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私学教員ストライキで新展開 農民一揆に学び、“傘連判状”の提出へ

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

 今月8日、東京都内千代田区にある私立・正則学園高校で教員(私学教員ユニオンに加盟)がストライキを起こした。

 同校では長時間労働や残業代不払いなどの違法状態が蔓延している。

 それに加え、数十人の教員全員が理事長室の前の廊下に一列に並び、一人ひとり理事長に挨拶をするという「儀式」への参加が毎朝求められる。

 そうした「ムダ」よりも生徒の指導を優先したいと、先生たちはストライキに踏み切ったのだ。こうした教員の動きには、社会的にも大きな支持が集まっている。

 参考:「ブラック私学」でストライキ! 私学に蔓延する違法状態は改善できる

 だが、事態はいまだ収束しておらず、ストライキは継続しているという。いったい、どうして、労使間の対立は続いているのだろうか?

 以下では、私学教員ストライキの「その後」について紹介しよう。

早朝の理事長への挨拶は強制でない?

 このストライキについての報道があった直後、学校法人側は「当学園に関する一部報道等について」と題する声明文を公開している。

 そこでは「当学園に関する一部報道において指摘を受けております、教職員に対する早朝挨拶の強要をしている事実はありません」という見解が示された。

 さらに、職員室のホワイトボードにも全く同じ文書が貼付されたという。これには教員たちも怒り心頭だという。

 そもそも、これは報道陣を対象とした声明文だ。それを一字一句変えずに、職員室のホワイトボードに貼っただけで、教員に対して「法人の見解を説明した」というのは、あまりにも非常識だろう。

 また、すでに紹介したように、正則学園には長時間労働や、未払い残業代など違法行為の問題が山積しており、朝礼の強制はその一端に過ぎない。

 だが、この「朝礼が強制だったかどうか」という問題に学校は焦点をあて、「反論」を展開しているのである。

 「生徒のために時間を使いたい」という苦渋の思いでストライキに踏み切った教師たちにとって、学校側の主張は許しがたいものであり、ますます先生たちの反発が広がっているという。

写真の説明:職員室のホワイトボードに貼付された声明文
写真の説明:職員室のホワイトボードに貼付された声明文

挨拶が強制であったことは明らか

 そもそも、約50人の教員全員が自由意思で、始業時刻の1時間半も前の6時半に毎朝出勤し、理事長へ挨拶し神棚に参拝するということは常識的にみて考えられないだろう。

 私学教員ユニオンによれば、理事長への早朝挨拶の強要については、多くの証言があるという。その一部を紹介しよう。

  • 校長から「専任教諭になりたければ朝早く来るしかない、うちの学校はそれが一番の評価だから」と言われた。
  • 寝坊して7時半頃に学校に行った時に校長や教頭から怒られた。その際に「部活動の顧問を外す」とか「部活動の合宿を取りやめる」などと脅かされたりした。
  • 皆が並ぶ理事長室の挨拶が終わった後、一人で挨拶した時に「遅れてすみません。おはようございます」と言ったところ、理事長から「バカ!アホ!出てけ!」と言われた。

 また、以下のような管理職と組合員のやり取りの記録が残っているという。

組合員:(理事長への早朝挨拶は)業務命令じゃないんですね?

校長:だからそうすると、(それを)理事長先生にいうと「じゃあ顧問外せ」とそういうような話になるんだよ。

組合員:なるほど。そういうこと言うんだったら顧問外せと。

校長:そういう心配が俺にはあるから…。

 これらが事実であるとすれば、早朝の理事長への挨拶が強制であり、「業務命令」であったことは明らかだろう。

教員側の反撃 “傘連判状”の提出へ

 そして、本日、法人側が挨拶の強制性を否定するのに対し、私学教員ユニオン側は教員全体の意思を示すために、組合に加入していない教員も含めて署名を集め、26人の連名で理事長へ提出したという。

