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能登半島地震/夏休み直前!観光客が訪問できる範囲を調べてみた 輪島・珠洲編

寺田直子トラベルジャーナリスト 寺田直子
奥能登へ向かう国道249号バイパス。道路のゆがみ、標識の傾きが顕著だ(筆者撮影)

2024年3月の取材から約3ヵ月後、6月17~19日、再び能登へ向かった。目的はこの間に復旧・復興がどう進んだか。また、夏休みを目前に観光で訪れてもいい場所がどの範囲になっているのかを確認するためだ。大きく以下のようなポイントが挙げられる(あくまでも取材した時点・範囲での筆者個人の印象です)。

①能登全体で観光客を受け入れる宿泊施設はほとんどない。日帰りを推奨

(一部ビジネスホテル、一棟貸しなど宿泊を再開しているが復旧復興関係者の利用でほぼ埋まっている状況が多い)


②七尾・和倉温泉は飲食店、コンビニの再開が増えている。日帰り温泉も再開。主要温泉旅館の多くは再オープン未定(5月に和倉温泉花ごよみが再オープン)

③輪島は復旧途上だが、飲食店などが少しずつ再開、日常を取り戻そうという動きを感じる


④珠洲市は復旧途上。観光客が訪れるタイミング&ムードはまだ感じられない

⑤いくつか道の駅が再開。公衆トイレも使用可能になってきている

(一部、仮設トイレ利用あり)

⑥のと里山海道、珠洲道路、国道249号などレンタカーでの通行は可能だが本格的な道路修復が始まっているため速度制限があるほか、迂回や段差、隆起などが生じている箇所が多く運転には最大限注意(のと里山海道は7月17日から対面通行再開)

再開した道の駅輪島(ふらっと訪夢)。奥のトイレも利用可能になっていた(筆者撮影)
再開した道の駅輪島(ふらっと訪夢)。奥のトイレも利用可能になっていた(筆者撮影)

最初に目指したのは輪島市。まず立ち寄ったのが3月に再開したという旧輪島駅跡地にある道の駅輪島(ふらっと訪夢)。輪島市観光協会の案内所も兼ねている。

周辺には仮設住宅が並び、倒壊した住宅も多いが、営業をはじめた店舗も増えつつあり観光でも利用できる施設が出てきていると実感した。観光協会の方に教えてもらったのが、わじま観光デジタルマップ。営業している飲食店、土産店などの情報がアップデートされ、滞在中に実に便利だ。輪島市内の情報のみなので、これが能登全体で利用できるとより効果があるのではと思っている。

筆者がランチでうかがったののがゼロイチ。長年、朝市近くで営業し地元の人から愛されてきた「萬正食堂」が被災。知人の事務所を間借りして仮店舗として営業している食事処だ。筆者が選んだのはミックスフライ定食。工事関係者、ボランティアの人たちにお腹いっぱい食べてもらいたいとボリュームたっぷり。近所のご年配客なども立ち寄り、店内はなごやかな雰囲気。作り手の思いがこもったあたたかな料理は何よりのご馳走だ。

輪島滞在中に活用したい「わじま観光デジタルマップ」(筆者撮影)
輪島滞在中に活用したい「わじま観光デジタルマップ」(筆者撮影)

ボリュームたっぷりのゼロイチのミックスフライ定食(筆者撮影)
ボリュームたっぷりのゼロイチのミックスフライ定食(筆者撮影)

ランチ後は朝市通りを含め、港周辺をまわってみた。輪島キリコ会館(臨時休業中)にレンタカーを停めて歩いてみる。会館のすぐ横にあり、空き店舗だった建物は「mebuki -芽吹き-」と名付けられ輪島周辺でフランス料理、割烹、居酒屋などを営んでいた料理人たちがメンバーとなってカジュアルな料理店としてプレオープンの準備中だった(8月1日オープン予定)。彼らは地震・津波発生直後から炊き出しを行ってきたチームで、その機動力を活かして輪島の再生のために活動。現在クラウドファンディングで資金を調達しようとしている。

開業に向けて準備真っ最中のmebuki -芽吹き-(筆者撮影)
開業に向けて準備真っ最中のmebuki -芽吹き-(筆者撮影)

輪島キリコ会館の東側はマリンタウンと呼ばれる住宅エリア。わじま観光デジタルマップで見つけたパン屋 ラポール・デュ・パンがあった。「もう今日は種類が少ないんですよ、すみません...」と言われつつケースの中には丁寧に焼き上げられたパンが並んでいる。夜ごはんにといくつか買ってみた。みしっと噛みしめると小麦の香りが立ち上がり、口いっぱいに広がる。おいしいパンを食べたときの口福感は本当に贅沢なものだ。常連の方たちが入れ替わり買いにくる様子をみて、ほんの少しずつかもしれないが日常が戻ってきていることに胸が熱くなった。

