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3x3で東京五輪を目指す矢野良子の覚悟。「身を粉にしてもオリンピックに出たい」<インタビュー後編>

小永吉陽子Basketball Writer
6月には日本代表として3x3のワールドカップに出場(写真/FIBA.com)

 20年間にわたるWリーグの競技生活から、3x3(スリーバイスリー、3人制バスケ)に転向した矢野良子。

 Wリーグから転向した矢野が、即戦力として6月のワールドカップ代表選手に選出された理由は「これまでのWリーグや国際大会での実績や経験」(3x3岡田卓也コーチ)を評価されたからだ。矢野以外のメンバーは、選考合宿を経て選ばれたことからも、矢野にかけられる期待度は計り知れない。

 ワールドカップ代表メンバーは、矢野のほかにJOMO(現JX-ENEOS)時代にチームメイトだった花田有衣と立川真紗美、バスケとラグビーの経験者である飯塚めぐみの計4名で組まれた。大会の結果は、中国に19-9で勝利し、オランダに9-16、オーストラリア8-18、ウクライナに9-15で敗れて1勝3敗。決勝トーナメントには進出できなかったが、世界の舞台に出て体感し、得たものは非常に大きかった。

 実際のところ、オリンピックの新種目になったとはいえ、3x3の強化体制が整うのはこれからだといえる。女子には男子のような3人制のトップリーグ『3x3.EXE(スリーバイスリードットエグゼ)』のような活動の場はなく、競い合う試合が少ないのが現状。「早急に試合の場を作らなければ東京オリンピックには間に合いません」と現状に危機感を抱いている矢野は、みずからが女子3x3界を牽引し、世界に通じる競技へと切り拓いていく覚悟で挑んでいる。

 インタビューの後編は、ワールドカップで得た収穫と今後の活動、3x3の課題について語ってもらった。


※矢野選手はインタビューでは3x3(スリーバイスリー)のことを「スリーバイ」と語っているので、文中ではそのまま表記。

◆インタビュー前編

右から矢野良子、花田有衣、立川真紗美、飯塚めぐみ(写真/FIBA.com)
右から矢野良子、花田有衣、立川真紗美、飯塚めぐみ(写真/FIBA.com)

3x3はフィジカルの強さと瞬時に判断する駆け引きが面白い!


――矢野選手がWリーグから転向したときは、まだ3x3は東京オリンピックの正式種目にはなっていませんでした。6月9日に正式種目になると決定したときはどんな気持ちでしたか?


「オリンピックの種目に決まる」とずいぶん前から言われながらも正式には発表されていなかったので、正式種目に決定したことで、気持ちが落ち着いたというのはありますね。


Wリーグとスリーバイを両立できたらと思っていた時期もあったのですが、『3x3をやります』という契約書を交わしたとき、「自分の進む道に後悔しない」と心に決めました。そして、6月9日の正式発表でさらに決意を固めました。スリーバイが東京オリンピックの正式種目に決まった日が私の本当のスタート。もうあとは、オリンピックに向かって進むだけです。


――3x3と5人制のバスケはどこが違いますか?


一番違うのはフィジカルの強さです。ファウルが鳴らないんですよ。ガツガツ当たられても、えげつないくらい捕まれてもファウルが鳴らなかったり、そういうことにメンタルが削られてしまうこともあります。あとは頭を使うこと。フィジカルの強さや頭を使うことは5人制でも必要なことですが、スリーバイは試合時間10分、攻撃時間も12秒しかないので、短い時間の中での状況判断力が必要になります。短い時間で攻撃をどう組み立てるか、瞬時に判断して考えて動ける選手でないと通用しません。これが5対5とは違う点であり、スリーバイの面白さでもあると思います。


――6月にはワールドカップに出場しました。実際に世界舞台で戦った手応えは?


目標としては決勝トーナメントに上がりたかったんですけれど、今回は合宿期間が短かったのもあり、チームとしての完成度はまだまだでした。大会を通して、自が通じた部分と通じない部分がわかったし、これからは強化が本当に必要だなと感じて帰国しました。私を含め、これからオリンピックを目指す選手が増えてくるのであれば、これはもう、たくさんの試合経験が必要だと痛感しました。


――通用したところと、しなかったところは?


対応できなかったのがフィジカルの部分でした。ファウルの笛があまり鳴らないことはわかっていたけれど、当たられても、引っ張られても、シュートを決める力はまだなかったです。どこまでが笛が鳴って、どこまでが鳴らないのか、強いフィジカルの中で決めきるのがスリーバイなんだと実感しましたね。


通用したのはシュートで、それ自体は通用したんですけど、得点が伸びませんでした。得点が止まったときに打開できるのが自分であればよかったんですけど、まだそこまではいっていません。オーストラリアとオランダ戦はあっという間に終わってしまい、全然得点が取れなかったので、10分のゲーム配分をつかむために、もっともっと実戦を経験していかなければと思いました。


あとはやっぱり、対戦相手との駆け引きが勉強になりました。予選で対戦したウクライナは3位になりましたが、試合前はウクライナには勝てると思っていたんですよ。でも実際にやってみると、シュートに対しての体の当て方が違ったし「頭を使ったゲーム運びをしているな」と思わされ、経験の差を感じましたね。それは実際に対戦してみないとわからないことでした。


――最初に出た大会がワールドカップということで、これから目指していく『世界基準』がわかったということですね。


私自身、海外の選手と対戦するのは久しぶりで、この感覚だけは日本だけでプレーしていてはわからないもの。オリンピックで戦う基準が知りたいからワールドカップに出たかったというのもあるし、転向してはじめて出た大会がワールドカップで良かったと思います。私を含めて日本の女子は国際大会での試合経験が浅いし、慣れていなかった。スリーバイは、ただ5対5のうまい選手が来てすぐにやれるものではないと痛感しているところです。

