「MVPは福永、緒方、横田」安芸キャンプ総括&練習試合の個人成績《阪神ファーム》
2月28日、沖縄の宜野座と高知の安芸で行われていた阪神タイガースの春季キャンプが終わりました。最終日の安芸は文句なしの打ち上げ日和だったんですけど、チームが空港へ向かっていたであろう午後3時頃から急に空が暗くなり、あっという間に雨!でも練習は12時過ぎに終わったので問題はありません。いつものように連帯歩調と手締めで締めくくって、その10分後にはもうガランと人気のない安芸市営球場でした。
26日に左太ももを痛めて本隊と離れていた小豆畑眞也選手も、朝は坂道を歩いてメイングラウンドまで行き、最後の手締めにも参加しています。大事には至らず何よりですね。さすがに手締め前の連帯歩調は入らず。でも横田慎太郎選手は一緒に声を出して走っていました。タイガースと安芸市の方など全員がグラウンド中央で輪を作り、その真ん中に呼び出されたのは板山祐太郎選手です。
ゆっくり、はっきり大きな声の挨拶はスタンドまで届きましたよ。一本締めに続き、1人ずつ歩きながら握手を交わして終了。あとは左中間の出口付近から車に乗り込む選手たちをつかまえて話を聞く、いつものバタバタした取材時間です。練習が終わる直前に三塁側ベンチ前で矢野燿大監督を囲み、キャンプ総括を伺いました。
成長の福永、安定の伊藤和
「このキャンプのMVPは、ピッチャーが俺の中では福永かな。その次にいるのが伊藤和雄。野手はやっぱり緒方。僅差で荒木と伊藤隼太。それと元気部門で横田ね。声出しナンバーワン!」。これが矢野監督の選んだ安芸キャンプMVPです。1人ずつ選出理由を聞いています。
まず福永春吾投手について「福永は球の質も内容も、練習態度も全部伴っている。もともと一生懸命やるんやけど。1軍の勝負に入っていけそうな、近いところまできているのかな。球の力でファウルを取れたり、去年とはイメージが違う。フォームをちょっと変えたんだけど、そういうのもうまくいっているし。現状のメンバーの中、先発では一番いいかな」とのことでした。
「ゾーンで言うとアウトコース低めからインハイまで抜ける感じのイメージがあった。その幅が狭くなった。タテに振れる。真ん中低めを狙って高めにいくのはいい。その幅がギューッと(と言いながら両手を狭める仕草)縮まって、上下の幅になってきた。斜めにぶれなくなった。また、面白いカーブを投げるから総合的にね。あいつ自身も多分、手応えを感じていると思うよ。そういうところで福永かな~と思って」
次点の伊藤和雄投手には「和雄もずっといい。中継ぎであれば推薦できるくらいの位置にずっといるし。中継ぎでもこれだけ球数を投げられるってのは、体の調子も気持ちもバランスも整っていないとできないから。このキャンプで2番目(※)くらいに投げている。多分、榎田が1番で和雄は2番やと。それくらい投げているし、ずっと安定しているし。まだ余力があるっていうか、もうちょっとギアを上げようと思えば上げられるようなね」
※今年の安芸キャンプで投げたトータルの球数(ゲームも含める。立ち投げは除く)は榎田大樹投手が1387球で最多。2番目がずっと伊藤和投手だったんですけど、最終クールで守屋功輝投手が追い上げましたね。でも守屋投手1190球、伊藤和投手1188球とほぼ同じです。
積極的に攻めた緒方、一番元気な横田
変わって野手部門。緒方凌介選手を選んだのは、やはり結果が出ているから?「もちろんそうだし、“超積極的”で走塁の方もリードが大きくなったし盗塁も積極的にやっていた。まあ一番は試合の中での結果、また内容。この前のシートでも、追い込まれてから高橋(遥人)の147キロとか148キロとかをファウル、ファウルして、最後はちょっと甘くきたスライダーをセンター前!試合でも2ボールから一発でセンター前に打ったり、ホームランも一発で仕留めた」
確かに緒方選手の、試合や実戦形式での結果は素晴らしかったですね。「内容もすごくしっかりしている。やっぱり上でファウル、ファウルしたら終わり。ずっと言っているけど、一発で仕留めるっていうのは1軍で通用するための大事な部分だと思う。緒方はそれができているし。荒木も隼太もずっといいってのはあったんだけど、(緒方が)あれだけ結果を出すとね。僅差で緒方かな。でも荒木と隼太のことも書いておいて」
