青果物物流の改革 高鮮度倉庫・高機能車両・情報共有で「鮮度」を「時間」でなく「技術」で維持
昨今は様々な商品の価格が高騰している。とくに食材の値上がりは生活に直結するだけに影響が大きい。
そのような中で青果物は、肥料や資材などのコスト上昇だけでなく、収穫量が天候にも左右されて価格が大きく変動する。さらに青果物は「鮮度」によって商品価値が違ってくる。その鮮度を維持するために、産地での収穫から市場のセリに間に合わせるためのリードタイムが短い。「鮮度」を「時間」で維持してきたのである。
だが、それは物流へのしわ寄せで成り立っていたと言っても過言ではない。とりわけトラックドライバーの長時間労働によって青果物物流は支えられていた。しかし、ドライバー不足がさらに深刻化すると、「鮮度」を「時間」で維持してきたこれまでの仕組みは行きづまってしまう。
いわゆる「2024年問題」だが、青果物物流に限らずあらゆる分野で物流の再構築が必要になってきた。そのような物流の見直しの流れの中で、青果物物流の分野は相対的に遅れている。これは鮮度維持という商品特性上の課題や、産地から大都市の市場までの距離など物理的条件、さらに古くからの流通形態や商慣習などの問題があるからだ。そのような制約条件を、これまではドライバーの労働負荷や長時間労働でカバーし、国民の食卓が維持されていたのである。いま、その再検討が求められている。
農産物は産地によって収穫される時期や、野菜の種類が違う。また、産地から大消費地の市場までの距離に差がある。したがって全国の産地に共通する課題と、それぞれの産地固有の課題を抱えている。ここでは長野県の佐久地域で青果物物流の改革に取り組んでいる事例をみることにしよう。青果物の鮮度を保ちながらリードタイムを延ばし、ドライバーの負荷を軽減する試みである。
昨年10月に佐久市で「持続可能な青果物物流を実現する協議会準備委員会」が主催する「ベジロジサミット2024」が開催された。「ベジロジ」はベジタブル・ロジスティクスの意味で、青果物物流改革推進協議会とLLPベジロジが共催。オブザーバーとして国土交通省、農林水産省、全日本トラック協会も参加した。
長野県佐久地域におけるこの取り組みは、農産物輸送における「2024年問題」解決へのアプローチである。全国の産地が抱える課題解決へのヒントが得られるものと思う。
青果物物流は「鮮度」第一で、朝の収穫から予冷、手作業パレット積み替え、数カ所で積み込んで輸送し、市場に24時~25時到着
「青果物物流の第一の問題点は鮮度保持にあります」と話すのは、ベジロジサミットの中心的推進者である千曲運輸の中嶋剛登社長だ。
収穫~出荷~予冷~積込み~輸送~納品(市場)というのが一連の流れで、この間、青果物の商品価値である鮮度を保持しなければならない。予冷は真空予冷で3~5度に冷やす。出荷から予冷までは大きなパレットに載せて移動する。出荷から予冷は同一構内なので、フォークリフトで作業している。だが、積込み時には違うパレット(当該地域の主流は11×12)に移す。
このパレット間の積み替えは手作業で、1時間から3時間はかかるという。しかも積込みは1か所だけではない。ある地域では、同一村内に積込み場所が4カ所もある。さらに1パレットに段ボール10段積だったのを、少ない段積に手作業で積み替えることもある。この手作業による積み替えが労働時間を長くしている一因であり、ドライバーの労働負荷も大きい。そして複数の積込み場所を回ってトラックに積み、市場に向けて出発する。鮮度を維持するために当日集荷、当日予冷、当日発送が当たり前になっていた。
さらに急なトラック台数の変更も珍しくない。「当日の朝に台数を増やすように連絡が来ることもあります」(中嶋社長)。これには気候などの影響もあるようだ。野菜の種類によっては当初の出荷予定だったLサイズから、夜間の温度が高いと一晩で2Lサイズに成長してしまうこともあるという。
たとえば3万玉の出荷予定だったとする。Lサイズなら段ボール箱に16個入り、トータルでは1875ケースだ。それに合わせて必要なトラックの台数を準備する。だが夜間に2Lサイズに成長すると、12個入りで2500ケースになるので必要なトラック台数が増える。ちなみにMサイズなら段ボール箱に20個入るので、3万玉なら1500ケースですむ。このように同じ出荷個数でもサイズにより必要な車両台数が違ってくる。
さらに時間的な制約がある。農家の収穫は朝、出荷は9時から昼で、順次予冷をする。積込みの計画は13時で、基本的には翌日のセリの時間に間に合うように市場に届ける。だが、セリの開始時間の4時に間に合えば良いわけではない。現在は市場外取引が約9割を占めている。この市場外取引の青果物は、各市場で購入者に引き渡されている。