今後は強化体制を整えることが急務となる(写真/小永吉陽子)
今後は強化体制を整えることが急務となる(写真/小永吉陽子)

3x3は普及段階。これからは対戦相手も練習場所も自分で探して活動する


――5人制と3人制の違いはありますが、日の丸を身にまとい、再び『日本代表』選手になったことについては、どのような思いがありますか。


やっぱり、私は日本代表でやりたかったんだと思いました。もう一回オリンピックに出たいと思って現役にこだわり、オリンピック最終予選に2回出たけれど、あと少しのところでうまくいかなくてオリンピックには行けなかった。私の年齢を考えたら、もうあとがないわけです。そこで、スリーバイでオリンピックにいけるチャンスがあるのなら、私は身を粉にしてもチャレンジしてオリンピックに出たい。今、本当にそう思っています。


――現在、練習はどのようにしてやっているのですか?


練習は男子のクラブチームに参加させてもらっています。週に3~4回、シューティングをして体を慣らしてゲームをしています。あとはWリーグ時代から個人で契約している『竹田塾』というトレーニングジムにお世話になり、体作りをみっちりやっています。各種目のトップアスリートが通うジムなので、情報交換も勉強になります。

◆竹田塾(ピーク パフォーマンス ラボラトリー


――東京オリンピックを目指すために、当面の活動はどのようになりますか?

ワールドカップは日本代表として出場しましたが、これからは個人活動になります。今は9月いっぱいのジャパンツアー(9月30日/福井、10月9日/岡山)に出るために練習を頑張っていますが、それから先のことは何も決まっていないのが現状です。

スリーバイはポイント制なので、ポイントを稼ぐために試合に出なければなりませんが、その試合が国内ではあまり開催されないので、いずれは海外の大会に出ることも視野に入れています。日本代表の大会はポイントがなくても選ばれれば大会には出られますが、オリンピック選考のこともあるので、ポイントを取ってランキングを高くするほうが有利だと思っています。

――3x3は個人活動になるので、ポイントをつける試合は自分で探してエントリーして出ることになるのでしょうか。


そうなります。私の場合、今後も一選手としてトヨタ自動車に所属しますが、活動は個人になります。今までのWリーグではチームに所属していたら練習場所も試合もあったし、試合会場へのアクセスもチームが手配してくれたけれど、これからはすべて自分でやらないといけません。自分のスケジューリングは自分で組むし、試合相手を探さないといけないし、試合に出るメンバーも、それこそ練習場所も自分で探さないといけない。練習方法はコーチの方に相談に乗ってもらうけれど、基本的には代表活動以外は一人でやります。だから今は試合を探さなかったら、今後は何もないんですよ。ワールドカップが終わったここからがスタートなんです。

――女子は男子のように3x3のトップリーグがありません。当面の課題は、試合開催の場を作るということになりますか?


はい。試合をしないと強化にならないです。イベント要請は何件か来ているんですけれど、試合としては9月中のジャパンツアーで今年の活動は終わりです。スリーバイは独特のルールがあるので、慣れるには試合をして覚えていくしかないので、もっと試合数を増やさないといけないです。これはもう、早急にです。


――女子の3x3はまだ普及段階だと言えますね。


正直に言えば、まだオリンピックを目指す体制はきちんと整っていなくて、すべてがこれからといえる競技です。私自身も、練習時間以外は各方面でいろんな人に会って『イベントを立ち上げてもらえませんか』『試合の場を作ってもらえませんか』『男子のようにトップリーグを作ってもらえませんか』という話を持ち掛けたり、ミーティングをしたり、連絡を取り合って忙しい毎日です。これからも周りの人の協力を仰ぎながら、自分自身も動いていきたいと思っています。


――普及活動、対戦相手探し、毎日の練習、世界基準の強化。やるべきことが山積していますが、矢野選手の活動が今後の3x3の発展に結び付くことを期待しています。最後に、これからの抱負を聞かせてください。


スリーバイスリーで生きると決めたので、これからは国内のいろんなところに出没してスリーバイを広めていきたいし、自分からどんどん競技の魅力について発信していきたいですね。強化についても、今まで国際大会で戦ってきた経験があるので、人任せではなく、自分でもアイディアを出してやっていけたらと思います。とにかく、たくさんの人にスリーバイスリーを知ってもらい、試合を見てもらうことが、オリンピックへの強化につながると思って頑張ります。


◆JAPAN 3x3公式サイト

競技ルールについてはこちらを参照

矢野良子 Ryoko YANO

1978年12月20日生まれ、38歳、178センチ、徳島県出身。城北高を卒業後、ジャパンエナジー(現JX-ENEOS)入団。得点力のあるフォワードとして活躍し、2002年世界選手権、2004年アテネオリンピックに出場。ジャパンエナジーと富士通でWリーグとオールジャパン(全日本総合選手権)制覇に貢献。トヨタ自動車ではオールジャパン優勝を果たす。2017年、東京五輪から新競技に採用される3x3に転向。Wリーグからは去るが、今後もトヨタ自動車所属の選手として3x3で五輪出場を目指す。

Basketball Writer

「月刊バスケットボール」「HOOP」のバスケ専門誌編集部を経てフリーのスポーツライターに。ここではバスケの現場で起きていることやバスケに携わる人々を丁寧に綴る場とし、興味を持っているアジアバスケのレポートも発表したい。国内では旧姓で活動、FIBA国際大会ではパスポート名「YOKO TAKEDA」で活動。

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