「営業はキツイ」はもう古い? 日本一の営業を決める『第5回S1グランプリ』大会レポート
■2021年「S1グランプリ」第5回大会の模様
営業が盛り上がっている。
信じられない思いだ。
この2~3年、とくにそう感じている。
象徴的なイベントが、2021年11月20日(土)に開催された。日本一の営業を決める大会『第5回S1グランプリ』である。漫才師日本一を決める「M-1グランプリ」を下敷きにした大会だ。選考方法などもよく似ている。私は第3回大会から審査員を務めており、今回も白熱した現場を目の当たりにした。
S1グランプリの運営チームは30代前後の若者たちで構成されている。全員がボランティアだ。営業のステータスを上げたいと願い、自主的に活動している。
実際に『S1グランプリ』は第1回大会こそ30名ほどしか集まらなかったものの、今回の第5回大会の申し込みは1600名を超え、オンラインで開催された大会当日は目で追えないほど参加者からの応援コメントが乱れ飛んだ。
ファイナリストとして当日プレゼンテーターを務めたのは3名。100名を超えるエントリーから選ばれた猛者たちである。プレゼンテーションはハイレベルだった。とりわけお客様の問題解決に「ここまでするか」と思えるほど注ぎ込んだ情熱ストーリー、圧倒的な実績を裏付ける創造性豊かな営業テクニックの数々は圧巻だった。顧客志向を突き詰めなければ、現代の営業活動において結果を出すことは難しい。そう強く思わせられた大会だった。
■#営業祭りがSNSでトレンドに!
「S1グランプリ」だけではない。
今年10月と11月にTwitter上で開催された『#営業祭り』でも、イメージを覆す盛り上がりを見せた。
10月15日(金)から3日間開催された『#営業祭り』というハッシュタグは、実に17.6万回も使用され、120万を超えるエンゲージメント(いいね、リプライ、コメントなどのアクション)を記録したという。名高い営業インフルエンサー4名が仕掛けたというが、主催者の一人である吉武利起さんは、
「まさかここまで盛り上がるとは思いませんでした。衝撃的です」
と手ごたえを語る。
「Twitterの世界に、これほど営業アカウントがあるとは思いませんでした。営業が好きって大きな声で発信していいんだって、みんな気付いたんじゃないでしょうか。そんな人たちがドンドン出てきて。メチャクチャ盛り上がりました」
吉武さんはまだ23歳。大学卒業後、社会人になってから営業を経験し、すぐに営業の魅力に虜になった若者のひとりだ。
「営業ってきついイメージがありますが、自己成長を実感できる凄い職種だと思っています。営業のマイナスのイメージを変えたくて企画しました」
「営業ってチームスポーツと似ていて、連帯感や仲間意識をすごく感じられる職種だと思います。厳しいけれど、だからこそ営業仲間とは深い繋がりを覚えられます」
ラグビーに打ち込んだ過去の経験をもとに語ってくれた。社会人2年目とは思えないほど、自信あふれた語り口だった。
11月17日(水)からも第2回の『#営業祭り』が開催され、この回には私も参戦した。Twitterのタイムラインが『#営業祭り』で占拠されてしまうほどの盛り上がりが見られ、まさにこのムーブメントを肌で感じることができた。
■なぜこんなに盛り上がるのか?
