爆弾低気圧「キアラン」直撃で記録的暴風と最低気圧 英仏
キアラン(Ciaran)と名付けられた嵐が、2日(木)ヨーロッパ西部を襲いました。
記録的な暴風によりイギリスやフランスなどで12人が死亡、一時100万軒を超す世帯で停電となりました。ホテルの窓ガラスが割れたり、木片が家の壁に突き刺さったりするなどの被害が出たほか、大雨で道路が急流と化し、多くの車が水に流されたところもありました。
暴風と気圧の記録
キアランの影響をもろに受けたのが、イギリス南部とフランス北部で、ここでは次のような記録が観測されています。
【イギリス】
プリマス・・・気圧953.3hPa、イングランド地方における11月の観測史上最低気圧
セントアサン・・・958.5hPa、ウェールズ地方における11月の観測史上最低気圧
【フランス】
プルゴンヴラン・・・最大瞬間風速54メートル、観測史上最速
ランヴェオック・・・最大瞬間風速47メートル、観測史上最速
爆弾低気圧
「記録に残るような強い低気圧がやってくる」。イギリスなどでは数日前から、そう警戒されていました。
キアランは予報通り大西洋上で急激な発達をし、その中心気圧は24時間で36hPaも下がりました。「爆弾低気圧」の定義は24時間で24hPa以上の気圧低下ですから、まさしくこのカテゴリーに相当する強力な低気圧となったわけです。
スティングジェット
タイトルの天気図は2日(金)のものです。イギリス付近に中心気圧954hPaのキアランが見えます。
その中心には閉塞前線(ピンク色)がぐるぐるととぐろを巻き、そこから大西洋に向かって寒冷前線(青い線)が伸びています。その曲線はまるでサソリのしっぽのようにも見えます。実はこのとぐろを巻くしっぽの先端付近に、”毒針ジェット”と呼ばれる現象が起きていました。
正式名称はスティングジェット(sting jet)で、発達した低気圧に現れる特に強い強風域です。幅はせいぜい数十キロ程度で、発生時間も数時間と短いのですが、台風並みの強風を吹かせる恐ろしい現象として知られています。
実際、このスティングジェットが通過したフランスで、風速50メートルを超す記録的な風が吹きました。
ジェット気流
さて、何がキアランを発達させたかというと、強い偏西風の影響があります。
大西洋を隔てたアメリカ大陸で、この時期としてはかなり強い寒気がカナダから吹き下りているのですが、それが南の暖気とぶつかって大西洋上空のジェット気流を強めました。
このジェット気流が一因となってキアランは爆弾低気圧となり、よりにもよってピークの状態でヨーロッパにやってきてしまったのです。
どれだけ強いジェット気流だったのでしょうか。大西洋を飛行した航空機の速度を見ると一目瞭然です。
1日(水)にニューヨークを飛び立ったアメリカン航空106便は、対地速度が一時いつもより約300キロ速い1,250キロにも達したようです。結果、約1時間も早くロンドンに到着してしまったといいます。相当揺れたでしょうが、恩恵を受けた人も少なからずいたようです。