セリの開始は4時でも、市場外取引の青果物は24時から25時(午前1時)ごろに引き渡す条件になっていて、その時間に間に合うように運ばないと引取車両を待たせることになってしまう。このような時間指定などの制約もあって、積載率が低くても出発しなければならない車両もある。
また1台の車両で1カ所降ろしは少ない。注文ロットが大きければ1カ所降ろしもあるが、2、3カ所の市場で降ろすことが多いようだ。また、同じ市場内でも荷受会社が違うと何カ所かに降ろすことになる。荷降ろし場所が多いと、それぞれ待機時間が発生する。
一方、伝票処理など事務作業の非効率性もある。紙の伝票でやっているからだ。
高鮮度冷蔵倉庫・高機能冷蔵車両・データのプラットフォーム構築を推進して「時間」から「技術」による鮮度維持へ
このような青果物物流の諸課題をどのように解決するか。「これまでは鮮度を時間で維持してきましたが、これからは技術で維持するようにするべきです」(中嶋社長)。
ベジロジサミットでは、①高鮮度冷蔵倉庫、②高機能冷蔵車両、③情報システムを3本柱としている。さらにカレッジ(青果物物流事業者や従事者の意識や知識、技術の向上)と、プロジュース(青果物物流改革に必要な経営計画や設備投資などのコンサルティング)を加える基本構想を打ち出している。
高鮮度冷蔵倉庫からみよう。これまでは青果物の鮮度を維持するために予冷してからできるだけ早く運んでいた(収穫した当日に市場へ)。それに起因して様々な問題が生じていた。そこで長時間鮮度が保てるような高鮮度冷蔵庫を開発。葉采類など生鮮野菜のリードタイムの延長を実現するために、最低48時間(実際には72時間可能)鮮度が維持できるベジロジ倉庫をフードテクノエンジニアリングと共同開発した。昔の氷室のように青果物が汗をかかず、水分も失わないようにしたのがポイント。現在は、移動してデモンストレーションができるようにコンテナを改造したものにしている。
このベジロジ倉庫で出荷日を遅らせた青果物と当日発送の青果物を関係者に評価してもらった結果、①見た目や感触は変わらない、②ベジロジ倉庫で冷やした青果物の方が芯まで冷えているので店舗での棚持ちが良い、③段ボールも1日置くと通常は湿度で強度が下がるがベジロジ倉庫では強度が変わらない、といった評価を得たという。
構想としては、ベジロジ倉庫に広域から青果物を集約して予冷や保管をし、リードタイムの調整だけではなく、荷物を登録して販売情報も一元化し、トレーサビリティも行う。さらに自動ピッキングや自動パレタイズ(自動積み替え)による作業の効率化、1市場に1台の高積載率輸送も実現する計画だ。
次に、高機能冷蔵車両である。冷蔵車は冷風を循環させて庫内の温度を維持するようにしている。だが、積載率を高めるために天井まで荷物を積むと、エアフローが低下して庫内全体に冷風が均等にいきわたらなくなってしまう。さらに、最近は地球温暖化の影響で冷蔵効率が低下している。そこで庫内の内寸を減らすことなく、エアフローの向上と遮熱・断熱性能の向上によって冷蔵効率の良い車両をパブコと共同開発した。開発段階ではSDGsなども念頭に太陽光発電も検討した。しかし、重量の問題やウィング車という車体構造上の問題などから太陽光パネルの取り付けは難しいという結論になったようだ。
このベジロジ冷蔵車は、すでにデモ用車両で温度実績などのデータを収集中である。ベジロジ車両は、今までは1日で市場に届けていたのを、2日で運んでも鮮度が保てる冷蔵車で、すでに市販に向けて開発が進められている。
第三は情報システムである。ペーパレス化の取り組みでは、QRコードを活用して納品データを読み取る。画面をタップして受領を確認。これでペーパレス化を図る。
また、作業効率の面からは、荷受画面で青果物の品目、等階級、数量、産地、運送会社・車番、到着予定時間などが分かるようにした。到着予定時間に応じて荷受け担当者が予定を組めるので作業効率が向上する。
さらに青果物物流の情報プラットフォーム構築である。青果物物流に関わる関係者(消費者も含む)の一例をみると、生産者、JA農協・集荷場、JA県連・県本部、運送事業者、卸売市場、仲卸業者・売買参加者、レンタルパレット業者、実需者(トレーサビリティ照会など)などである。
このうち個々の取引関係者間においては、それぞれのシステムがある。だが、全体を通した情報プラットフォームはない。そこでベジロジでは、既存のシステムもベジロジプラットフォームを介せば共有化できる業界共通情報連携化を目指している。それぞれの関係者が現在使用している既存の業務システムをそのまま連携できるプラットフォームだ。
ベジロジ情報プラットフォームは、2025年度には実装化に向けた実証実験を行い、2026年には実用化を目指す予定である。