それにしても、なぜ今、これほど営業が注目されているのか。S1グランプリ事務局代表、古瀬貴大さんにうかがった。
「もともと僕は営業が好きで好きで、好きすぎて。自分自身でも営業コミュニティをボランティアで運営するぐらい好きです。ですから日本一の営業を決めるS1グランプリに関わったのは自然な成り行きでした」
「突き詰めると営業は人のためになる仕事。それを多くの人に理解してもらいたいし、だから営業のイメージを変えるために、このようなエンタメ要素の強い大会が必要だと思っています」
15年以上、私は企業現場で営業コンサルティング事業をやってきた。営業の難しさ、面白さ、どちらも噛みしめてきたつもりだ。そんな私が、こんなに清々しい気持ちになったのは久しぶりだった。
「古瀬さんの夢は何ですか?」という質問に対する答えは、これもまた驚くほど情熱的で、私は心を打たれたのだった。
「中学生とか高校生の『なりたい職業ランキング』で営業が1位になること。僕はそれを夢見ているし、現実にしたいと真剣に考えています」
古瀬さんは35歳。私よりも20歳ほど年下だ。古瀬さんや吉武さんのような若者こそが、営業の世界を変えていくことは間違いない。
■新しい時代に求められる営業職の台頭
実際に、営業の印象は大きく変化している。
転職市場に目を向けると、その傾向が鮮明だ。コロナ禍において、営業職の募集が急増しているのだ。エン・ジャパンの調べによると(2021年9月)飲食や小売りからの人材流出が激しく、その転職先の多くが営業職だという(49.1%)。
また、パーソルキャリアの調べでは、インサイドセールスやカスタマーサクセスといった「新しい時代に求められる営業職」の求人がこの2年半で【約7.4倍】になったという。
転職希望の営業職に提示される年収も上昇傾向にある。リモート営業などデジタル対応ができること。カスタマーサクセス等の新しいスタイルの営業経験がある人材はマーケットバリューが高い。即戦力であれば年収750万円を超える提示もあるそうだ。
SaaS企業など、サブスクタイプのビジネスモデルを採用する企業が増えたことも一因だ。LTV(顧客生涯価値)向上を目指す企業には、データを活用できる営業――とりわけカスタマーサクセス等の需要は高い。いずれにしても企業が売上をアップさせるうえで、近年営業の重要性が再認識されていることは間違いない。
■健全なスポーツ感覚
2週間ほど前のことか。過去に営業経験のある57歳のジャーナリストと話す機会があった。この方は、今も営業と聞くと、
「きつい。苦しい。できれば自分の子どもにはやってもらいたくない仕事だ」
と言っていた。
52歳の私には、その感覚がよくわかる。現場で支援していると、他の職種ではなかなか味わえないドラマチックな出来事、成長の実感を体現することはできる。しかしとはいえ、ツラいことのほうが圧倒的に多いように思うのだ。
しかし、前出した古瀬さんらの感覚は異なる。
「当然ツラいことは多いですが、他の仕事でもそうですからね。営業だけがキツいとかまったく思いません」
「お客様のニーズを理解し、そのニーズに応えられる商品を僕たち営業がお客様にきちんと届ける。そんな世界って素敵だと思いませんか。極端な話ですけれど、それが正常に行われていく社会ができあがれば、日本も世界も、もっとよくなっていきます」
古瀬さんは真剣なまなざしで、こう言い切った。
「僕は営業が元気になることで、日本が元気になると思っています。営業には世界を変える力があるんです」
古瀬さんたちが巻き起こすムーブメントは、まさに営業のイメージやステータスを変えようとしている。
■大企業もイメージ刷新に注力する
実際に、富士通は営業という呼称をやめ、「ビジネスプロデューサー」という表現を使いはじめている。真のビジネスパートナーとしての責務を担う、という意味でネーミングされた。
インサイドセールスもカスタマーサクセスもそうだ。「営業=売込み」というイメージが定着している現在、このように呼び名から変えるという試みは、営業のイメージ刷新に効果が高いように思う。
最後に。S1グランプリの参画をはじめ、私が近年いちばん強く感じたのは、まさに営業のイメージが変わりつつある、ということだ。まだ大きなうねりとはなっていなくとも、小さくとも確実にムーブメントとして存在感を強めている。
昭和的な発想だと「ツラい」「キツい」「泥臭い」イメージの営業。しかし現在は「健全なスポーツ感覚」と表現すべきか。厳しいし、実際に大変だ。けれども、仲間意識が醸成されるし、成長の実感も味わえる。ドラマチックで楽しい仕事。これが現代の営業のイメージと言える。
このイメージを持てるか、それともまだ昭和の感覚で営業の印象をとらえるのか。この違いは大きい。おそらくだが、この違いがわからない企業は、いずれ大きな格差を生み出すのではないか。世の中の企業経営者たちは、営業の新しいムーブメントから目をそらしてはならない。