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防御率0点台のクローザー放出から数時間後に先発投手を獲得。マリナーズは迷走しているのか、それとも…

宇根夏樹ベースボール・ライター
エイブラハム・トロ(シアトル・マリナーズ)Jul 27, 2021(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 7月27日、シアトル・マリナーズは、ケンドール・グレイブマンをヒューストン・アストロズへ放出し、その数時間後に、ピッツバーグ・パイレーツからタイラー・アンダーソンを獲得した。

 今シーズン、グレイブマンはベストシーズンを過ごしている。30登板で計33.0イニングを投げ、自責点はわずか3。防御率0.82は、20イニング以上の投手のなかで、クレイグ・キンブレル(シカゴ・カブス)の防御率0.49に次いで低く、ア・リーグではベストだ。不動のクローザーとまではいかないが、マリナーズでは最多の10セーブを挙げている。

 一方、アンダーソンは先発投手だ。こちらは、18先発の計103.1イニングで防御率4.35を記録している。

 グレイブマンとラファエル・モンテロの2人と交換に、マリナーズはエイブラハム・トロジョー・スミスの2人を得た。シーズン当初、モンテロはクローザーを務めていたが、セーブ失敗が相次ぎ、中継ぎに回ってからも復調することなく、数日前にロースターから外された。一方、メジャーリーグ3年目のトロは、通算93試合に出場し、打率.193(274打数53安打)と出塁率.276、11本塁打、5盗塁。今シーズンも、まだ開花はしていない。スイッチヒッターで、守備は三塁の他、一塁と二塁も守る。スミスは大ベテランのリリーバーだ。5月21日には、通算800登板に到達した。だが、今シーズンの防御率は7.48。わずかながら、モンテロよりも高い。

 アンダーソンの交換要員2人は、どちらもマイナーリーガーの捕手と投手だ。

 マリナーズは、ワイルドカード・レースの3位に位置している。ポストシーズン進出となる、2位のオークランド・アスレティックスとは、1ゲームしか離れていない。

 故障者が出ているローテーションにアンダーソンを加えたのはわかるが、グレイブマンを手放したのは、ポストシーズン進出圏内に迫るチームに水を差しかねない。しかも、放出先は、同じア・リーグ西地区のアストロズだ。トレードの前日、マリナーズは8回裏にグランドスラムで4点を挙げ、アストロズを相手に逆転勝利を収めた。打ち崩したブルペンに対し、グレイブマンを譲ったような格好となった。

 5月に「マリナーズの新時代が始まる。投打のプロスペクトが同じ試合でデビュー。ともに3年前のドラフト1巡目」で書いたとおり、マリナーズの再建は進んでいる。けれども、まだ完了はしていない。また、トレード時点の貯金は9だが、得失点差はマイナス49だ。

 来シーズン以降を見据えてトロを手に入れた一方で、今秋のポストシーズン進出もあきらめずにアンダーソンを獲得したということなのだろうか。だとすると、マリナーズは、トロのポテンシャルを高く買っているのだろう。2件のトレードで動いた7人のうち、マリナーズが放出したグレイブマン、獲得したアンダーソンとスミスは、今オフにFAとなる。トロは、2025年まで保有できる。

 マリナーズが最後にポストシーズンへ進んだのは、イチローがメジャーデビューした2001年だ。現時点では、どのチームよりもポストシーズンから遠ざかる。けれども、今秋よりも来秋のポストシーズンをゴールに設定するほうが、実現する可能性は高いと見ているのかもしれない。

 もちろん、ここからトロが活躍し、マリナーズを今秋のポストシーズンへ牽引する可能性も皆無ではない。トレード当日、代打として出場したトロは、勝利には結びつかなかったものの、ホームランを打った。こちらは、前日までのチームメイトにアシストしてもらう格好になった。打球は、ライトを守るカイル・タッカーのグラブに当たって跳ね、フェンスを越えた。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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