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アフターコロナのコミケ102、当日参加も可能に 変更点や徹夜・転売対策は?

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
50回近く使用されている会場の東京ビッグサイト=東京都江東区(鵜久森裕撮影)

 世界最大の同人誌即売会・コミックマーケット(コミケ)102が、8月12日(土)と13日(日)に東京都江東区の東京ビッグサイトで開催されます。新型コロナウイルスが5類に移行してから初の開催で、コロナ禍にあった厳しい来場者制限を大幅に緩和する方針です。

1日10数万人規模に大幅緩和

C101の東展示棟のサークルの様子(鵜久森裕撮影)
C101の東展示棟のサークルの様子(鵜久森裕撮影)

 5月8日に新型コロナウイルスが5類に移行したことで、イベント開催時の感染防止策のガイドラインや要請が撤廃されました。これにより、コミケ102(C102)ではコロナ禍以降初の制約がないコミケ開催となります。そのため入場時の検温やマスク着用義務もなくなっています。

 ただし、安全確保を目的とした人数制限は実施する予定です。1日あたりの来場者数は、入場が事前チケット販売のみだったC101では9万人と明確に設けられていましたが、C102では「10数万人程度を予定」としています。参考までに、最後の通常開催だった夏コミケのC96では、1日あたり16~20万人という来場者数でした。

 コミケを運営するコミックマーケット準備会(以下、準備会)としては、いきなりコロナ前の1日20万人弱の来場規模には戻さず、まずは10数万人という規模から段階的に戻していくものとみられます。

希望者が原則参加できるコミケに復帰

コロナ禍のC99~C101の南展示棟2階にあった入場時の検温レーンの様子。C102からは撤廃される(鵜久森裕撮影)
コロナ禍のC99~C101の南展示棟2階にあった入場時の検温レーンの様子。C102からは撤廃される(鵜久森裕撮影)

 1日の来場者数が大幅に緩和されることで、入場の方法もC101から大きく変更になります。代表的なものが、当日会場を訪れても13時半以降であれば入場券のリストバンドを購入して中に入れるという点です。

 C101では完全に事前販売のチケットのみで、このチケットの購入にあたっては抽選もありました。そのため、コロナ禍のコミケでは一般参加したくとも、チケットが運良く手に入らないと参加できない状態でした。それが今回からは入場時間を選ばなければ、原則誰でも入れる状態に戻ります。

 事前にリストバンドを購入しての来場は2019年8月のC96から導入されていましたが、この体制に復帰する形になります。リストバンドは11時以降入場可能な「午前入場リストバンド型参加証」と13時半以降の「午後入場リストバンド型参加証」に分かれており、午前は事前販売のみとなります。

 事前販売は、大手アニメグッズショップのアニメイト、とらのあな、メロンブックスで取り扱っています。販売期間は店舗に行けば、8月13日(日)までの開催当日でも購入可能です。リストバンド型参加証の価格は、午前入場が1210円。午後入場の店舗価格が550円、当日の会場価格が500円(いずれも税込)となっています。

チケットによる徹夜対策は継続

C101の東展示棟の様子(鵜久森裕撮影)
C101の東展示棟の様子(鵜久森裕撮影)

 一方で、コロナ禍以降変わったもので継続したものもあります。まず、開会時間が10時30分に据え置きになった点です。コロナ禍前は先着順に一律10時に開場していました。そのため、前日夜からの徹夜待機列の存在が問題視されていました。徹夜行為は準備会が禁止しています。

 コロナ禍に入ったC99では入場時間が指定されたチケット制になり、開会時間の10時30分に入場できるチケットは「アーリー入場チケット」として午前入場チケットとは区別されていました。

 入場時刻がチケットで完全に区分されたことにより、コミケの慢性的な問題だった徹夜列が解消されました。これはコミケの半世紀近い歴史の中でも初めてのことです。また、これに伴い始発列車による早朝待機列も解消しました。

 C102でもこの「アーリー入場チケット」を販売しています。「アーリー入場チケット」の購入は抽選受付をし、当選した人だけが発券できる仕組みになっています。価格も5000円(税込)と、午前入場リストバンド型参加証の1210円の4倍以上になっています。

アーリー入場チケットの必要性

C101の東展示棟の様子(河嶌太郎撮影)
C101の東展示棟の様子(河嶌太郎撮影)

 コミケをよく知らない人からすると、「入場時間が30分しか違わないのに5000円も出す人がいるのか」と思われる方がいるかもしれません。実はコミケにおいて、入場時間が30分違うことは非常に大きな意味を持ちます。

 まず人気が高く頒布数が少ないサークルの場合、開場して30分以内に完売してしまうところもあります。つまり、「アーリー入場チケット」じゃないと手に入らないような同人グッズや同人誌が一定数あるというのが一つの背景としてあります。

