Yahoo!ニュース

炭水化物ダイエットで発症?色素性痒疹の原因と対策

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

炭水化物ダイエットは、炭水化物の摂取を1日50g未満に制限し、代わりに脂肪とタンパク質を多く摂取する食事法です。これにより、体内で脂肪がケトン体に分解され、エネルギー源として利用されます。炭水化物ダイエットは、てんかんの治療法として開発されましたが、近年では肥満やメタボリックシンドロームの改善にも効果があるとして注目されています。

しかし、炭水化物ダイエットには注意すべき点があります。炭水化物の制限によって、体内のグリコーゲン(炭水化物のエネルギー貯蔵形態)が減少し、体重が一時的に減少しますが、リバウンドのリスクが高いことが知られています。さらに、炭水化物ダイエットを続けることで、色素性痒疹という皮膚疾患を引き起こす可能性があることが近年の研究で明らかになっています。

【色素性痒疹とは?】

色素性痒疹は、主に10代後半から20代の若年層に発症する稀な炎症性皮膚疾患です。強いかゆみを伴う赤い丘疹が、胸部や背部、首などに網目状に広がるのが特徴です。炎症が収まると、色素沈着を残して治癒します。

色素性痒疹の原因は明らかになっていませんが、ケトーシス(ケトン体が血中に増加した状態)との関連が指摘されています。ケトーシスは、炭水化物ダイエットだけでなく、絶食、インスリン依存型糖尿病、肥満外科手術などでも起こります。ケトン体が血管周囲の好中球による炎症を引き起こし、色素性痒疹の発症に関与していると考えられています。

【色素性痒疹の治療と予防】

色素性痒疹の第一選択薬は、ドキシサイクリンやミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬の内服です。これらの薬剤は、好中球の遊走と機能を抑制することで効果を発揮すると考えられています。

炭水化物ダイエットによる色素性痒疹を予防するためには、ダイエットを中止し、バランスの取れた食事に戻ることが重要です。炭水化物ダイエットは、一時的な体重減少効果はあるものの、長期的には健康リスクを伴う可能性があります。無理なダイエットよりも、適度な運動と栄養バランスの取れた食事を心がけることが、健康的な体重管理につながるでしょう。

また、炭水化物ダイエット以外でも、極端な糖質制限や極端な減量は皮膚トラブルを引き起こすリスクがあります。体重を減らしたい場合でも、皮膚の健康を維持するためには、急激な食事制限は避け、ゆっくりと時間をかけて行うことが大切です。

色素性痒疹に限らず、ダイエット中や食生活の変化に伴って皮膚に異変が現れた場合は、早めに皮膚科専門医に相談することをおすすめします。

参考文献:

1. Paoli A, et al. Beyond weight loss: a review of the therapeutic uses of very-low-carbohydrate (ketogenic) diets. Eur J Clin Nutr. 2013 Aug;67(8):789-96.

2. Alkeraye S, et al. Twenty-five year-old female with sudden onset itchy skin eruption over her upper back and chest three weeks after starting a ketogenic diet. Ann Saudi Med. 2019 Dec;39(6):444-5.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

大塚篤司の最近の記事