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子供のアトピー性皮膚炎と喘息、世界と日本の発症率の違いと予防法

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【世界の子供のアレルギー疾患の現状と将来予測】

2019年の調査によると、全世界で8100万人の子供が喘息、560万人の子供がアトピー性皮膚炎に悩まされていることが明らかになりました。1990年から2019年にかけて、喘息の罹患率は4.17%減少したものの、発症数は7.07%増加しています。一方、アトピー性皮膚炎は、罹患率が5.46%減少しましたが、発症数は39.4%も増加しました。

年齢別に見ると、喘息とアトピー性皮膚炎ともに、5歳未満の子供で発症率が最も高く、年齢とともに減少する傾向にあります。また、社会経済的発展指数(SDI)が高い国ほど、両疾患の発症率が高いことも特徴的です。

将来予測に目を向けると、2045年までに全世界の喘息罹患率は緩やかに減少するものの、高SDI国では増加し続けると推定されています。アトピー性皮膚炎についても同様の傾向が見られ、2045年の全世界の罹患率は10万人あたり569人、高SDI国では845.82人に達すると予測されています。

【日本の子供のアレルギー疾患の特徴と課題】

次に、日本の状況を見てみましょう。日本は、SDIが高い国の一つであり、世界的に見ても子供のアレルギー疾患の発症率が高い国と言えます。

日本アレルギー学会の調査では、小学生の喘息の有病率は約10%、アトピー性皮膚炎は約15%と報告されており、世界平均を上回っています。また、アレルギー疾患による死亡率は低下傾向にありますが、Quality of Life(QOL)の低下や医療費の増大など、社会的な負担は無視できません。

特に、アトピー性皮膚炎は、乳幼児期に発症することが多く、生活の質に大きな影響を与えます。保護者の負担も大きく、仕事と育児の両立が困難になるケースもあります。早期診断と適切な治療介入、そして継続的なサポートが重要だと考えています。

【子供のアレルギー疾患の予防と対策 - 皮膚科医の視点から】

それでは、皮膚科医の立場から、子供のアレルギー疾患の予防と対策についてお話ししたいと思います。

まず、早期発見と適切な治療が大切です。アレルギー疾患の症状は年齢によって変化するため、定期的な健診を受け、症状を見逃さないことが重要です。皮膚の症状にも注意を払い、かゆみやあせも、湿疹などの変化に気を配りましょう。

次に、生活環境を整えることも予防に役立ちます。室内の掃除を行い、ダニやカビを減らすことが好ましいでしょう。喫煙も、子供のアレルギー疾患のリスクを高めるため、避けるべきです。

また、栄養バランスの取れた食事や、適度な運動を心がけることも大切です。難しい方もいるとは思いますが、母乳育児もアレルギー予防に有効であるとの報告があります。

アトピー性皮膚炎の治療では、保湿剤の使用が基本となります。入浴後の保湿ケアを欠かさず、肌の乾燥を防ぐことが大切です。症状が悪化した場合は、ステロイド外用薬や免疫抑制剤の使用を検討します。

子供のアレルギー疾患は、世界的に増加傾向にあり、日本でも例外ではありません。正しい知識を持ち、適切な対策を講じるように私たち大人が心がけるべきでしょう。

参考文献:

1. Global Burden of Disease Study 2019. Global Health Data Exchange. http://ghdx.healthdata.org/gbd-results-tool

2. BMJ Open. 2024 Apr 8;14(4):e080612. doi: 10.1136/bmjopen-2023-080612.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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