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ウィシュマさんへの入管の医療措置は適切だったのか? ビデオ映像巡り攻防続く第6回弁論

関口威人ジャーナリスト
口頭弁論のため名古屋地裁に入るウィシュマさんの遺族ら(5月10日、筆者撮影)

 名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)で2021年3月、スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん=当時33歳=が収容中に死亡した事件を巡り、遺族が国を相手に約1億5000万円の損害賠償を求めて提訴した裁判の第6回口頭弁論が5月10日、名古屋地裁で開かれた。

 この事件と密接に関連する入管難民法の改定案が国会で審議されており、前日の9日には衆院本会議で法案が可決された。一部野党は入管行政に第三者機関や司法の目が入る根本的な改正を求めており、ウィシュマさんの妹のワヨミさん、ポールニマさんもそうした国会審議を見届けている。ワヨミさんは「姉の死の真相解明がないまま(衆院で)法案が通ったことに心配な気持ちもあった」としながら、この日は「今までと同じように裁判に臨んだ」と話した。

ビデオ映像の「編集」巡り国側が意見書

 弁論では、収容中のウィシュマさんの様子を写したビデオ映像について「まだ私たちの手元に5時間しかありません。あと290時間分、つまり全体の98%以上が、まだ入管の手の中にあります」とワヨミさん。

 ポールニマさんも「亡くなる前日と当日、姉は明らかに異常な状態があり、姉の命が危険な状態であることが分かるのに入管は何もしませんでした。このことを裁判所にも(次回以降の弁論で)傍聴に来た市民にもしっかりと見ていただきたい」と意見陳述した。

 ビデオ映像を巡っては、弁護団が5時間のうちの一部映像を約5分間にまとめたものが、4月5日の「文春オンライン」で公開されたのを皮切りに、マスコミ向けに素材として提供された。

 これに対し、齋藤健法務大臣が同7日の記者会見で「国が証拠提出し、裁判所で取り調べる映像の一部を原告側が勝手に編集してマスコミに提供した」と不快感を表すなど、波紋が広がった。

 この裁判でも被告の国側は同28日付で裁判所に意見書を出し、今回の原告の行為が裁判所の訴訟進行を「掣肘(せいちゅう・干渉して妨げる)するもの」「訴訟記録の複製(謄写)等に関する民訴法の趣旨を潜脱(せんだつ・法令等による規制を法令で禁止されている方法以外で免れる)すること」だと指摘。裁判所の考えを原告や被告に示した上で、「原告らによって同様の行為が繰り返されないように、適切な対応を講じていただきたい」と求めた。

 この意見書は法廷では取り上げられず、弁論後の非公開の進行協議で国側が取り上げたようだが、原告弁護団によれば、裁判所からはビデオ映像が取り扱いに「留意」すべき証拠であることは念押しされたものの、原告が厳しい注意や批判を受けることはなかった。原告側の駒井知会弁護士は記者会見で「私たちは手元にあるビデオについて、きちんと留意して取り扱いをしている。被告の方も速やかな訴訟進行にきちんと協力していただきたい」と強調した。

ビデオ視聴した医師が入管対応を問題視

 一方、証拠提出された5時間分のビデオ映像は、裁判所で閲覧の手続きをすれば原則だれでも見られるようになっている。筆者も4月中旬に手続きをして、5時間分をざっと閲覧した。確かに「イタイ」「(食べたいけれど)デキナイ」と苦しみ、もがくウィシュマさんに対して、入管職員や看護師は全体的に深刻には受け止めていなかったように見えた。

口頭弁論後の記者会見に臨むウィシュマさんの妹のワヨミさん(右)とポールニマさん(5月10日、筆者撮影)
口頭弁論後の記者会見に臨むウィシュマさんの妹のワヨミさん(右)とポールニマさん(5月10日、筆者撮影)

 その対応に違法性はあったのか。原告側は5時間分の映像を視聴した2人の医師の見解をまとめた新たな意見書と、それも踏まえてビデオ映像に記録された入管職員らの対応を仔細に検証した第7準備書面を提出。国側がこれまでの準備書面で「適切な措置」がなされたとする入管対応についての主張に反論している。

 その内容は次回のビデオ上映の様子と照らし合わせながら紹介した方がいいと思われるが、特に意見書で医師は「食べては吐く」を繰り返していたウィシュマさんに、入管職員がひたすら食事を与えようと(スプーンを口の中に押し込むように)していた対応や、ベッドから転落しても床に放置され、その間に体が危険なほど冷えていった可能性などを問題視。「実際に行われていた処遇は『適切な措置』とは言えないものであり、そういった意味では、ウィシュマさんは『医療を必要とする病人』と認識されていなかったのかと考えざるを得ない」と指摘している。

 また、ウィシュマさんは「詐病」の疑いも持たれて精神科で抗精神病薬「クエチアピン」を処方されたが、これが身体的に衰弱していたウィシュマさんの症状を悪化させた疑いも示唆。いずれにせよ5時間分の映像だけでは検討材料が限られるとして、医師もすべての映像開示を求めている。

 このほか、国側は「日本基準」で計算する慰謝料算定や収容継続の違法性などについて反論する第5準備書面を提出した。どれも重要な争点ではあるが、原告側の児玉晃一弁護士は「(被告側の)繰り返しの主張になっているので、必要な部分で反論したい。全面的に一個一個つぶしていくというつもりはない」と会見で述べた。

 次回、6月21日と7月12日に法廷でビデオ映像が上映される予定。

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。東日本大震災発生前後の4年間は災害救援NPOの非常勤スタッフを経験。2012年からは環境専門紙の編集長を10年間務めた。2018年に名古屋エリアのライターやカメラマン、編集者らと一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」を立ち上げて代表理事に就任。

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