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ラニーニャで熱帯域の積乱雲が多いものの、今年も台風の年越はない?

饒村曜気象予報士
気象衛星「ひまわり」の赤外画像(平成29年12月29日18時00分)

平成29年(2017年)の台風

 今年、平成29年(2017年)の台風は、7月に8個発生したものの、年間では27個発生と、平年より1個多い発生でした(表1)。

表1 平成29年の月別の台風発生数と上陸数
表1 平成29年の月別の台風発生数と上陸数

 また、7月に3号、8月に5号、9月に18号、10月に21号が上陸し、年間では平年より1個多い4個が上陸しました(表2)。

表2 平成29年の4個の上陸台風
表2 平成29年の4個の上陸台風

12月の台風

 平成29年(2017年)の初冬は、ラニーニャ現象がはじまっており、太平洋西部の熱帯域では、海面水温が高くなって平年より対流活動が活発になっています。

 このため、多くの積乱雲が発生し、その積乱雲が集まって12月14日にフィリピンの東海上で台風26号が発生しました。台風26号は西進してフィリピンを直撃し、大雨で大きな被害が発生しました。台風26号は、その後も西進を続け、22日に南シナ海で熱帯低気圧に変わりました。

 また、一週間後の12月21日に、フィリピンの東海上で台風27号が発生し、西進してフィリピンを直撃し、再び大雨で大きな被害が発生しました。台風27号は、その後も西進を続け、南シナ海で26日に熱帯低気圧に変わりました。

 その後も、太平洋西部の熱帯域では対流活動が活発です、大晦日の午前中には熱帯低気圧が発生するものの、平成29年中(2017年中)には台風にまで発達しない可能性が少ないと考えられます。

 そうなると、年末に発生した台風が、そのまま年を越すという「越年台風」は、17年連続ではないことになります。

 図1は、専門家向けの天気図ですが、大晦日の日にフィリピンの南東海上に「TD」と記してあるのが熱帯低気圧、台風の卵です。この段階では、台風ではありません。

図1 予想天気図(平成29年12月31日21時の予想天気図)
図1 予想天気図(平成29年12月31日21時の予想天気図)

 ただ、新しい年を迎える直前で台風になれば、17年ぶりに年越台風になります。

過去の越年台風

 台風に関する各種統計が作られている昭和26年(1951年)以降で、越年台風は5個ありますが、平成12年(2000年)の台風23号以降は越年台風がありません(図2)。つまり、21世紀になってから年越しの台風はありません。

図2 昭和の越年台風
図2 昭和の越年台風

 ちなみに、越年台風5個のうち、3個はフィリピン南部に上陸しています。フィリピンへは越年ツアーで多くの観光客がおとずれますが、台風はありがたくないというか、迷惑をかける観光客です。

21世紀最初の正月に20世紀最後の台風

 平成12年(2000年)の台風23号は、12月28日にフィリピンの東海上で発生したあと、向きを北東に変え、平成13年(2001年)1月5日に日本のはるか南海上で消滅しています。

 20世紀最後の台風である台風23号は、発生が12月30日9時と、最も遅い発生日時の台風です。

 21世紀最初の2001年の正月、フィリピンの東海上に台風23号があって北東に進んでいましたが、21世紀最初の台風である台風1号ではなく、20世紀最後の前年に発生した台風23号です。

 図3は、専門家向けの平成13年(2001年)1月1日9時の天気図で、一般的な天気図とは書き方が異なりますが、フィリピンの東海上にある台風の脇に「0023」という数字が記入されています。

図3 地上天気図(平成13年(2001年)1月1日9時)
図3 地上天気図(平成13年(2001年)1月1日9時)

 正式な台風番号は、年毎の発生順の番号に西暦の十位と一位を付けたものですので、「0023」は、平成12年(2000年)に23番目に発生した台風23号を意味する数字です。

 つまり、平成13年(2001年)の正月の天気図に書かれている台風は、平成12年(2000年)最後の台風です。

あまり意味のない統計

 フィリピンの東海上に発生する熱帯低気圧が発達し、新年になってから台風にまで発達する場合、1月2日9時までなら早い発生日時の台風ということになります。というのは、これまでに 最も早い発生日時の台風は、昭和54年(1979年)1月2日09時の台風1号であるからです。

 ただ、これは気象学的にはあまり意味がない統計です。

 というのは、台風は温かい海上で多く発生するということから、その年の台風シーズンは北半球の気温が一番低くなって、これから暖かくなる2月下旬から始まっていると言ってよく、1月は前年の続きだからです。多くの年は、1月に1個発生したあとはしばらく発生することがなく、2個目は4月から5月にかけて発生しているからです。

 したがって「正月なのにもう台風が…」ではなく、「正月なのにまだ台風が…」なのです。

図1の出典:気象庁ホームページ。

図2の出典:饒村曜(1993)、続・台風物語、日本気象協会。

図3の出典:気象庁資料。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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