者を他の人やペットから隔離する
・感染者との密接な接触や性行為を避ける
・ウイルス曝露前後の天然痘ワクチン接種(妊婦は接種不可)
サル痘ウイルスに感染した、またはその疑いがある人との性行為を含む密接な接触は、すべての病変が消えてカサブタが取れ、皮膚の状態が完全に元に戻るまでは避ける必要があります。
天然痘ワクチンは感染予防や重症化予防に有効だと考えられていますが、生ワクチンのため妊婦は接種することができません。
*なお、他のワクチンについても妊娠中の接種に関して検討が進められています。
心配な症状が出現したらかかりつけ医へ電話相談を
いかがだったでしょうか。
サル痘による妊婦への影響はデータが少なくわかっていないことも多いのですが、胎盤を通じて胎児に感染してしまうリスクもあり、感染予防が最も大切になります。
感染リスクを減らすためには、海外への渡航を控えることが重要です。
また、疑わしい症状(発熱やリンパ節の腫れ、皮膚の発疹など)が自分もしくは家族や知人に認められた場合は、まずかかりつけの産婦人科へ電話相談をしてみましょう。
感染症が疑われる場合は、直接外来受診してしまうことで周囲の人へも感染リスクを広げてしまいかねず、事前の電話相談が望ましいことをご理解ください。
参考文献
1. 国立感染症研究所. 複数国で報告されているサル痘について(第2報).
2. Obstetrics & Gynecology. A Primer on Monkeypox Virus for Obstetrician–Gynecologists. July 11, 2022
3. Dashraath P, et al. Lancet. 2022 Jul 2;400(10345):21-22.