 これで一般教員38名(専任教諭20名、非常勤講師18名)のうちの3分の2以上の意思が示されたことになる。

 署名の内容は、「理事長に挨拶をする行為は強制であった」「今後我々は理事長室へ挨拶に行かない」と主張し、「理事長室へ挨拶しに行くことを求めないこと」「理事長室へ挨拶に行かないことをもってして不利益な取り扱いをしたり、そのようなことを示唆する言動をとらないこと」を要求するものだ。これらは、いたって正当な主張に思える。

 だが、理事長は、教員らの話を聞こうとせず、「出ていけ」の一点張りだったという。途中から会話に加わった校長に至っては、「出ていきなさい」と連呼し「警告二回目。」「三回目。」「四回目。」と数秒後ごとに叫ぶという異様な対応だったという。

 他方で、教員らも、理事長らの強硬な姿勢に負けないように創意工夫をして対抗している。これまで一部の教員が個人的に理事長らに意見をしては、報復され潰されてきた反省を活かし、今回は署名の形式を工夫したのだという。

 具体的には、職場の3分の2以上の一般教員が集って署名したうえ、中心より放射状に署名することで誰が最初に署名したかが分からないようにし、個人への攻撃を回避しようしている。

写真の説明:教員が理事長に提出した“傘連判状”
写真の説明:教員が理事長に提出した“傘連判状”

 こうした署名を傘連判状(からかされんぱんじょう)という。これは、古くは、江戸時代に、農民が一揆を起こす際に首謀者がバレないようにするために採られた方法である。

 21世紀の教員たちが、江戸時代の農民一揆の知恵から学んで、理事長という権力者に対峙しているのだ。

ストライキ、傘連判状。団結は力なり

 正則学園高校における早朝の理事長への挨拶儀式については、ほとんどの人が無意味だとか馬鹿馬鹿しいといった感想を持つだろう。

 挨拶儀式をストライキすべきでないとか、儀式に参加すべきだと思う人はほとんどいないのではないだろうか。

 他方で、こうした儀式が30年以上続いてきたこともまた事実である。

 もちろん、ほとんどの教員はこうした早朝の挨拶儀式を嫌だと感じており、不満に思っていたという。だが、一人で主張したところで報復を受けてしまうため、誰も何も言えなくなってしまっていたのだ。

 職場で理不尽なこと、不当なことがまかり通ってしまうというのは、なにも正則学園に限らない。多くの私立学校では長時間労働や残業代不払いが横行している。日本全体でみても、ブラック企業が蔓延り、パワハラ・セクハラなど違法行為が絶えない。

 私たちは、こうした理不尽な目や不当な扱いに遭った際に、NOを伝えて改善を迫ることができるだろうか。そして、それに対するどんな報復にも負けず、一人で闘い続けられるだろうか。

 恐らくクビを縦にふれる人はほとんどいないだろう。

 それは無理のないことである。職場では経営者・管理職の権力は強く、一人で太刀打ちできるものではない。

 だからこそ、労働者は団結する必要があり、その団結を恒常的に保つためにこそ労働組合はあるのだ。そして、権力者に対し団結して要求する方法として傘連判状が、その要求を通すための有効な実力手段としてストライキがあるのだ。

 職場の理不尽なこと、不当なことを改善したいと思う方には、労働組合への加入を検討してみてほしい。

 職場に労働組合がなくても、誰でも一人でも加入できる労働組合であるユニオンが全国にある。ユニオンは職場の違法行為を無くしたいと思うあなたの助けになってくれるだろう。まずはぜひ一度相談してみてほしい。

無料労働相談窓口

私学教員ユニオン

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soudan@shigaku-u.jp

*私立学校で働く教員で作っている労働組合です。多数の学校に組合員がいます。正規・非正規にかかわらず、一人からの相談にも対応します。

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soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

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03-6804-7650

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*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

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022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)

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*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

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03-3288-0112

*「労働側」の専門的弁護士の団体です。

ブラック企業対策仙台弁護団

022-263-3191

*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。労災を専門とした無料相談窓口

過労死110番

03-3813-6999

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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