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ジャッジの本塁打を「ボンズの73本塁打」でなく「マリスの61本塁打」と比べるのは薬物だけが理由なのか

宇根夏樹ベースボール・ライター
アーロン・ジャッジ(ニューヨーク・ヤンキース)Aug 29, 2022(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 今シーズン、アーロン・ジャッジ(ニューヨーク・ヤンキース)は、55本のホームランを打っている。

 ジャッジと大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)のどちらがMVPを受賞するのかという記事とともに、ジャッジがロジャー・マリスのシーズン61本塁打を超えるかどうかの記事も目につく。例えば、MLB.comは「ジャッジは62本塁打のア・リーグ&ヤンキース記録を樹立できるのか?」と銘打ち、日々、ジャッジの本数とペースを掲載している。

 マリスは、通算12シーズンのうち、1960~66年の7シーズンをヤンキースで過ごし、1961年に61本のホームランを打った。もっとも、この本数は、60本塁打のベーブ・ルース(1927年)を超え、当時こそ最も多かったが、現在は歴代7位だ。マリスの上には、73本のバリー・ボンズ(2001年)、70本のマーク・マグワイア(1998年)、66本のサミー・ソーサ(1998年)、65本のマグワイア(1999年)、64本のソーサ(2001年)、63本のソーサ(1999年)が位置する。

 トップ6を占める3人、ボンズ、マグワイア、ソーサは、いずれも、ステロイドに関わりがある。そうでなければ――あるいは、そうであることが発覚していなければ――殿堂入りしているはずだ。3人とも、記者投票で75%以上の票を得ることはできなかった。

 通算本塁打トップ25のうち、殿堂入りしていないのは、1位のボンズ(762本)、4位のアレックス・ロドリゲス(696本)、5位のアルバート・プーホルス(セントルイス・カーディナルス/695本)、9位のソーサ(609本)、11位のマグワイア(583本)、13位のラファエル・パルメイロ(569本)、15位のマニー・ラミレス(555本)だ。ボンズ、ソーサ、マグワイアの3人と同じく、ロドリゲス、パルメイロ、マニーの3人も、ステロイドに手を出した。残る1人、プーホルスは現役選手だ。将来の殿堂入りは間違いない。

 ただ、ジャッジがボンズのシーズン73本塁打に届きそうであれば、マリスではなく、ボンズとの比較になっていたはずだ。驚異的なペースでホームランを打っているジャッジにしても、あと24試合で18本は、無理だと思われる。ここから15本を積み上げれば、70本に達するが、こちらも厳しい。最終的な本数は、多くても65本前後ではないだろうか。

 ボンズに加え、マグワイアとソーサも、ナ・リーグでシーズン60本塁打以上を記録しているので、マリスの61本塁打は、今日でもア・リーグのシーズン最多記録だ。こちらなら、ジャッジが上回れば、新記録と謳うことができる。また、ステロイドに関わりのあった選手を除く、という注釈をつける必要もない。

 ちなみに、ボンズ、マグワイア、ソーサの3人を除くと、ナ・リーグで1シーズンに最も多くのホームランを打ったのは、ジャッジのチームメイト、ジャンカルロ・スタントンだ。ジャッジが52本塁打の2017年に、マイアミ・マーリンズで59本塁打を記録した。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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