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リアルレポ。西日本豪雨・応援の旅1 倉敷・美観地区は元気です!

寺田直子トラベルジャーナリスト 寺田直子
観光客に人気の「くらしき川船流し」もいつもどおりに体験可能/筆者撮影

今回のように大きな災害があると観光地の「風評被害」が話題になることが常だ。

初動時は被災者のケア、被災地の復旧がなんといっても最優先なので観光による経済活動に目が向くのはある程度、落ち着きを取り戻したタイミングでというのは理解できる。ジレンマなのはほとんど被害がない周辺の観光地の宿泊キャンセルや観光客の減少。

今回は広島、岡山、山陰、四国、九州に加え京都や岐阜など被害が広範囲なだけに一種の二次災害的な状況に泣く観光関係者は多い。それを「風評被害」という言葉で終わらせたくはない。

土地勘のない観光客から見ればどこからが被災の大きかった場所で、どこからが観光エリアなのかわからない。「行く気がしなくなった」とあっけなく宿泊キャンセルする予約客もいれば、「つらい思いをしている方たちのところに(遊びに行くなんて)申し訳ない」という心根の優しい気もちもある。

その一方で東北の震災以降、「旅をして観光で復興応援を!」というムーブメントが生まれたのもたしか。落ち着いたらあえてそこに観光にしに行く、それが被害にあった場所を元気づけ、いち早く日常を取り戻すきっかけになるのだと私たちは学んだ。

この動きを加速化させるのに必要なこと。それは正確な「観光情報」だ。倉敷を取材したのは7月21~24日。豪雨から約2週間後だった。紹介する「美観地区」はいずれもいつもどおりに観光地として活動していた。ぜひ、参考にしてほしい。

倉敷の観光の中心となる美観地区。取材時の7月21日はまだ観光客が少なかった/筆者撮影
倉敷の観光の中心となる美観地区。取材時の7月21日はまだ観光客が少なかった/筆者撮影
浴衣のレンタルもあり外国人客に好評/筆者撮影
浴衣のレンタルもあり外国人客に好評/筆者撮影
レトロな町並みにセレクトショップ、カフェなどが並ぶ本町通りは美観地区きってのおしゃれスポット/筆者撮影
レトロな町並みにセレクトショップ、カフェなどが並ぶ本町通りは美観地区きってのおしゃれスポット/筆者撮影

倉敷のイメージでまず、浮かぶのは流し舟が行き交う運河と江戸時代そのままの白壁土蔵の町家。そして倉敷民藝館大原美術館といった日本を代表するアートスポット。それらが集まったのが倉敷市きっての観光スポット「美観地区」だ。

今回、豪雨被害の大きかった真備地区も倉敷市に位置する。実際、美観地区と真備地区は距離にして十数キロ。車で約30分という距離にある。だが、美観地区は中心を流れる倉敷川の水位があがり目の前の家屋が浸水被害にあったものの観光には影響はなく、宿も土産物屋も飲食店も通常どおりに営業している。

ちなみに岡山空港、岡山駅から倉敷駅へのアクセスも通常どおり。倉敷駅から美観地区も問題ない。

公益社団法人倉敷コンベンションビューローの玄馬正雄・事務局長に話をうかがうと、大型観光バスの入れ込み数などからみて観光客はざっと半減(取材時)。インバウンド(訪日観光客)はすでに予定に組み込まれているためそれほどの落ち込みではない。観光客の宿泊キャンセルも多いが復興関係者、ボランティアの宿泊が増えている。今後は県と連携して観光プロモーションのタイミングをはかっていくという。

地元に愛されるとんかつ屋「かっぱ」。被災された方に無償でとんかつを提供する/筆者撮影
地元に愛されるとんかつ屋「かっぱ」。被災された方に無償でとんかつを提供する/筆者撮影
とんかつ屋「かっぱ」の隠れた逸品「若鶏バター焼き」ハーフ700円(単品)。ジューシーな鶏肉に自家製ホワイトソースがたっぷり!/筆者撮影
とんかつ屋「かっぱ」の隠れた逸品「若鶏バター焼き」ハーフ700円(単品)。ジューシーな鶏肉に自家製ホワイトソースがたっぷり!/筆者撮影
「トラットリアはしまや」は仕入れ各業者からの厚意によるレトルトカレーの売り上げを寄付/筆者撮影
「トラットリアはしまや」は仕入れ各業者からの厚意によるレトルトカレーの売り上げを寄付/筆者撮影

美観地区に暮らす人たちの被災地への思いは深い。

友人や知人、職場の同僚など大切な人たちが被災しているという場合も多く、それぞれ通常どおりの営業をしながら炊き出しや泥の撤去作業、物資の送り届けなどできるかぎりのことを行っている。

地元で愛される老舗のとんかつ屋「かっぱ」。行列ができる人気店で名物はデミグラスソースがたっぷりかかった「名代とんてい」。被災されたみなさんにその「とんてい」を無償で提供。男前な女主人がカラリと揚げるとんかつは愛情と滋味にあふれている。

また、県産の食材を使ったイタリアンを提供するのがトラットリアはしまや。仕入れ業者のみなさんの厚意によりレトルトカレーを販売、売上げを倉敷市に寄付する。「生産者さんたちも被災されて...」と語る楠戸伸太郎オーナーシェフ。その後の台風通過もあり野菜など限られた食材を使った絶品イタリアンは、こういうときだからこそしみじみとありがたみを感じる。

