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10連休の収入減対策の無責任 国は「企業に配慮を期待する」

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

 平成最後の10連休が巷をにぎわしている。

 本来は楽しいはずの連休だが、ブラック企業に出勤を命令されて遊びに行けない、そもそも旅行に行くお金がないから自宅にいるしかないなど、暗い話題も多いように思う。

 そうした中で、ITmediaが配信した記事が注目されている。主婦向け人材サービス「しゅふJOB」が「働く主婦」1000人に対して行った10連休に関する調査結果の記事だ。

 「GWの10連休は「うれしくない」? 働く主婦の本音」

 この記事によれば、調査に答えた43.5%の「働く主婦」が10連休を「嬉しくない」と答えているという。「嬉しくない」理由の一位は、収入減(47.8%)だ。

 こうした声は、「働く主婦」だけでなく、時給で働く非正規労働者全体に共通する悩みではないだろうか。

連休の収入減で手取りは一桁に

 1日8時間、時給1000円で就労しているとすると、一日の賃金は8000円になる。土日休みの週5日勤務だとすると、今回の連休で8日分の賃金=64,000円の収入が減ることになってしまう。

 時給1000円で働いている場合、一ヶ月あたりの手取りは一桁代の収入になるだろう。

 実際に、フルタイムで働く非正規の賃金は男女計平均で210.6万円である(賃金構造基本統計調査)。非正規女性に限ると189.7万円とかなり下がる。

 月当たりに直すと、男女計の平均が17.6万円である。なお、ここでの「賃金」とは、税金などが控除される前の金額である。

 また、「平成26年就業形態の多様化に関する総合実態調査」によれば、契約社員の場合、税込みで20万円未満が52.3%、30万円未満は84.7%に上っている。

 同様に、派遣労働者の場合には、20万円未満は55.3%、30万円未満は84.6%にも上る。

 今回の10連休は、ただでさえ定収入の、時給単位で働く契約社員や派遣社員たちの生活を直撃する恐れがあるのだ。

 特に心配なのは、製造派遣のように、社員寮住まいで、不安定な雇用で貯蓄が少なく、収入減がライフラインの喪失につながりかねない人たちだ。

連休中の賃金保障は、企業がすべき

 しかし、よくよく考えると、なぜ普通に働いている人たちが連休で悩まなければならないのだろうか。

 これは、あまりにもおかしい。なぜなら、休みを決めたのは国で、仕事を休みにすることに決めたのは会社だからだ。働いている人たちには何の責任もない。

 いうまでもなく、働くのは生計を立てるためであり、それを前提に使用者は労働者を雇っている。

 したがって、時給単位で雇っているのであれば、それで生活が成り立つように雇わなければ、企業側は無責任だということになるし、国はそうした賃金で生活している人が多数に上るという「現実」を踏まえて対策を打つべきなのだ。

 実は、「連休中の収入保障は使用者が行うべきだ」ということについては、国も認めている。

 言い換えれば、国は、上のような「連休で生活が成り立たなく」という問題に対して、連休を定めた国ではなく「企業が責任を負うべきだ」というスタンスをとっている

 あまり報道されていないが、今年2月25日付で出された「即位日等休日法の施行に伴う大型連休への対応について」では、「時給・日給労働者の収入減少への対応」として「労働者に早めの準備を促すとともに、関係団体等に対し業務状況に応じ雇用主の労働者への適切な配慮を期待する」と書かれている。

 しかし残念ながら、これは使用者にとって法的義務ではない

 国は、時給労働者の生活に大きな影響を与える制度を作っておきながら、企業に責任を丸投げし、しかも実効性の担保もしていない。極めて無責任な状況にある。

 そこで、政府が「期待する」ような収入保障を実際に履行させるには、労働者側と会社の間での、個別の交渉が必要となってくる。

労働組合を活用して不安を解消

 こうした労働の諸問題に対し、「話し合い」で解決するための制度が、労働組合(ユニオン)である。

 労働組合は、憲法と労働組合法によって強く保障された制度である。使用者には、労働組合との団体交渉に誠実に応じる義務があるし、争議権は要求を実現するためにストライキする権利などを組合に保障している。

 個人で加盟できる労働組合に加盟し、労働組合と一緒に会社に連休中の収入保障を要求すれば、収入保障を得られる可能性も十分ある。

 まともな事業主であれば、労働組合側の「配慮」の要請に対し、むげな回答をすることはないだろう。話し合いの回路さえ開かれれば、多くの不安は解消されるはずだ。

 

 実際に連休期間中の休業補償を労働組合が交渉で勝ち取った例もある。

 9連休となった2007年のゴールデンウィーク、製造工場で働く派遣社員たちのユニオンが連休中の収入減を賄うための「連休手当」を支払うことで、業界大手企業と合意したのだ。

 連休手当は翌月に、1人あたり3万円、すべての派遣労働者に対して支給された。3万円という金額設定は、労基法上の休業手当に準拠した、社員たちの平均賃金の60%の額となっている。

 このように、会社と労働組合を通じて話し合うことで、適切な手当の支払いを実現できる可能性があるのである。

 興味を持たれた方は、ぜひ、労働組合(ユニオン)の活用を検討してほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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