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アトピー性皮膚炎治療中に要注意!デュピルマブと皮膚T細胞リンパ腫の関連性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【デュピルマブとアトピー性皮膚炎治療】

デュピルマブは、2017年にFDAで承認されて以来、中等症から重症のアトピー性皮膚炎治療の標準的な選択肢となりました。IL-4とIL-13という2つのタンパク質の働きを阻害することで、免疫反応のバランスを整え、痒みの緩和にも効果を発揮します。

デュピルマブの登場は、難治性の痒みを伴う皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の患者にも福音となるのではないかと期待されました。CTCLは、皮膚に発生するリンパ腫の一種で、リンパ球という白血球の一種ががん化することで発症します。CTCLの進行を抑制するためには、体内の免疫反応を適切に調整することが重要だと考えられており、デュピルマブがその一助となる可能性があるためです。さらに、IL-13の働きを阻害する抗体が、CTCL腫瘍細胞に直接的なダメージを与えたという報告もあります。

【デュピルマブとCTCLの関係性】

しかし近年、CTCLに対するデュピルマブの安全性に懸念が示されています。一時的な症状の改善の後、病気が急速に進んだり、それまで診断されていなかった菌状息肉症という皮膚リンパ腫の一種が見つかったりする事例が報告されているのです。痒みの緩和と皮膚のバリア機能の修復が、この一時的な改善の説明になるかもしれません。しかしその後、一部の症例では腫瘍の急速な増大や、血液・リンパ節への広がりが観察されています。

デュピルマブは、IL-4受容体αというタンパク質に結合し、IL-4とIL-13の働きを阻害します。IL-4受容体αの阻害によって遊離したIL-13が増加し、菌状息肉症の進行に関連する別の受容体に結合する可能性が示唆されています。

【リンパ球性反応と菌状息肉症の鑑別】

Boesjesらの研究では、当初はアトピー性皮膚炎と診断されデュピルマブで治療されていたものの、その後症状が悪化した14人の患者のうち、3人が菌状息肉症、11人がリンパ球性反応(LR)と診断されました。LRとは、薬が原因で引き起こされる一時的なリンパ腫に似た反応のことです。この研究は、デュピルマブによって引き起こされる非典型的な症状の一部が、必ずしも菌状息肉症への進行を意味するものではないという新しい概念を提唱しています。

LRの組織を顕微鏡で観察すると、CD30というタンパク質を持つ大型のT細胞、CD4陽性細胞とCD8陽性細胞の割合の変化、T細胞の特徴を保持しつつ、皮膚の表面から深くまで及ぶ小型リンパ球の浸潤が特徴的に見られます。この所見は、悪性度の高い菌状息肉症やリンパ腫様丘疹症などの他のリンパ増殖性疾患と重複するため、病理医による診断に混乱を招く可能性があります。

デュピルマブの使用が急速に拡大している現状を鑑みると、デュピルマブと菌状息肉症の進行との関連性や、未診断の菌状息肉症患者を見つけ出す可能性をより深く理解することが肝要です。LRの多くの症例でデュピルマブ中止後に症状が改善したことは心強い知見ですが、これらの患者には詳細な検査が不可欠でしょう。具体的には、リンパ球の遺伝子の偏りを調べる皮膚生検、血液検査と血液中の細胞の種類を調べる検査、血清LDHという肝臓の酵素の測定、リンパ節の腫れの有無の確認などが挙げられます。

アトピー性皮膚炎治療薬としてのデュピルマブの有用性は明らかですが、特に成人になってから発症した場合、アレルギー体質がない場合、全身の皮膚が赤くなる紅皮症など典型的でない症状を呈する場合では、治療開始前の皮膚生検による菌状息肉症の除外が大切と言えるでしょう。もし、悪性の可能性のあるリンパ球の浸潤が検出された場合は、最終的な診断結果にかかわらず、総合的な検査やリンパ腫診療の専門施設への紹介が強く推奨されます。

参考文献:

1. Boesjes CM, van der Gang LF, Bakker DS, et al, Dupilumab-associated lymphoid reactions in patients with atopic dermatitis. JAMA Dermatol. Published online October 11, 2023. doi:10.1001/jamadermatol.2023.3849

2. Geskin LJ, Viragova S, Stolz DB, Fuschiotti P. Interleukin-13 is overexpressed in cutaneous T-cell lymphoma cells and regulates their proliferation. Blood. 2015;125(18):2798-2805. doi:10.1182/blood-2014-07-590398

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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