監督が“自ら設けた”元気部門MVPは、横田慎太郎選手です。「皆さんもファンも、もっともっと、前へ進んでほしい気持ちはあるだろうけど、一歩一歩進んでいるのは間違いないし、外で打ったりして、色んなことが前へ進み始めた。横田の動きを楽しみにしている人は多かったので、このキャンプに来てくれた人には元気な姿を見てもらえただろう。みんなが横田のことを応援しているし、横田自身もキャンプに来てから前へ進み出しているなっていう自覚があると思うので」
その理由として「あいつに対して頭が下がるのは、どこでも声を出して元気を出してやれること。あいつのすごくいいところだと思う。いつも一生懸命!いつも元気!本当に横田の素晴らしいところ。逆に俺らも見習わなあかんし、他の選手みんな見習うべき部分。そういう意味で、横田は元気でやってくれたことが一番」と監督は説明しました。誰もが大賛成、もう満場一致の受賞でしょう。
「決してあきらめない」ことを肝に銘じて
次に、新人選手の初キャンプを振り返った矢野監督。「まだまだね。要領もわからんし。その中で高橋(遥人)は想像以上に実戦の方もできたと思う。牧、石井はこれからだけど、やり通せたのがよかったんじゃないかな。ここからもっともっと、何が足りないか、どうするべきなのか見つかると思う。まあケガなくやり通せたってのも、1つの成果としてある」
帰ったらすぐ1軍のオープン戦が本格化します。名前の出た選手を推薦することになるかと聞かれ「上本は2日から合流するし、緒方も呼んでもらうことになった。高橋も一度、上で投げてみないかって話になっているので、上の監督も見たいだろうし(オープン戦で)いっぺん投げて状況を見てという形になる。博多(ソフトバンク戦)あたりで投げてみようかと。まあ昇格というより1軍の首脳陣に“お披露目”という感じだと俺は思っている」と話しています。
最後に、2月をまるまる安芸で過ごすのはいつ以来ですかね?と尋ねたら「(中日から)トレードで来た年以来かなあ」と言い「寒かった!」と笑いました。矢野監督が、ずっと着ていたダウンのジャンパーを脱いだのは最終クールの26日が初で、それでもまだ1枚上着はありました。ユニホームだけの姿は打ち上げ前日だった27日の午後、特打を見ている時が最初だったように思います。矢野監督は締めにこんな言葉も。
「週末は大勢見に来てくれたし、自分で評価が甘いかもしれないけど、しっかりしたキャンプを過ごせたと思ってる。今回の緒方みたいに苦しんで結果を出してファームから呼んでもらえるというのは、どんどん増やしていきたい。“決してあきらめない”と俺は言ってるねんけど、自分自身がそういうことを肝に銘じて、1人でも多く1軍に上げてやるっていう気持ちを強く持っていきたい。キャンプは終わるけどね。そういうことはまだまだ、もっともっと続いていくんで。よし、またやってやろう!とか、頑張ろう!という感じ」
ルーキーたちのキャンプ打ち上げ
ドラフト2位・高橋遥人投手は「楽しくできました。実戦も久しぶりにやれて、充実した1か月でした」と振り返っています。1軍のオープン戦に呼ばれたのはどうですか?「ここでしっかりやってきたことを変えずに、どこに行っても腕を振るだけです」。クールですねえ。緊張する?「今は全然。キャンプが終わったばかりなので。まあ…どうなんですかね?」と逆に質問していましたよ。「とにかく腕を振って投げたい。一生懸命投げられればと思います」
同じく3位・熊谷敬宥選手。「充実していました。自分のダメなとこも多く見えたし。そういった中でも充実していたと思います。まだまだ、野球がうまくなるために満足せず自分の実力を見つめ直して、キャンプでやってきたことを生かしていきたい」。バッティングに関しては「スイッチなので、左も結果を残さないと右だけでは…。妥協せず、このキャンプでやってきたことを練習でも継続していきたい」と言います。
力がついたなと思うのは?「走塁の部分です。盗塁の仕方などを藤本コーチに教えてもらって。守備の面もボールの捕り方、入り方など」。守備練習の時にグラブを2つ使っていたのは?「藤本コーチから、“板状”のを1つ貸してもらいました。面を見せて捕る練習のために」。実戦が続く3月に向けて「失敗を怖がらず、どんどん挑戦していきたいです!失敗ができるのは3月までだから」と熊谷選手。
育成ドラフト1位・石井将希投手は「初めてのことだったんですけど、周りの人たちの協力も含め、充実して過ごせた1か月でした。このキャンプで実戦の経験を積むというのが個人的な目標だったので、収穫があったと思います。細かい部分でスキルアップしていきたい」と初キャンプの感想を述べました。
卒業式はカッコよく行けましたか?