マリンタウンに位置するラポール・デュ・パン。目の前には輪島港が広がる(筆者撮影)
マリンタウンに位置するラポール・デュ・パン。目の前には輪島港が広がる(筆者撮影)

もちろん現実はまだまだ厳しい。朝市通りは1月1日の火災のすさまじさを今も見せつけるし、通りにはTVニュースで何度となく映し出された倒壊したビルや家々がそのままの姿で残されている。

取材時の輪島市内の現状。その横で通勤・通学する日常が動きはじめている(筆者撮影)
取材時の輪島市内の現状。その横で通勤・通学する日常が動きはじめている(筆者撮影)

たくさんの観光客でにぎわった輪島・朝市通り。建物の公費解体が始まった(筆者撮影)
たくさんの観光客でにぎわった輪島・朝市通り。建物の公費解体が始まった(筆者撮影)

その状態の中、地元の友人や出会った人たちと話していると、多くの方が「今の能登、輪島を見てほしい」と語ってくれた。地震関連の報道がどんどん少なくなってきている現状に危機感を持っていること。震災のすごさを実際に体感し自分ごととして考えてほしいこと。共通の思いがあるように感じた。朝市通りも公費での解体が決まり、これから徐々に風景は変わっていくことだろう。その前にどれほどの出来事があったのか。現地を訪れて感じ、記憶に刻んでほしいと筆者も思っている。

キリコ会館から朝市通りへ歩いていく途中。あじさいが美しく咲き、季節の移り変わりを感じる(筆者撮影)
キリコ会館から朝市通りへ歩いていく途中。あじさいが美しく咲き、季節の移り変わりを感じる(筆者撮影)

名勝・白米千枚田。約8割に被害が出たが修復が行われ今年も田植えが行われた。隣接する道の駅は当面、休業予定(筆者撮影)
名勝・白米千枚田。約8割に被害が出たが修復が行われ今年も田植えが行われた。隣接する道の駅は当面、休業予定(筆者撮影)

このように七尾、和倉温泉に続き輪島も徐々に日帰り観光で訪れてもいいフェーズに入ってきているように感じた。翌日は珠洲市を訪れたがあきらかにこちらは復旧の途上で行きかう車も復旧関係やボランティア団体のものが多く、営業再開している道の駅や飲食店も関係者の利用が中心。また、あまり報道されていないが輪島市に隣接した穴水町も被害が甚大で復旧の途上であるように感じた。こういった場所は観光で訪れることで現地に負荷をかけることも考えられるため、当面は寄付をしたりオンラインで生産物を購入するなどの遠隔支援をしていくのがいいように思っている。

珠洲市の道の駅すずなり館。復興関係者などが休憩に立ち寄ってにぎわっていた(筆者撮影)
珠洲市の道の駅すずなり館。復興関係者などが休憩に立ち寄ってにぎわっていた(筆者撮影)

復興関連グッズを含め買って応援。現地に行けない場合はオンラインショップ活用もひとつの方法(筆者撮影)
復興関連グッズを含め買って応援。現地に行けない場合はオンラインショップ活用もひとつの方法(筆者撮影)

なお、今回、パトカーが各被災地の巡回をしているのをひんぱんに見かけた。石川県のみならず東京(警視庁)、静岡、広島、千葉、長崎など全国からの警ら部隊がパトロールを行ってくれていること。さらに数多くのボランティアの皆さんが地道に復旧活動に従事している姿も多く、感謝するばかりだ。

取材中、震災の傷跡を見るのはつらいものがあった。それでも、田植えがされた田んぼの美しさ、新緑のきらめき、鮮やかな夕景など心に染み入る能登の風景とも数多く出会った。今できること、見ておきたい場所から観光を再開させること。それが大切だと実感している。

トラベルジャーナリスト 寺田直子

観光は究極の六次産業であり、また災害・テロなどのリカバリーに欠かせない「平和産業」でもあります。トラベルジャーナリストとして旅歴35年。旅することの意義を柔らかく、ときにストレートに発信。アフターコロナ、インバウンド、民泊など日本を取り巻く観光産業も様変わりする中、最新のリゾート&ホテル情報から地方の観光活性化への気づき、人生を変えうる感動の旅など国内外の旅行事情を独自の視点で発信。著書に『ホテルブランド物語』(角川書店)『泣くために旅に出よう』(実業之日本社)、『フランスの美しい村を歩く』(東海教育研究所)など。

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