なぜバルサは“復活”に向けて前進しているのか?ペドリの唯一無二の才能と取り戻した決定力。
完全復活の日は、近いかもしれない。
バルセロナが調子を上げている。リーガエスパニョーラ第27節終了時点で3位に位置。来季のチャンピオンズリーグ出場権獲得に向けて、ポールポジションに立っている。
「これが現実だ」
ロナルド・クーマン前監督は、チャンピオンズリーグ・グループステージ第3節でバイエルン・ミュンヘンに0−3と敗れた後、そう語った。また、ジェラール・ピケも試合後に同様の感想を述べた。バルセロニスモ(バルセロナ主義)を、不安が襲っていた。
それから2ヶ月が経ち、クラシコに敗れ、続いてラージョ・バジェカーノ戦を落とし、クーマン前監督のクビがとんだ。「私はラポルタの監督ではなかった。そういった感覚が最初からあった」とはクーマン前監督の弁だ。
■監督交代と変化
クーマン前監督が去り、ジョアン・ラポルタ会長が選んだのはシャビ・エルナンデス監督だった。
バルセロナにとって、重要だったのは冬の移籍市場だ。シャビ監督を始め、補強担当のジョルディ・クライフ、マテウ・アレマニーFD(フットボール・ディレクター)がひとつになり成果を挙げようとしていた。
そして、フェラン・トーレス、ダニ・アウベス、ピエール・エメリク・オーバメヤン、アダマ・トラオレが加入した。
5500万ユーロ(約66億円)と高額な移籍金で加入したフェラン、38歳のアウベス、アーセナルで実質上戦力外になっていたオーバメヤン、ウルヴァーハンプトンで出場機会を失っていたトラオレ、こう記せば、補強の段階で疑問符をつける者がいても不思議はないだろう。
だがバルセロナは決定力を取り戻した。
冬の移籍市場が閉じる前の段階で、バルセロナは30試合で40得点を挙げていた。1月31日以降では、7試合で21得点を記録している。
■ペドリの存在と繋ぎ役
無論、バルセロナが復調したのは補強だけが理由ではない。大きかったのは、ペドリ・ゴンサレスの復帰だ。
ペドリは昨季、バルセロナでブレイクした。瞬く間にスター街道を駆け上がり、バルセロナとスペイン代表のレギュラーに定着した。一方で、試合出場数が増加した。2020−21シーズン、EURO2020と東京五輪を含めて公式戦73試合に出場。疲労が蓄積して、今季は度重なる負傷に苦しめられた。
ペドリが入ったバルセロナはまったく別のチームになる。彼が前線とディフェンスラインの「繋ぎ役」になるためだ。相手の守備陣形が崩れていれば、ボールを運ぶ。中盤では簡単にボールを失わない。トラオレやジョルディ・アルバがスペースに走れば、的確にスルーパスを通す。
「ライン間の動き、ボランチの背後を取るプレー...。ペドリを見ていると、(アンドレス・)イニエスタを思い出す。彼のようなタレントは、なかなかお目にかかれないよ」とシャビ監督が語るように、その才能は群を抜いている。
誤解されがちだが、ペドリはバルセロナのカンテラーノではない。ラス・パルマスのカンテラで育ち、バルセロナに移籍してきた。彼はカナリア諸島出身の選手である。フアン・カルロス・バレロン、ダビド・シルバといったタレントが育った場所だ。
■メッシの退団を乗り越えて
創造性豊かな選手が育ちやすい土壌で、ペドリは成長期を過ごした。
そのペドリの“ベビーフェイス”に、一瞬、相手は騙される。その実、老練で老獪なプレーヤーが、眼前には立ちはだかっているのだ。例えばアトレティック・クルブ戦で見せたミケル・バレンジアガを股抜きしたプレーはフアン・リケルメを彷彿させるものだった。18歳の選手が容易にできる芸当ではない。
時間と空間を操るペドリが、現在バルセロナの「羅針盤」になっている。
覚醒、という言葉は適していないかもしれない。もはや、彼はバルセロナで試合を支配する存在だ。
バルセロナは今夏、リオネル・メッシがパリ・サンジェルマンに移籍した。
バルセロニスタはメッシを失った。それでも、ペドリのようなタレントが出てきて、再び本拠地カンプ・ノウに人が集まるようになっている。また、そこにはシャビの帰還、積極的な補強、才能の出現と複数の要素が絡まる。バルセロニスモに光が差し込み、復権への道が照らされている。