記録破りの「カテゴリー5」ハリケーン、ジャマイカ直撃へ
「ベリル」という名のハリケーンが大西洋に発生しています。
一時ハリケーンの階級としては最強の「カテゴリー5」まで強まり、統計史上もっとも早い時期にこの海域に発生した最強ハリケーンとなりました。
カテゴリー5とは、中心付近の最大風速が70メートル以上のハリケーンをさします。1年間の平均発生数は0.5個で、ほとんどが9月以降に出現します。
ベリルは1日(月)にカリブ海の国グレナダを、同国の観測史上、最強の強さで直撃し、壊滅的な被害が出たと報じられています。グレナダは「スパイスアイランド」という別名があり、ナツメグの世界的な生産地として知られています。
(↓グレナダ・カリアク島の被害)
ベリルの進路
ベリルは今度どこに向かうのでしょうか。
3日(水)には、カテゴリー3以上の強さで、ジャマイカを直撃する可能性が高まっています。ジャマイカといえば、陸上選手のウサイン・ボルト、およびレゲエの神様ボブ・マーレの出身国です。
ハリケーン警報が出され、島民に避難が呼びかけられています。島には2,000メートル級の山もあるため、高潮や洪水、強風の被害に加え、土砂災害の心配も募ります。
7日(日)にはメキシコへ上陸する可能性もあります。同国は2週間ほど前にトロピカルストーム「アルベルト」の上陸で、4名が亡くなったばかりです。
なぜ大西洋がこんなに熱いのか
ベリルは統計史上初めて、7月前半に発生したカテゴリー5のハリケーンとなりました。発達も急で、風速17メートル未満の熱帯低気圧であったものが、42時間で風速50メートルを超えるハリケーンへと成長しました。
これほどの急激な発達ぶりは過去に6例しかないうえに、これほど早くに起きたことは一度もないと言います。
その原因は、海の記録的高温によるところが大きそうです。上は、1日(月)の大西洋の海水温です。現在ベリルは海面温度が30度もある海域を移動しています。平年より2度も高く、真夏並みの高温といえます。通常、ハリケーンが発達する海水温は26~27度以上といわれています。
大西洋は、昨年初めから過去に例のないような異常な高温が続いています。
下は大西洋の日ごとの平均海面水温をグラフにしたものです。青線が過去40年間の各年の推移、赤線は昨年と今年の水温を表しています。赤線がいかにこれまでの記録とかけ離れていることが一目でわかると思います。
海水がいきなり高温になった一因には、2020年から始まった、船舶燃料の二酸化硫黄の含有量の引き下げが関係しているという説があります。
燃料規制のおかげで空気はきれいになったものの、二酸化硫黄には水蒸気と反応すると、雲を作ったり、太陽光を反射したりする働きがあります。つまり、青空が広がった代わりに、太陽光が地球に入り込んできてしまったというわけです。
間の悪いことに、今夏はハリケーンの発生には好環境となるラニーニャ現象も始まるため、大西洋で前代未聞のハリケーンシーズンになるだろうと危惧されています。
ハリケーンの行く先には、世界最大の農業大国であり経済大国でもあるアメリカがありますから、甚大な被害へと広がる恐れも否定できません。