なおドラフト6位・牧丈一郎投手は卒業式出席のため、27日の全体練習後に安芸を離れています。一足先に聞いたところ「やっぱりプロ野球っていうものが何もわからない状態で挑んで、先輩の練習量、プロの練習量が高校とは全然違った。違うというイメージはあったけど、それを実際に肌で感じました」という感想です。「やってきたことは、ずっと体力作り。これからも続く課題」で、その成果は「最初に比べれば、ランニングもちょっとはついていけるようになったので」と牧投手。
しかし矢野監督は「全然!体力がない(笑)。ランニングでも一番ケツを走ってる」と一蹴。そして「可愛い性格なので皆にいじられてるけど、そこから脱皮していかないとね。1年後のキャンプを楽しみにしたい。ボールを持てば、それなりにいいものがあるのかなと思う」と続けたあと「あいつは1年中キャンプ!ずっと続く」という指令でした。
なおキャンプインしてから「いっぱい食べて」4キロも増えたそうですが、だいぶ減ったのか顔の輪郭もシュッとした感じ。帰る前に「卒業式はカッコよく行きたいんですよ~。着られるかな、制服」と言いながら、とっても楽しげでしたね。きょう1日の卒業式を終え、晴れて社会人となったわけで、これからは野球オンリーの毎日が待っています。
※なおMVPに選ばれた選手や、その他にもコメントを聞いた選手については、個別の記事を書くときに紹介させていただきます。
<付録>練習試合の個人成績
では安芸キャンプで行われた6試合に出場した全選手の個人成績をどうぞ。なお練習試合のため公式記録がありませんので、参考程度にご覧ください。
《野手編》
【小豆畑】4試合
10打数2安打0打点 .200
二塁打1
三振1、四死球0
【岡崎】2試合
5打数0安打0打点 .000
三振2、四死球0
【小宮山】4試合
9打数5安打0打点 .200
三振1、四死球1
盗塁1、失策1
【上本】4試合
13打数4安打0打点 .308
三振1、四死球5
盗塁0、失策0
【熊谷】2試合
10打数2安打1打点 .200
三振1、四死球0
盗塁1、失策0
【山崎】6試合
11打数2安打3打点 .182
三振1、四死球3
盗塁0、失策0
犠打1、犠飛1
【森越】6試合
15打数2安打0打点 .133
三振2、四死球2
盗塁0、失策0
【今成】6試合
20打数6安打0打点 .300
三振3、四死球2
盗塁4、失策0
【荒木】6試合
27打数11安打6点 .407
二塁打1
三振3、四死球2
盗塁2、失策0
【西田】6試合
25打数6安打5打点 .240
二塁打1
三振7、四死球0
盗塁0、失策1
【伊藤隼】6試合
21打数7安打3打点 .333
二塁打1
三振0、四死球5
盗塁2、失策0
【板山】5試合
18打数3安打5打点 .167
本塁打1、二塁打1、犠飛1
三振3、四死球4
盗塁2、失策0
【緒方】6試合
19打数12安打4打点 .632
本塁打1、三塁打1、二塁打2
三振0、四死球6
盗塁5、失策0
《投手編》
※球速は計れなかったものも多く、あくまでも表示された中の最速です。
【榎田】3試合
6回 安打11、三振8、四死球1
失点2(自責2) 防御率3.00
最速139キロ
【横山】1試合
1回 安打3、三振0、四死球1
失点2(自責2) 防御率18.00
最速135キロ
【呂】1試合
1回 安打2、三振2、四死球0
失点0(自責0) 防御率0.00
最速137キロ
【尾仲】1試合
2回2/3 安打2、三振1、四死球2
失点1(自責1) 防御率1.13
最速145キロ
【高橋遥】2試合
2回 安打1、三振1、四死球0
失点0(自責0) 防御率0.00
最速148キロ
【谷川】2試合
3回 安打1、三振2、四死球0
失点0(自責0) 防御率0.00
最速141キロ
【福永】3試合
8回 安打3、三振5、四死球1
失点0(自責0) 防御率0.00
最速147キロ
【竹安】3試合
6回 安打4、三振3、四死球2
失点0(自責0) 防御率0.00
最速142キロ
【守屋】3試合
7回 安打3、三振5、四死球0
失点1(自責1) 防御率1.29
最速143キロ
【山本】4試合
4回1/3 安打4、三振3、四死球0
失点2(自責2) 防御率1.38
最速135キロ
【青柳】1試合
3回 安打5、三振0、四死球2
失点2(自責2) 防御率6.00
最速142キロ
【伊藤和】3試合
4回 安打0、三振4、四死球0
失点0(自責0) 防御率0.00
最速137キロ
【石井】2試合
2回 安打1、三振1、四死球1
失点0(自責0) 防御率0.00
最速142キロ
【歳内】2試合
2回 安打2、三振2、四死球0
失点1(自責1) 防御率4.50
最速143キロ
<掲載写真は筆者撮影>