会社側の立場で考えてみる…初判決「妊娠中の同意なき退職は無効」
●マタハラ裁判、判決の内容は?
東京都多摩市の建築測量会社に勤務していた女性(31)が、妊娠中に合意がないまま退職扱いされたのは不当として訴えを起こした。
2017年1月31日付、東京地裁立川支部は女性の請求を認め、会社側に未払い賃金など250万円を支払うよう命令。「妊娠中の同意なき退職は無効」という初判決を下した。
2014年に最高裁が「妊娠による降格は違法」という初判断を下したが、「退職は無効」とする判決は初めて。多くの女性が妊娠をきっかけに辞めさせられているので、この判決の意義は大きい。
●事件の経緯
女性は2014年10月東京都多摩市の建築業者に雇われ、建築測量の仕事をしていた。妊娠がわかったのは2015年1月のことだった。子どもの父親とは結婚していないシングルマザーということで、会社としては入社3ヶ月目で突然の妊娠報告を受けたかたちになる。
まずここで、女性は結婚していなくても妊娠するという少ない可能性も、会社側は今一度考慮しておく必要がある。
その後、建築会社側は、妊娠中は建築現場での業務を続けるのは難しいと判断し、関連派遣業者への登録を提案した。女性は提案を受け、2015年2月6日に1日だけ派遣先で就業した。
しかし、女性は派遣先が遠方だったため長時間通勤で体調を崩し、「自宅近くの就業場所に変えて欲しい」と連絡したところ、派遣会社から無視されたという。
その後、建築会社は「一身上の都合で6月11日に退職した」とする退職証明書と離職票を女性に送った。
これに対し女性側は「退職届も出しておらず、退職の合意はない」「これは実質的には、妊娠を理由とした解雇だ」と反論し、裁判になっていた。
参考記事:BuzzFeed News
●会社側の対応について
まずは、本当に建築現場での業務が難しかったのかどうか。女性側から業務を変えて欲しいという要望がある前に、会社側が先回りして配慮する必要があったのかどうか。私はマタハラ防止セミナーを企業に対して行う際に、「先回りした配慮は必要ない」と伝えている。ここから、女性の本来の意思を無視した掛け違いが起こり始める可能性があるからだ。
次に、派遣先は遠方の勤務地しか本当になかったのかどうか。自主退職を促す嫌がらせとして遠方にしたのではないのか。妊娠している状態で現場仕事はきついだろうという配慮で関連派遣業者への登録までさせたのなら、派遣先の勤務地まで配慮してあげるべきだったと思う。
けれど、もし本当に派遣先が遠方しかなかった場合、会社側はどうすればよかったのか。また、関連派遣業者など繋がりがない小規模な建築会社だったらどうすればよかったか。(本件の建築会社は従業員25名ほどと聞く。)
この場合は、会社全体で業務を洗い出し、補充が必要な内勤業務がないのか検討すべきだと思う。また、遠方への長時間通勤で女性は体調を崩しているので、女性側からの要望によってはひとまず休職してもらうという手段もあったかもしれない。医師の診断によって傷病手当がもらえるので、それで一定の収入を維持してもらい産休まで繋ぐという手段もある。
ただ、女性のキャリアや収入を考えると、体調が許すのであればなるべく産休まで働き続けるべきだと思う。
●中小企業でのマタハラ問題
「妊娠による解雇は違法」という今回の判例が出たこと、この1月1日からマタハラ防止措置が企業に義務付けられたことで、マタハラは今後ますますあってはならないこととして取り締まりが行われるだろう。
参考資料:企業が講ずべきマタハラ防止措置義務の内容
また、今回のケースのように、企業は産休育休の制度請求者に対し、その制度が利用できるよう制度にたどり着くまでの道筋をきちんと立てる努力も求められる。この道筋については、今後多くの事例が出てくれることを願う。
様々なケースに合わせ、どのような対応をすればいいのか、成功事例を共有し合い、それを現場で実行していってもらいたいと思う。判例だけでなく、現場はどのような対応をすればいいのか、その解決策がなければ、本当の解決にはなっていかない。
また、中小企業等少ない人数体制で事業を行っている法人で産休育休取得者が出た場合などは、国からの助成金も検討してもらいたい。たとえば、マタハラと言われないために「業務縮小を理由」にする事業主がいると聞くが、明らかに経営が傾いている場合には産休育休どころではないのだから、国からの支援を検討して欲しい。