 近年では通販でも展開したり、同人ショップに委託したりするサークルが増えて来ていますが、コミケ会場でしか頒布しない方針のところもまだあります。会場での頒布数が少なく通販や委託販売も行わない“少数精鋭”の人気サークルのグッズや同人誌はファン同士で高値で取引されることがあり、中には転売の温床にもなっているところもあります。

C101の西展示棟の様子(鵜久森裕撮影)
C101の西展示棟の様子(鵜久森裕撮影)

 全体ではこうしたサークルはほんの一部で、会場頒布のみの人気サークルの場合十分な在庫量を確保しているところが基本です。そのサークルの頒布物を手に入れるだけなら、11時入場の「午前入場リストバンド型参加証」でも十分と言えるでしょう。

 ただし、1人で会場頒布のみの人気サークルを複数回りたい場合も「アーリー入場チケット」の必要性が出てきます。開場して午前中は人気サークルの待機列が次から次へと増え続けていきます。11時入場の場合人気サークルの列が既に伸びており、入手に1時間かかることも珍しくありません。その後12時に他の人気サークルの列に並ぼうとしても、完売してしまっていることがあります。

 これが10時半に入場できることで、列がまだそれほど伸びていない段階で並ぶことができ、15分などで手に入れることが可能です。そうすればその後別の人気サークルに並んで入手することが可能になるというわけです。

転売対策が今後どうなるか

C101の企業ブースの様子。南展示棟に配置されるのが定着しつつある(鵜久森裕撮影)
C101の企業ブースの様子。南展示棟に配置されるのが定着しつつある(鵜久森裕撮影)

 コロナ禍以前のコミケは、列に早く並んだ者勝ちの言わば“弱肉強食”のところがありました。サークル側も、それが当たり前のように早く来た人から頒布していく考え方が主流でした。そのため徹夜列がなくなることがなく、中にはこの徹夜列に大勢の買い子を並ばせ、人気サークルの頒布物を転売目的で仕入れる転売ヤーの存在も目立っていました。

 ところが、コロナ禍で参加者が一律の時間に入場できなくなり、徹夜列もなくなりました。さらに人気サークル側も区切られた入場時間別に頒布数を調整するところが出始めてきています。これにより、より多くの参加者に均等に頒布物が行き渡るようになり、転売対策にもつながっている側面があります。

 今回は事前購入すれば11時に入場できるだけに、サークル側はこの対応をする必然性は薄れています。コミケから転売行為がなくなったわけではありませんが、コロナ禍で入場のシステムが一変したことで、転売がかなりやりづらくなった側面があります。

 40年以上に及ぶ問題だった徹夜問題はほぼ解消されたといえますが、特に2000年代以降の問題として浮上している転売対策が今後どうなっていくのか。これは運営の準備会側だけでなく、頒布するサークル側の姿勢も問われるだけに気になるところです。

ライト層をいかに取り戻せるか

C101の企業ブースに出展していた浜松市のブース。浜松市舞台の『夢見る男子は現実主義者』が現在テレビアニメ放送中だ(河嶌太郎撮影)
C101の企業ブースに出展していた浜松市のブース。浜松市舞台の『夢見る男子は現実主義者』が現在テレビアニメ放送中だ(河嶌太郎撮影)

 コロナ禍のコミケで失われてしまったものとして、興味本位で訪れるライト層の存在があげられます。こうした人たちは午後に来場することが多く、そこで初めてコミケに触れたことでリピーター化し、出展側にまわることも珍しくありません。

 半世紀近い歴史を持つコミケでは幾度も世代交代をしてきましたが、1日20万人が集まる表現の場の多様性と持続可能性を支えているのは、若者を中心としたカジュアルな層と言っても過言ではありません。今回も午後入場に関しては当日参加が可能になっているのは、こうした歴史的経緯ともいえます。

 ところがコロナ禍で厳しい入場制限があり、特にこうしたライト層が訪れづらい情勢になっていました。今回から大幅に入場を緩和したことで、いかに興味を持って下さるライト層を取り戻せるのかどうか。昨年夏に100回目の開催を迎えたコミケですが、C102は次のコミケ100回に向けた事実上の一歩といえるでしょう。

C101会期中、会場最寄り駅のりんかい線国際展示場駅の一部の駅名標が「虹ヶ咲学園前」となっていた。東京ビッグサイトが舞台の作品『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』とのコラボの一環だ(河嶌太郎撮影)
C101会期中、会場最寄り駅のりんかい線国際展示場駅の一部の駅名標が「虹ヶ咲学園前」となっていた。東京ビッグサイトが舞台の作品『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』とのコラボの一環だ(河嶌太郎撮影)

ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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