創業明治10年の橘香堂。店頭で銘菓「むらすずめ」の手焼き体験ができる/筆者撮影
創業明治10年の橘香堂。店頭で銘菓「むらすずめ」の手焼き体験ができる/筆者撮影
倉敷銘菓「むらすずめ」。優しい風味でお土産に人気/筆者撮影
倉敷銘菓「むらすずめ」。優しい風味でお土産に人気/筆者撮影

銘菓「むらすずめ」で知られる老舗菓子舗橘香堂の吉本豪之・代表取締役社長はこう語ってくれた。

「美観地区はいつもどおりです。ここに来たらぜひ、本物を訪ねる旅を楽しんでください。建物から文化、暮らしぶりまで継承されてきた本物がたくさん残っています。ぜひ、倉敷においでください」

美観地区の宿泊施設はどこも通常どおりの営業を行っている。災害直後から多くの宿泊キャンセルを受ける一方で、ボランティアや被災された方の受け入れ、避難施設への食事の提供などを行政と連携しながら行っている。

倉敷を代表する倉敷国際ホテルではいち早く、備蓄として用意していた2リットルのペットボトル水240本を提供したほか、休日返上で従業員たちが炊き出しを行うなど地元に寄り添う姿勢を見せた。現在は大浴場と客室を入浴用として無償で提供している。

旧倉敷紡績工場跡地を活用した倉敷アイビースクエアは一部改装中ということだがボランティアのみなさんへの特別宿泊料金を提供している。

「ゲストハウス&カフェ有鄰庵」の人気メニュー「しあわせプリン」。注文するとしあわせな食べ方を伝授してくれる/筆者撮影
「ゲストハウス&カフェ有鄰庵」の人気メニュー「しあわせプリン」。注文するとしあわせな食べ方を伝授してくれる/筆者撮影
「ゲストハウス&カフェ有鄰庵」。昼間はカフェ、夜にはこのようにゲストハウスに変身/筆者撮影
「ゲストハウス&カフェ有鄰庵」。昼間はカフェ、夜にはこのようにゲストハウスに変身/筆者撮影

ユニークなのは美観地区で町家が並びおもむきのある本町通りのゲストハウス&カフェ有鄰庵。築100年の古民家を活用した空間はバックパッカーや海外からの観光客などに好評。災害後、1泊2000円(通常3780円~)というボランティアのための特別プランをすばやく立ち上げたほかボランティアセンターへの送迎、#美観地区は元気だったよ というハッシュタグでSNSで美観地区の元気さをアピールするなどスピード感あるサポートを見せた。

おこもり感ある「旅館くらしき」の「ゆの間」。障子越しに美観地区を望む贅沢さ/筆者撮影
おこもり感ある「旅館くらしき」の「ゆの間」。障子越しに美観地区を望む贅沢さ/筆者撮影
「旅館くらしき」の「ゆの間」の湯船からは中庭が/筆者撮影
「旅館くらしき」の「ゆの間」の湯船からは中庭が/筆者撮影

客室数わずか8部屋。美観地区の中心、中橋の向かいというロケーションにある旅館くらしきもひそやかに被災地への食事の提供や知人宅の泥だしの手伝いなどを行っている。世界的チェリストのヨーヨー・マなど古くから著名人に愛されてきた宿だけに外国人ゲストも多く、世界各地からのリピーターの問い合わせに美観地区は元気であることを発信している。

美観地区のアイコン的存在の大原美術館。静かな時間を過ごしてもらいたいと8月4日(土)は無料公開に/筆者撮影
美観地区のアイコン的存在の大原美術館。静かな時間を過ごしてもらいたいと8月4日(土)は無料公開に/筆者撮影

久しぶりの美観地区は変わらず美しく、情緒あふれる場所だったがいつもは混雑する週末にもかかわらず、観光客の姿は少なく胸が痛んだ。

倉敷は水運と共に栄えた場所。水と共に暮らしてきた。今回の豪雨は大きな悲しみをもたらし今も復旧作業が続いている。だからこそ、美観地区がどっしりと観光客を受け止めることが大切なのだと実感している。まずはここから元気な倉敷をアピール。それが復興への一歩につながるはずだからだ。上記に紹介した宿、ホテルも夏場は混みあう時期だがキャンセルが出ている。「観光で応援したい」、あるいは「一度、倉敷に行ってみたかった」。そう思っていたら今がそのタイミングだ。

旅の持つ力を信じ、観光する我々も美観地区を目指したい。

<データ>

倉敷市公式観光サイト

倉敷観光コンベンションビューロー

いつもよりも価値ある夏旅を体験しよう/筆者撮影
いつもよりも価値ある夏旅を体験しよう/筆者撮影
トラベルジャーナリスト 寺田直子

観光は究極の六次産業であり、災害・テロなどの復興に欠かせない「平和産業」でもあります。トラベルジャーナリストとして旅歴40年。旅することの意義を柔らかく、ときにストレートに発信。アフターコロナ、インバウンド、民泊など日本を取り巻く観光産業も様変わりする中、最新のリゾート&ホテル情報から地方の観光活性化への気づき、人生を変えうる感動の旅など国内外の旅行事情を独自の視点で発信。現在、伊豆大島で古民家カフェを営みながら執筆活動中。著書に『ホテルブランド物語』(角川書店)『泣くために旅に出よう』(実業之日本社)、『フランスの美しい村を歩く』(東海教育研究所)、『東京、なのに島ぐらし』(東海教育研究所)

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